第十七話 厄除け
あれからルゥトを背負ったまま三時間ほど歩き通し、ようやっとで里につく。
里と言っても国と言っても遜色ないほどの広さと人口、文化を誇っておりただ「火神族が率いているから」という理由で里と呼ばれている。
他の一族もそうだ。とある一定の族が率先して率いているからには里と呼んでいる。
だが風だけは少し違い、外部からの血も多く流れ始めているため、里から国へと改変しようかという運動が行われている。
また、本来ならば火神族の側近の権能領域で、数日間砂漠もしくは荒野を歩き通しになるのだが、ある隠し道を使わせてもらった。
里を出るときには砂漠を数日間は歩き通しになる。
「二人で。ベッドは……ツインで。」
鍵を受け取り、三階にある部屋の中に入ると、安い割にそれなりに広く、情緒趣と文化を感じられる部屋だ。
火神族らしく赤を基調とした壁紙や絨毯が敷かれており、布団はそれよりも薄い赤で正直目がチカチカする。
奥の窓際のベッドにルゥトを置き、窓を開けて換気すると里中の声が聞こえた。
呼び込みや話し声、たまに喧嘩のような声も聞こえるが、ここの人達は声がやや大きく早口で、怒っているように聞こえやすいという特徴がある。
だがやはり、こうして声が聞こえてくるのは活気で溢れている証拠だろうなと、男は感心する。
「お兄さんは里を見て回らないの?」
真っ赤な顔で布団の中からそう声をかけられる。たしかに、食料の調達や今後のための物資調達も必要だが、あまり席を外したくないとも考える。
「そうだな。ホテルサービスにご飯があったはずだから、今日はそれを利用して、明日一緒に見て回ろうか」
パァッとルゥトの顔が明るくなる。やはり一緒に里を見て回りたかったのだろうと思い、少し微笑む。
ルームサービスのご飯のついでに氷嚢も頼み、それを額と首元に置いて寝かせると少し落ち着いたのか徐々に頬の赤みがひく。
疲れが溜まっていたのか、この乾燥した気候が合わなかったのか。もしくはその両方か。
ただ早くよくなる様にと薬や飲み物だけを買いに、丁度斜め向かいにある薬屋へと赴く。
その戻りに宿で頼んだ夕飯は、ルゥトには優しいスープ。男は火神族特有のやたらとスパイシーなカレーを食べ、あまりの辛さに夜はなかなか寝付けず、そのまま朝を迎えた。
朝、元気になったルゥトは昨夜風呂に入れなかったので朝から風呂に入り、男はその間に軽く身支度を整えつつ、溜まっていた洗濯物をし、カーテンレールを利用して干す。
いつもより少し血色の良い男の唇に、疑問を覚えながらも服を着替え、ショルダーバッグの中に財布とハンカチ、念の為にと渡されたブザーを入れてホテルを出る。そしてこっそり肌見放さず持ち歩いている、妹の形見を持つ。
里はいつもいる王都と規模感は変わらないが、やはり民族性のようなものが溢れている。
売っているものや食べ物もそうだが、それ以上に歩いている人に目が行く。
少し焦げたような肌の色に、赤の髪。瞳は紫でとても美しい、とルゥトはキラキラした目であたりを見渡してしまい、危ないぞと男に手を引かれる。
男女問わず逞しい肉付きで、熱い気候だからか露出の多い服を着ており、そこから覗く腹も割れていて引き締まっている。
「すごいところ…」
そう呟くと男は少し上の空状態で「そうだろう」と返事をする。その視線の先にはアクセサリーショップがあり、魔石などが加工された物が売っているようだった。
「綺麗ね。お兄さんはあぁいうのが好みなの?」
一度ルゥトに視線を向けた後、再度アクセサリーショップに戻す。
好みかどうかはわからないが、便利ではあると思っている。
「ルゥトはあぁいうのは好きか?」
「うん。キラキラしたものは大体好き」
瞳をキラキラとさせながらそう言うので、少し微笑みながら店の中に入る。ネックレスにブレスレット、指輪やイヤリングと沢山あるがどれも高価なものばかりだが性能は折り紙付きだ。
正直、男やルゥトが持っていても、宝の持ち腐れになってしまう気がした。
「何か気になるものはあるか?」
そう聞いてみるが、ルゥトの視線はある一点の場所を見ておりそれを辿ってみるとまだ未加工の魔石であった。
おそらくそれの橙色を見ており、手にとって見ると仄かに暖かいのがわかる。効果は本物だなと思いながら、石の横に書かれてある説明書を見てみると、“災い避け”と書かれていた。
「これが欲しいのか?」
そう問いかけと見ると、首を横に降るとポケットから何かを取り出す。
それは男が今手に持っているものより、明らかに大きい魔石だ。同じもののようで手にとって見ると、同じようにほのかに暖かいのが伝わる。
いや、なんならそれより物理的にではなく、心が温まる。
「これは…。」
「ほう!橙色の魔法石がこのようなサイズであるとはな!嬢ちゃん、それはどこで見つけた?」
背後から急に声をかけられて思わず肩がビクついてしまう。ルゥトはゆっくりと振り返りながら「昔、妹にもらったの…」と返すが、背後の男は「ふーん」「ほーう」と言うばかりだ。
いつもなら男がこういうとき対応してくれるのだが、今回はなぜかわざとらしく魔石を見つめるばかりで何も反応しようともしない。
「えっと…」
「嬢ちゃん、その石売ってくれんか?」
そう問いかけられてドキッとする。そうは言われてもこれは形見だ。
「すみません、僕たち急いでいるので」
男はそう言いながら急に立ち上がり、店のものを戻してルゥトを抱き上げるが、男は「まぁまぁ!」 と言いながら男の肩を遠慮なく、力強く掴む。
「ここで会ったのも何かの縁だ。元側付き殿」
明朗快活を体現したかのような大男。背丈は男より遥かに大きく筋肉達磨。
赤い髪に紫水いろの瞳がよく映え、赤い顎髭も男の威厳をより一層輝かせていた。
「……………お久しぶりです。火神族長」
蚊の鳴くような声でそう返すと、族長は「ガッハッハ!」 と笑い、その横にいるのは今ルゥト抱き上げている男と、そう大差のない背丈で髪の長い男は、大きなため息をついていた。




