その②
「――マジ? ちょい待って。支倉?」
「なんですか」
「いつでも大丈夫だと」
「え、嘘でしょ」
希望日で予約を入れられると言う竹原に驚き、すぐさまスマホのスケジュール帳を確認する。今週の週末……いや、未那も行くのだから次の週の方が良いだろう。
「来週の週末でお願いします」
「決まりだな――あ、悪い。来週の土日――そう。3人で頼む」
話がまとまりつつある中、当事者であるはずの隆俊は少しだけ疎外感を感じてしまった。まるで竹原に自分のポジションを奪われてしまったような、そんな寂しい気分だった。
「――おう。それじゃ頼むな……と、予約行けたぞ。どした?」
「え、あ。いや、なんでもないです」
「来週の土曜、1泊2日で3人。これでいいよな」
「は、はい。ありがとうございます」
「あとで地図送ってやるから、思い切り楽しんでこい」
隆俊の心情を察しているのか、あくまで手助けしただけだと笑う竹原はこれも食えと小鉢をもう一つ後輩へ押し付ける。
「夏は体力使うからなぁ。山芋食べて精をつけろ」
「先輩、山芋と梅の和え物もダメなんですね」
「梅がダメなんだ」
「あぁーなるほど」
嫌いな食べ物を後輩へ押し付けるのはどうかと思うが別に嫌ではないので気にしない。むしろ梅干しは好きな部類なので隆俊的には嬉しかったりする。なによりさくらの願いを叶えられる。いまの彼にとってはそれが一番喜ばしいことだ。あとは未那に来週空けておくように伝えて――
「――先輩」
「なんだ」
「一応聞きますけど、部屋は分けてくれてますよね?」
「この宿な、一部屋しかないんだ」
「はぁ⁉」
「一部屋しかない。だから紹介制で1日一組限定なんだ」
それは重要説明事項というものでは? そんなツッコミはこの際どうでも良い。未那はともかくさくらと相部屋は世間体的に問題ではなかろうか。少なくとも彼の婚約者的には面白くない冗談だ。
「先輩、わざとですよね」
「手、出すなよ?」
「そのうち訴えますよ」
「お~怖い。ま、中で2部屋に分かれてるから問題ないだろ」
そういうことを言っているわけではないがここまで来たら仕方ない。2つに分かれているのなら未那とさくらを組み合わせよう。そんなことを思うがとにかく川棚への旅行プランはほぼ固まった。あとは何処を巡るか観光スポットの調査と旅程を組むだけだ。
「ここからだと昼から出ても夕方に着くからな。彼女の体調考えて組むと良いんじゃないか」
「ですね。帰ったらあいつに聞いてみます」
「そうしろ。にしても――」
「なんですか」
「おまえ、やっぱあの子と出会って変わったな」
「どこがです?」
「なんつーかトゲが取れた感じ?」
そんなに取っ付き難い人間だった記憶はない。その自覚はあるが竹原はこの数週間で気持ちに余裕が出てきたように見えると言う。
「なぁ、支倉」
「なんですか」
「ちょい真面目な話。おまえはその子のこと、どう思ってんだ」
「どうって、別に――少しだけ妹と重なるだけです」
「そうか。ここで『愛してます』とか言うならガチ説教するとこだったわ」
「信用されているようでなによりです」
小鉢に箸を付けながら、素っ気ない態度を取る隆俊だが正直な感情を伝えたことが功を奏しさらなる追求は避けられた。別に疚しい感情は微塵もないがあまり詮索されるのも困る。
「地図と一緒に角島の資料も送ってやるから参考にしろ」
「角島?」
「おい。まさか知らないとは言わないよな」
「知ってますけど。なぜ角島なんです?」
「夏のこの時期はエメラルドグリーンの海と角島大橋。角島灯台と青い空。間違いなく映える組み合わせだろ」
「それはさくらの為ですか」
「どっちもだ。未那さんも喜ぶだろうし、夏の思い出作りにはもってこいだと思うぞ。つか、さくらちゃん? 彼女の方が先に出るんだな」
「別に深い意味はないですよ」
「わかってる。とにかくまぁ、今後の営業にも使えるし楽しんで来い」
最後は仕事に繋げるのか。いや、本当にツアー企画の下見をさせるつもりなのかもしれない。そんな疑念を抱くが当の本人はそんな気は更々ないらしく、いぶかしげな視線を向ける後輩をにこやかに見ている。
「その顔やめてください。逆に怖いです」
「冷たい後輩だな」
「先輩」
「ん?」
「ありがとうございます」
「気にすんな」
頭を下げる後輩を見る竹原は優しい目をしている。隆俊に妹の件を聞いたのはつい最近だがその話を知っているからこそ、さくらのために何かをしたいと思う後輩の背中を押したくなるのだった。




