1.14 汚い大人
「おはようございます、ネイさん」
「おはよう、ルネ君。よく眠れた?」
「はい」
心配していた襲撃を受けることはなく、朝を迎えた。
俺はネイさんに場所を聞き、教会の資料室に行く。
この世界の法律が分からないため、きちんと調査しておこうと思ったのだ。
実際に質問したのは本屋の場所だったのだが、前世のような本屋は王都にあるかどうかも怪しいレベルらしい。
この世界の本は、学者や聖職者が獣皮紙に手書きで書き写すのが一般的らしい。
買うとしたら家一軒と同じくらい高価で、発注しても届くまで年単位の時間がかかるそうだ。
だからとりあえず教会の資料室に行ってみることにした。
だがこの世界の法律書を読むと、聖職者は教会法に、貴族は貴族法に、農民は領法に、市民は都市法と各々バラバラの法体系に従っている。
ちなみに冒険者ギルド、ギルドと名が付いているものの教会の下部組織になっている。
そのため、冒険者は教会法の管轄にっている。
更には裁判所の設置者である貴族や都市や教会や各ギルドが、裁判を開く権利を巡って争ったり……。
一度読んだだけで覚えるのは難しそうだ。
王都の本屋に行ってみることを決意して、昼食のため教会を出ることにした。
「そこの少年、待つのだ」
教会のエントランスで俺は、階段の上にいた身なりのいい男に呼び止められた。
教会の外にはガラの悪そうな連中が、剣や槍を持ってこちらをうかがっている。
「私はこの街の代官である。少年よ、オークキングを持っているというのは本当か?」
どうしてこんな道端で代官が声をかけてくるんだろ。
本当に代官なのか、怪しいものだ。
「質問の意図は?」
「黙れ! どうせ誰かから盗んだんだろ。見逃してやるから置いていくんだな」
カツアゲかよ!
「お断りしまーす。冒険者ギルド員は教会法の管轄なので、領法に従う義務はないですからー」
オークキングと白米で一人焼肉パーティをやるんだ。絶対に渡せない。
「依頼は受けてないだろ。子供が屁理屈を捏ねるな!」
屁理屈だと言うなら、ちゃんと反論してみろよ。
「山脈南側の探索は常時依頼ですよ?」
面々は押し黙る。
「少年の言う通りオークキングを山脈南側で倒したとしたら、倒した時点ではまだ冒険者ギルドに所属していないではないか!」
確かに昨日ギルド登録したばかりだから、魔物を倒した時点では冒険者ギルド員ではない。だがそんなことは大した問題ではない。
「山脈南側では、こちらの領法も適用範囲外ですが?」
面々は再び押し黙る。
「もういいガキを捕らえよ! 殺しても構わん!!」
法律戦では勝てないと悟ってか、武力に訴えることにしたようだ。
衛兵が一気に襲いかかってくる。
拘束するには多すぎるので、殺すのが最も楽な選択肢だ。
だが殺すと後が面倒なので他の選択を選びたい。
剣や槍を避けているうちに、衛兵そのものよりも、彼らの持つ剣や槍が厄介なのだと気づいた。
というわけで俺は空間魔法『テレキネシス』で衛兵全員から剣や槍を没収し、インベントリーに放り込んだ。
「まだやる? 今度は武器だけじゃなくて、おじさんの首も没収するよ?」
執事は地面にシミを作りながら、僕を解放した。
「じゃあ僕はもう行くね」
《《汚い》》大人はこれきりにしてほしい。




