その②
「隆俊さんって音痴だったんですね」
「うるせぇー。人前で歌うことなんかないんだ。仕方ないだろ」
「でも私は好きですよ? なんていうか、一生懸命な感じがして良いと思います」
「そりゃどうも」
歌唱の評価をされても嬉しくないし、女子高生と一緒にカラオケといっても保護者的ポジションに徹すれば卑しい感情は浮かばない。いや、保護者にしては年齢差が無さすぎるか。それよりも彼女がなぜカラオケと言う密室空間になる環境を選んだのか、そっちが気になって仕方ない。
「隆俊さんを信頼しているからですよ」
「だとしても不用心だろ」
「それだけ信用してるってことです。それに、カラオケとか行ったことなかったんですよ。だから行きたかったんです」
彼女は本当に厳しい家庭で育ったらしい。いまどきファストフードだけでなくカラオケも禁止されているとは。この子、案外お嬢様なんじゃないのか。
「いま、私が凄いお金持ちの娘って思いました?」
「あ、いや……」
「普通の家ですよ。ただ、ちょっと事情があって……」
「――すまん」
他人の感情を読むことに長けているのか、それとも俺が顔に出やすいのか、どうやら彼女に誤魔化しは効かないようだ。
昼食のあとハンバーガーショップからほど近い雑居ビル内のカラオケボックスに入ってから2時間ちょっと。学生以来のカラオケは意外と楽しく、ストレス発散にはちょうど良かった。こいつが連れ出してくれなければ来ることは無かっただろうし、ここは素直に感謝するべきか。
「なぁ――」
――隆俊さん。
今日の礼を言おうと口を開いたときだ。少女がなにか決心したかのように隆俊の袖を握った。
「すみません。少し……お話があるんです」
「話? なんだ」
「私が家出した理由です。まだ言ってませんよね」
この一週間、すごく気になっていたことだ。なぜ彼女が雨上がりに、それもパジャマ姿でブランコを漕いでいたのか。どう切り出せば良いのか分からず、本人から言い出すのを待っていた訳だが彼女の暗い顔を見ると非常に心苦しかった。
「とりあえず、どこか入るか? こんな人混みの中じゃ言いづらいだろ」
ちょうど駅の裏側に喫茶店がある。それなりの年齢層しかいないあそこなら静かで話を聞くにはちょうど良い。そうと伝えると彼女は小さく頷き、握っていた隆俊の袖を強く握り直した。いよいよ面倒なことになったかもしれない。俯く少女を前にそんなことを思うが口に出すなど出来るはずがない。とにかく彼女を静かな場所に連れて行こう。話はそれからだ。




