1.9 旅立ち
「こんにちはー」
教会の入口から、女の声がした。
「いらっしゃい、ハンナさん」
「ねぇルネ、村を出ていくの……?」
「そうだよ」
「行かないでよ」
「ハンナだって出ていきたいっていつも言ってるくせに。ろくな飯が出ないのに、子供でも朝から晩まで働かされる。夜は子供の家に押し込められ、年上のガキ共に殴られる。自分で魔獣を討伐しても村の偉い人たちに奪われる。こんな地獄をまだ続けろと?」
「じゃあ私も連れて行ってよ!」
「嫌だよ」
「どうして?」
「一人がいい」
「一人で生きていけるわけないじゃない! 調子に乗らないでよ!」
こういう上から目線が嫌なんだよなぁ……。
「だったら死んだ方がマシだよ」
「死んだこともないくせに!」
あるよ、と言ってしまいたいが教えてやる義理はない。
「私のこと置いて行かないでよ……」
俺が困り果てていると、神父が口を開いた。
「ルネ君は魔術師ですから、王都の宮廷学院に特待生として入学するでしょう。ハンナさんも勉強を頑張って宮廷学院に入学できれば、向こうで会うことも可能です」
王都なんてあまりにも遠いので、向こうで会う可能性なんてほぼゼロだ。
神父の助け舟に、俺は胸をなでおろした。
「分かりました! 私、頑張ります!」
ハンナの頭が良いという話は聞かないが、せいぜい頑張れ。
翌朝、僕は村を出る。
僕が迷い子である旨の文書を神父が書き、村長も署名した。
「というわけで、僕はこの村の村民ではありません。つまり僕は村の財産共有の対象外というわけです」
「ふんっ! 子供が大した財産を持っているわけがないだろう!」
「そういうわけで、これを買い取ってほしいんですよ」
俺は討伐した素材を何体も取り出した。
「ワイバーンだ!」
「ギャーーー! 助けてー!」
「これ全部ルネが倒したのかよ!」
「何体あるんだよ!?」
ワイバーンが積み上がる光景に、集まった村民たちは腰を抜かしている。
村長に至っては、尻餅をついて地面に染みまで作ってしまった。
だが別のことを言い出す連中がいた。
「今晩はワイバーンが食べられるぞー!」
「ルネはこの村の住人だ!」
「魔術師じゃない!」
「「「「「ワイバーン! ワイバーン!」」」」」
瞬く間に村民たちは狂気乱舞に変わってしまった。
「僕はこの村の村民ではないので、ワイバーンは村の共有財産ではないですね。欲しければ買い取ってください」
「ぐっ……」
「「「「「肉! 肉! 買い取り! 買い取り!」」」」」
村民の盛り上がりがすごい。
ここで村長が買い取らなかったら、暴動が起きそうなほどだ。
「ふざけるな! お前の持ち物は村の共有財産だ!」
さっきと言ってることが全然違うぞ。
「僕は迷い子なのに?」
「くっ……」
「どうするんですか? 買い取りますか?」
「ふざけるな! 誰がお前から買うものか!」
村長は買い取りを拒否して、交渉は決裂した。
「分かりました。皆さんお元気でー!」
俺は空を飛び、北に向かって針路をとった。




