エピローグ
誰が好き好んでバレンタインに式を挙げるだろうか。日取りが良かったからと説明するも竹原は絶対ネタだと主張し、パーティーの最中も暇を見つければ新郎を弄っていた。
「支倉、おまえって意外なとこでロマンチストだな」
「それ以上言うと追い出しますよ」
「はいはい。悪かった。で、未那さん」
「は、はい」
急に話を振られた未那はやや緊張した面持ちで竹原を見る。
「そんな緊張しなくて良いですよ。どうしようもない後輩ですが支倉のこと、よろしくお願いします」
「もちろんです。こちらこそダメ夫をよろしくお願いします」
「おいコラ。2人揃って貶すのはやめろ。あと先輩、両方とも“支倉”ですから」
勝手に意気投合する妻と先輩を軽く制する隆俊は会場を見渡す。式には来ないかもと思っていたがやはりこの会場にも姿を見せていないようだ。
「やっぱり来てない?」
未那が尋ねる。彼女も当事者の一人なのでやはり気になっていたようだ。グラスを片手に持ったまま隆俊に招待状はちゃんと送ったのかと確認する。
「住所は知らないからメッセージを送った。既読は付いてるし、読んでるとは思うんだけどな」
「そっか。来やすいように立食パーティーにしたのにね」
「ほんと、どこ行ったんだろうな」
さくらが隆俊たちの前から姿を消したのは旅行から戻った次の日の夕方だった。
帰宅した隆俊はしんと静まり返った部屋に違和感を感じつつリビングに入るとテーブルの上に1通の手紙が残されていた。さくらが書き残した詫び状だった。夏空を連想させる淡い水色の便箋に綴られた彼女の想いは隆俊の感情を揺さぶり、思わず涙を溢した。
「あれから一度も会えてないのよね」
未那が隆俊へ問い掛ける。彼女も突然姿を消したさくらに寂しさを覚えていた。
「約束、まだ果たしてないんでしょ? なのに消えちゃうのはさすがに……ね」
「まだわからないだろ」
「え?」
「あいつはそんな不義理な奴じゃねぇよ。きっといつか顔を出してくれるさ」
「……そうね。今度会う時はきっと素敵な彼を連れて来るかもね」
「そうだな。その時は祝福してやらないとな」
さくらのことだ。きっと病を克服して元気にしているはずだ。そして俺なんかより良い男を見つけて幸せに過ごしている。そう確信する隆俊は空を見上げさくらが幸せであることを祈った。
――隆俊さんへ
こんな形で居なくなってごめんなさい。でもこれ以上、一緒にいると未那さんから隆俊さんを奪ってしまいそうだから。だから黙っていなくなります。
隆俊さんと出会ってからの2カ月はすごく楽しかったです。たくさんの初めてを経験できたし、いろんな世界を見れました。私がやりたかったことは一つだけ残して全部できました。その一つはどうしても叶えることはできませんでした。でもそれで良いんだと思います。
なにも言わずに消えるなんて不義理な奴って思われるかもしれません。本当はもっとたくさん一緒にいたかった。もっと隆俊さんといろんな所に行きたかった。でもそれはただのわがままだから。だからいまは我慢します。
未那さんと末永くお幸せに。そして最後に一つだけ言わせてください。
私はあなたに出会えて幸せでした。
藤瀬さくら




