その③
「……大丈夫なんですか」
「たぶんな。まさか猪口一杯で酔うとは思ってなかった」
困った奴だと息を吐く隆俊は猪口を口に近づけるとクイっと一気に酒を流し込む。弱い訳ではないが慣れない日本酒に咽てしまう。
「カッコつけて酒にしなきゃ良かった」
「飲んだことないんですかっ」
「いや、普段飲むならビールとか酎ハイなんだ。こういうやつを飲まないってだけだ」
「そ、そうですか」
違いがよく分からないと首を傾げるさくらにはこのままでいて欲しい。未那のように中途半端に面倒な絡み方をされると扱いに困る。いや、あいつの場合はわざとかも知れない。どちらにせよ悪酔いした大人の相手は疲れる。
「酒もたばこもしない方が良い。でもまぁ――」
「なんですか」
「おまえとは、一度飲んでみたいな」
「え?」
「い、いや。変な意味はない。未那も一緒に三人でさ。おまえが成人したら飲んでみたいなって」
きっと酔っているのだろう。慣れない日本酒を煽ったせいで本音を吐露してしまった。
さくらは未那の次に大切な存在だ。この2ヶ月足らずでそこまでの存在になった。無論、恋愛感情はない。ただ家族のような存在であり、ずっと見守っていたいと思える相手になった。
「昼間、言ってたよな。神様が願いを叶えたって。きっとその通りだよ。有希が最後に言った願いって『旅行に行きたい』だったんだ」
隆俊の懺悔をさくらは静かに彼をじっと見つめ耳を傾ける。
「あいつもずっと病室から外を見ていた。全部がさくらとそっくりなんだ」
「……」
「前にも話したよな。おまえに構うのはただの自己満足だって。いまもそうかもしれない。でもな、おまえと酒を飲みたいって思うのはおまえに生きて欲しいって願うからだ。有希が見れなかった景色をこの先も見て欲しい」
「…………」
「悪い。俺も酔ってるみたいだ。いまのは忘れてくれ」
「――隆俊さん」
タイミングを見計らったかのようにさくらが隆俊を抱きしめた。強く、それでいて全身を包み込むように優しく自分を抱きしめる少女は「忘れません」と首を横に振った。
「忘れる訳ないじゃないですか。隆俊さんは私の恩人です。恩人の頼みを忘れるほど不義理な人間じゃないですよ」
「さくら……」
「だから隆俊さん。約束しましょう。私が成人したら未那さんと3人でまたここに来ましょう。そして、一緒にお酒飲みましょ」
優しく微笑むさくらの顔はどこか懐かしさを感じた。有希が隆俊に見せた最後の笑顔と瓜二つだった。
(そうか。こいつは――)
そんなことが起きるはずがない。わかっているがきっと何処かの神が少しだけ悪戯をしてくれたのだろう。隆俊はそんな都合の良い解釈をしてさくらにただ一言「ありがとう」と言うのだった。




