その①
休みの日は未那が地元から来ない限り家でゴロゴロするのが隆俊の悪い癖だ。とにかく出不精、というか面倒くさいのだ。
仕事柄、新しい観光スポットや秘境と言われる場所に赴くことはあるがそれは竹原が誘った時だけ。基本的に自ら動くほどアクティブではない。が、 「隆俊さん! こっち来てくださいよ」
数歩先を歩く少女の声にやれやれと肩を竦めながらもたまにはこんな日があっても良いかと思う三十路男。最近になってようやく彼女の歳が17であると知った隆俊は彼女との距離感に注意しつつ、無邪気に笑顔を振りまく少女を見失わないように追いかける。
「なんでそんなに距離取るんですか」
「おまえみたいなのと一緒にいたら怪しまれるだろ」
「ナニか、するんですか?」
「んな訳あるか」
ニヤッと不敵な笑みを見せる居候をバッサリ切り捨てる隆俊。最初はどこか捨てられた仔猫のような印象があったはずなのに、いまではただの悪女――いや、小悪魔の方がまだ可愛いか。最初の頃に見せていたあの控えめな姿はどこに行ったのやら。
隆俊が女子高生を拾って……訂正。保護して……さらに訂正。隆俊の家に女子高生が住み着くようになって初めての休日。今週は未那が来ないからゴロゴロしていようとベッドを人質に寝室に立て籠もっていたら部屋の外から彼女の声がしたのが9時少し前。それからなんやかんやあって外出することになったのが1時間ほど前。ウチの居候は人の休日さえ自由を与えてくれないのだ。
「あ、先にお昼食べちゃいましょうよ」
「おまえなぁ~」
「はい?」
「……なんでもない」
「?」
「いや、その……よくもまぁ、見知らぬおっさんと飯食えるな、と」
「一緒に住んでるから“見知らぬ”は違うと思いますよ?」
「あのなぁ……」
こういうのを揚げ足が取られると言うのだろう。至極真面目な顔で完全には否定できない事実を口にする少女に呆れてなにも言えない。
「隆俊さんのことは信用してるんですよ」
「そりゃどうも。メシ、どうする?」
「え? そ、そうですね……」
自分で言っておいてなにも考えてなかったのか。とは言えず、あたりをキョロキョロと見渡す少女は、小さな子供のような目をしていた。駅前のロータリーにあるのはチェーン店、それも居酒屋系を除けばファストフード店ばかりだ。
「隆俊さん、あそこにしましょうよ」
「え? あれで良いのか」
「はい。わたし、ああいうの食べたことないんですよ。だからちょっと気になって」
食べ物に厳しい家庭なのか、彼女の目に留まったのは某ハンバーガーチェーン。俺も久しくジャンクなものを味わっていないのでここにするか。
「あ、あの。嫌なら隆俊さんが食べたいもので良いですよ」
「ここで良いよ。俺も最近食べてないからな。つか、変に気を遣うな」
「す、すみません」
やっぱり素は控えめな性格らしい。小言を言ったつもりはないがそんな顔をさせてしまうとは居候が相手とは言えそれなりの罪悪感がある。
「隆俊さん?」
「あ、いや。入るか」
「はいっ」
「っ⁉」
なんて可愛い顔するんだ。パッと明るく無邪気な笑顔を見せる少女に思わず狼狽えてしまう三十路男。一回りは違う少女にドキッとするなど自分でも驚いてしまう。
(こんなところ、未那――いや、誰かに見られたら面倒だな)
面倒事を引き受けたのは自分。その責任を負うのも自分だ。その義務から逃げるつもりはないが、店へ入る際に彼女とわずかに距離を開けたのはきっと自然なことなのだろう。




