第七話 大武闘会にて
あれから一週間後、王都の外れで開催される大武闘会に向かうと人で溢れかえっていた。なんとか後ろの席に着き全体を見渡す。
時々売り子がやってきては飲み物や食べ物を勧めたり、下卑た輩は賭けを勧めてきた。
少し離れたところには騎士団もおり、まだ姿は見ていないがおそらくギンソウもどこかにいるのだろう。
最終日ということもあり割とすぐに終わりそうな予感がした。
パンパンッとそこら中で花火の上がる音がする。風船が空中を彷徨いそのまま遥か彼方へと消えていってしまうと、大きなラッパをベースにした音楽が鳴り響いた。
国王たちが来られた合図だ。
中央にある大きな塔を見てみると白い立派な髭を蓄え、白髪に豪華な冠をつけた老人と亜麻色の髪を一つにまとめこちらもまた、豪華なティアラをした中年ほどの女性が姿を現す。
2人共優しい目つきをしており、ゆるく手を振りながらあたりを見渡していた。10秒ほどそれを続けるとそのまま着席をする。
王がいる場所を除いて各所に七柱あり、その内六ヶ所から豪奢な服を着た人が現れる。
その奥からは空神族を除いた五人が次々と現れ、その横におそらく側近であろう者たちがつく。
各族長だ。
「…髪色によってどの一族かはわかるか?」
男はルゥトにそう聞いてみると、首をただ傾げるだけだった。
「左から、赤の髪は火神族。戦闘狂に見えて一番落ち着いた一族だ。…だが結婚にはうるさい。
深い青の髪は水神族。治癒魔法を使えるが腹黒いで有名だな。こちらは跡継ぎ問題にうるさい。
銀髪は雷神族。神秘が多く、他の一族と線を引いててわからないことが多い。恋愛結婚が主だな。
金髪は風神族。魔法科学が進んでいる。こちらは肉食系が多い。
茶髪が土神族。古い習性が多いという。女性から求婚をする習わしがある。
最後の黒髪が空神族。二年前の件の一族だ。結婚をせっつく。」
そこまで説明をして、たまたま聞いていた周りの人もルゥトも結婚に関してうるさいなと内心思う。
男的には思ったことを言っただけだったが、結婚を急いでいるように映ってルゥトとしては少し面白かった。
「今日戦うのはどこの一族なの?」
「空神族の“影”と無神族の女性だよ。どちらも強いとされているな。」
ワッと辺りが歓声に包まれる。そちらを見てみると、二人が入場をして向かい合っていた。ルゥトは困ったように眉を下げると男に問いかける。
「ねぇ、これって一対一の対決じゃないの?」
「今年度からはそうだな。」
「でも、あっち三人もいるわよ?」
そう指差したのは空神族の“影”の方であった。だが男にはどう見ても一人にしか見えず、首を傾げるがこの子が嘘をついているようにも見えない。
「……ねぇ、我儘を言ってごめんなさい。でも今日はもう帰りましょう?」
ルゥトはそう言いながら服の裾をクイッと引っ張る。その顔は真っ青で見ていられず、わかったとだけ言うとそのままコロシアムを後にした。
後日、大会で不正があったとして影の者たちは不敬として処刑され、優勝した女性は願いを届けたものの叶えられず、ただもやもやだけが残る結果となってしまった。
◇◆◇
嫌なものを観たり嫌なことをされると決まって昔を思い出す。
轟々と燃える家屋に逃げ惑う人々、助けを乞う声に絶叫。そしてそれを見下ろしている景色と、足元に広がる血だまり。
里がこうなっている事にホッとする気持ちと、一つの心配が同時に胸中に押し寄せる。
痛む全身を気にしないふりをしながら町に向かって血溜まりをわざとらしく踏みつけ、ピチャピチャと歩く。来た道には自分の足跡がくっきりと残っていた。
命が消えゆく中でまた一人、目の前で命を落とした。
そこから自分にしか見えないものが出てくると、自分に向かってフヨフヨと浮いていた。それを手に取りたいと希い手を伸ばすと、冷たくも温かい何かに触れた。
驚いてそちらを見ると、相手もまた驚いたようにこちらを見ていた。
今まで見たことのない程に綺麗な人間で、天使か妖精かと見間違うほどであった。
振りほどかれるかと思ったが相手からはなんのアクションもなく、目の前に浮かぶ物体に急かされたので少し握り締めるとゆるく握り返してくれた。
「家族は?」
そう問いかけられる。もう喋る気力もないのでゆるく首を横に振ると、「そうか」と呟き手を離し両脇を抱えて抱き上げる。
臭く醜く、不気味で悍ましかろう自分をなんの躊躇もなく、間近で正面からじっと見つめると、「災禍の子か」と驚きながら小さく呟いた。
ほんの少し遠くに見える不気味なものに目を向ける。
手足が何本もそこら中から生え、耳もいくつもあり、まるで肉塊のような物がそこかしこにある目からは涙を流しながら、赤子の産声のようなものを上げながら次々と人々を殺していく。
「…あなたは逃げないの?」
「そろそろ退散しようとしていたところだ。」
そのまま置いていくのかと思いきや、男はそのまま己を抱きかかえたまま里の外へと出た。
難しいように思っていたことは実は簡単で、最初から妹の手を引いてそうしていれば何か違ったのかと己を呪った。
目の前をフヨフヨと浮かぶ物体はただユラユラと揺れるだけで、喋ったりすることはついぞ無く、気づいたら消えていた。




