1.8 魔術師が追い出される理由
「どうして村長に迷い子だと言ってしまったのですか?」
神父に教会に連れて行かれると、どういうわけか俺は叱責を受けた。
「だって僕がヴォルフの息子のルネだったら、この村の住人ですよね?」
「そうですね」
「この村の住人は、私物は全て共有財産になりますよね」
この村には私物という概念が存在しない。
全てが村の共有財産だからだ。
「そうですね……」
「だからですよ」
「どういうことですか?」
「そういうことです。街に出て冒険者ギルドに登録するので、神父様は僕が迷い子である旨の文書を作ってください」
「わかりました……」
神父は渋々といった表情だが、承諾してくれた。
「ところで、どうして僕が魔術師だと追い出されるんですか?」
「ここはゲマイナール主義の村だからです。魔術は強大な力でしょう? みんなが持っていない力を持っている魔術師は不平等だから、魔術師は殺してしまえという考え方がゲマイナール主義です。王国全体では決して多くないのですがね……」
ということは、この村を出れば大丈夫なのか。
「数年前にオークの群れが現れたのを覚えていますか? 村長に頼まれて私は冒険者ギルドに依頼を出したのです。しかしやってきた冒険者パーティのリーダーが魔術師だったために、村長は村から叩き出してしまいました。魔術師を村に入れるなんて言語道断であると……」
「どうして? あのときは村の中にオークが入ってきたじゃないですか?」
神父が着任したばかりの頃で、内容は覚えていないが村長が神父に激昂していた記憶はある。
「私も理由を聞いたのですが、魔術師は敵だというばかりで……。この村はいまだに平等主義に染まっているのです……。村内にオークが侵入したというのに、村長は魔術の使用を許可しませんでした……」
「あのときは大勢の人が犠牲になりましたね……」
ルネには遺体が並ぶ光景を見た記憶がある。
「救えるはずの命を救えず、私にとっては苦い経験です。しかし村民の皆さんにとっては、オークが現れても平等主義を守り通した誇らしい経験なのだそうで……」
とんでもない因習村だな……。
「謎の掟を守りたがる村というのは珍しくありません。しかし信徒の生死より優先してしまう村は、かなり珍しいです……」
「そうなんですね……」
犠牲者まで出たら、魔術師の排斥は間違いだったと考えるのが普通だろう。
だがここの村民たちは、以前より強固に魔術師排斥を支持するようになってしまった。
埋没費用が大きすぎて、考えを変えることができないのだ。
「こんにちはー」
入口の方から、女の声がした。




