第三十七話 定食屋
それから市を回り、たまに族長会議の近況を聞いてはため息をつく。
どうやら男だけでなく、他の一族たちも現在は神殿にて、すし詰め状態らしい。それにほぼ毎日のように空神族長に刺客を向けては側近がそれを阻止していたが、火神族長にその側近が刺客を放ったとしてひと悶着あったんだとかなんとか。
目をキラキラさせて聞いていたトワも流石にその言葉にはキレてしまい、ルゥトが頑張って引きずる形でその場を後にする形になった。
そんな状態が七日間ほど続いた。
毎日変わらない近況。そして少しずつ減っていく観光客と、顕になる路地裏の状態。見ているだけで反吐が出るほどの惨状であった。
朝起きて顔を洗い朝食の席に座る。向かいに座るルゥトの手が進んでいないことに気が付き、声をかける。
「ルゥトちゃん食欲ないの?」
その声にハッとしたしたかのようにトワの方を向くと、大きく首を横に振りながら
「ううん! 少しぼーっとしてただけ! 大丈夫です!」
そう言うがよくよく見ると顔はおろか首元まで赤く、少し触れてみるとトワの手より随分と熱い。
ここ数日寒い中歩き通しで疲れたのだろうか。
「今日は宿でゆっくりする?」
心配そうに首を傾げるトワにルゥトはううんと首を横に振る。だが食事も禄に進まないのであれば、出掛けるものも出掛けられない。そう思い強制的に今日は一日休みにしようと思ったのだが
「今日はね、大丈夫」
どこかいつもより穏やかな顔でそう言うと、トワを見てニコリと笑う。
大丈夫と言っても何が大丈夫なのかがわからず、ただの強がりなのでは? と説得しようと試みるがルゥトは思っていた以上に……倍は頑固で「大丈夫なものは大丈夫!」 と首を横に振るだけであった。
「じゃぁ昼過ぎまで時間を……」
そう言いながらちらりと時計を見る。あと二時間ほどでその昼過ぎに当たるのだが。そう思いながらもまぁそれならと妥協点を見つけて「支度をしてきます!」 とぱたぱたといつもより時間をかけてルゥトは準備をし始めた。
ショルダーバッグの中には以前男にもらったブランドのぬいぐるみに、頭は随分と可愛らしい簪。
服装は以前男が買ってくれた白のモコモコしたポンチョ。中には黒のタートルネックのニットに、ベージュのスカート。
ルゥトはどこか誇らし気にフフン! と胸を張る。
「これで防寒はバッチリ!」
そう言いながら市を歩く様子に、トワは思わず微笑んでしまう。最初の方に比べて随分と人は減ったものの、それでも少しでも余所見をすれば人とぶつかるし、最悪、摺りをされる可能性が否めない状況だ。
トワはルゥトの手を取り、逸れないようにしながらいつものように市を見て回る。
ルゥトは偶に魔法石店に寄っては日常生活で使うような魔法石を買っては、嬉しそうに微笑んでいた。
そしてトワは魔法道具店に少し立ち寄っては今使っている杖と比較し、何か物足りないとため息を吐きながら店を出る。
「ねぇ、今日はあっちに行きたい」
いつもはトワが先導していたが、今日は珍しくルゥトが人の合間をスルスルと縫って歩く。
そしてまだ来たこともなければそもそも来る予定さえなかった場所に辿り着く。
簡素な定食屋の前。ルゥトは迷い無くその中に入るとキョロキョロとあたりを見渡すと、嬉しそうに目を輝かせながら、猫背の中年ほどの男に抱きついた。
だがやはり驚いた様子で男は振り向くと、その手が額の辺りに強く当たってしまい「いたっ!」 と言う声が響きわたってしまう。
「ル、ルゥトちゃ…」
謝ろうと二人に駆け寄ると、中年の男は少し泣きそうな顔をしながら掠れた声で
「………なんで、ここに…?」
と、ぶつかってしまった箇所を優しく撫でながらごめんと謝る。
「言ったでしょ、一ヶ月経っても戻ってこなかったら会いに行くって」
ルゥトのその一言に男はギュッと彼女を抱きしめた。
が、トワからしたら事案でしかない。ルゥトから抱きしめたものの、中年ほどの男がこの年の女の子を抱きしめるだなんて。否、男が彼女の父、もしくは兄の可能性もある。
そんなことを考えていると、ルゥトから離れた男の顔を見て驚く。
「元側付き様…?」
その声で初めてトワの存在に気づいた男は眉を顰める。
「覚えてるかしら、時神族の里で会った人なんだけど…」
男は覚えているのかいないのかよくわからない様子で「あぁ……」と呟く。覚えているいない以前に、興味なさそうだなとトワは思いながら胸の鼓動が高鳴るのを感じる。
男に会えたことと、ルゥトが男の居場所を突き止めたことに対する興味からだ。
「トワさん、お昼ご飯、一緒にここで食べましょ」
ルゥトは向かいの席を指差すとトワは「わかった……」と言いながら席に着く。ルゥトは真っ赤な顔をさせながらも、ニコニコと嬉しそうにデザートの林檎を頼み、トワは腹が減っているので焼肉定食を頼む。
一ヶ月と少しぶりの二人のやり取りを向かいで見る。
前回より随分と大人っぽくなった男に、ドキドキドクドクと胸を高鳴らせていると、男が頼んだのであろう焼き魚定食が届く。
トワはもっと女性らしさをアピールしたら良かったと後悔しながらも、その後出て来た焼肉定食に箸を伸ばした。




