1.17 冒険者ギルド
ガゼッツローゼンで代官と揉めたため、念のため王都に拠点を移す。
王女一行と別れ、ようやく王都が見えてきた。
眼前にそびえる巨大な市壁に、思わず息を呑む。
まるで山脈の一部が切り出され、そのまま都市を囲んでいるかのようだ。
高さは30メートルを超え、圧倒的な威容である。
市壁の上部には、槍と弓を構えた衛兵たちの影が見える。
距離のせいで彼らの姿はあまりに小さく、まるで鳥が並んでいるように見えるほどだった。
「こりゃ……防衛というより、威圧のための壁だな」
思わず独りごちる。
門の前には、すでに入城を待つ行列ができていた。
荷車に揺られた商人、旅装束の冒険者、土地の農民らしき家族など、誰もが緊張した面持ちで順番を待っていた。
俺も列の最後尾に加わる……なんてことはない。
まず俺が目指すのは冒険者ギルドだ。
市壁から少し離れたところにある、石造りの大きな要塞。
それが冒険者ギルド王都南支部だ。
王国にある冒険者ギルド支部では最大規模だそうで、防衛的でありながら、確かな格式と威厳を備えていた。
スイングドアを押すと、すぐにざわめきと酒の匂いが迎えてくる。掲示板には無数の依頼書が貼られ、カウンターの奥では数十名のギルド職員が応対に追われていた。
俺はまず、建物の奥にある解体場へ向かうよう指示される。換金対象となる魔物は、基本的にそちらで処理を受けることになっているらしい。
石床に囲まれた広い解体場には、すでに数体の巨大な魔物が横たわっており、係員たちが黙々と解体作業をしていた。
「そこに出していけ」
ガタイのいい寡黙そうな係員が、少し離れた空いたスペースを指さす。
俺は頷くと黒い穴からオークの死体を取り出す。
ドスンと音を立てて重なる死体の山に、近くの作業員が手を止めて驚きの声を上げた。
全部で400体以上。
戦闘中は気づかなかったが、明らかに装備が整っていて体格も大きいのが二十体以上いる。
おそらくオークナイトだろうが、俺には区別がつかない。
「確認する。そのまま待て」
係員たちがわらわらと集まって数を数えて査定していく。
「これオークキングだよな?」
「マジかよ」
「オークキング1体、オークジェネラル2体、オークナイト21体、オーク432体……こりゃすげぇな」
オークジェネラルやオークキングも混ざっていたらしい。
脳天をブチ抜けば全部一緒だから、よく分からなかった。
ちなみに俺が獲物を撃つときは、必ず頭部か首を狙っている。
前世では胴体に傷があると、食肉加工場によっては衛生上の懸念から解体処理を断る場合があるからだ。
査定の明細が書かれた木札をもらって受付に戻る。
「こちらへどうぞ」
案内されたのは、応接室というより取調室のような無機質な部屋に通された。
しばらくしてドアが開くと、キャリアウーマン風の美人が現れた。
鋭い目つきで、こちらを値踏みするような視線。
「私は支部長のビルテだ。田舎者には分からないだろうが、他の支部のギルドマスターよりも偉いんだぞ。覚えておけよ」
椅子に腰を下ろすと、足を組み、肘を背もたれにかけて俺を見下ろすような体勢をとる。
整っていた見た目のせいで余計に怖い。
「それにしてもFランクの小僧が一人でオーク四百体、ナイトが二十、ジェネラルにキングまで。寝言は寝て言えっての」
もはや疑っているというより、完全に俺が嘘をついている前提で話しているようにしか聞こえない。
「一体どうやって盗んできたのか、正直に言え!」
「盗んでません。僕が倒しました」
「あっ、そう? で証拠は? 目撃者は?」
これじゃ質問というより詰問だ。
「ラファエラ王女殿下の一行が襲われているところに加勢したので、近衛騎士団に問い合わせてはいかがですか?」
「作り話も大概にしろ! そんな間抜けな問い合わせするわけないだろ!」
真実だとは微塵も思っていないのだろう。
怒りの火に油を注いでしまったようだ。
「王族の名を軽々しく使うなんて不敬罪だが、今回は見逃してやる。規定に従って、戦利品は私が預かる。報酬の支払いも保留。調査が長引くと、せっかくのオーク肉が傷んで価値が落ちちゃうよなぁ!?」
それは脅しだった。
というより、“黙っていればうやむやにしてやる”という宣言だろう。
「……」
俺はどう反論したら良いのか分からなかった。
「話は終わりだよ。さっさと出ていきな!」
冒険者証を投げ返され、俺はギルドを追い出された。




