その③
彼女がうちに上がり込んで五日。月曜日に出会い、そのまま居ついてしまった少女は今日も隆俊が帰宅すると笑顔を向けた。
「おかえりなさい」
「おう」
「今日、ガス屋さんが来ました」
「しまった。引き落とし出来てなかったんだろ」
払い込み用紙を預かりましたという少女にすまんと謝りながら靴を脱ぎ、中へ入ると食欲をそそる良い香りに胃が反応した。
「肉じゃがにしてみました」
「そりゃまたベタだな」
「コンビニ弁当よりは遥かにましだと思います」
わずかに眉間に皺を寄せる姿は母親を彷彿とさせるが、言い返せるほど健康的な食事を摂っている訳でもなく、今夜も素直に彼女が作った食事のご相伴に預かることにしよう。いや、その前にシャワーくらい浴びよう。
「先シャワー浴びてくる」
「それじゃ、その間にご飯よそっていますね」
「いつも悪いな」
「いえ。居候の身ですから」
控えめに微笑む少女はそう言ってリビングの方へ消えていく。隆俊はその間に廊下右手の脱衣所へ入り込み、汚れ物を洗濯機へ投げ入れて自身は風呂場へ入る。夏場は暑いのでシャワーの温度は人肌より少し高めくらいに抑えるのが彼の流儀だ。
(未那にバレたら殺されるな)
想像しただけで背筋が凍る思いがする。いつ話すべきか……いや、婚約者に気付かれる前にどうやって彼女を追い出すべきか。シャワーを浴びながらそんなことを思う。大抵のことは許して貰える自信がある。しかしこの状況はさすがにまずい。気付かれる前に居候の少女をどうにかしなければ。
(なんで連れ帰ったんだろな)
確かにあの時は夕立後の公園でブランコに座っていた彼女はずぶ濡れだった。それも途方もない顔をしていたのだ。ただの家出とは思えない自分がいたのは確かなのだ。
(やっぱり警察とかに行った方がいいのか)
いや、いまさら言ったところで「これまでどうしてた」と要らぬ疑念を持たれるだけだ。なにより彼女は思った以上に良識のある人間だった。捨て銭覚悟で預けたいくらかの現金を私用で使うことは無く、夕食の食費で使った以外は1円単位できっちり、それもレシート付で毎日隆俊へ返すのだ。少々面倒に思えるかもしれないが、このまま彼女の気が済むまで居候させた方が波風立たずに済むのではないだろうか。
――隆俊さ~ん。ご飯用意できましたよー
シャワーの音に負けぬ声量に思わずため息が漏れる。この状況はもうアレだ。完全に新妻だ。いや、ここまで絵に描いたような新妻はいないか。
――隆俊さ~ん。冷めちゃいますよ~
本人に悪気はない。それは理解できるし彼女が良識的な人間なのもわかった。だとしてもこの状況はいろいろ厄介だ。なにかしら手を打たなければならないがその前にあいつが作った飯を頂こう。料理が出来ない身でおこがましいが手料理はやっぱり嬉しいものだ。




