その①
結論、未那からはこれでもかと言わんばかりに小言を食らった。さくらが両親と連絡を取り、捜索の手が自身に及ばないように根回しをしていたのだ。隆俊でさえ彼女を「切れ者」と思ってしまったくらいだから機嫌の一つや二つ悪くなっても仕方あるまい。
「で、一緒に行くことになったと。逆によくそれで許してくれたな」
「俺としてはなんで怒られたのか腑に落ちないんですけどね」
「そりゃ目の届かないとこで女子高生とイチャコラしてたら普通怒るよな」
「別にそんなつもりはないですよ。それと、その怪しい言い方やめてください」
いつもの定食屋での一幕。竹原と昼食を共にするのは別に嫌ではないがこのところさくらに関する話題しか振ってこないのはどうにかならないものか。
「まぁアレだな。こんな奇妙な話はそうないから。楽しませてくれ」
「既に楽しんでますよね」
「それでどんなプランでいくんだ」
「いきなり真面目な話ですか」
「次のツアー企画の下見も兼ねているんだからな。そこはしっかりチェックしてやる」
誰も下見で行くとは言っていない。今回はあくまで個人的な旅行と言う立ち位置だ。さくらが行きたいという場所に行くし費用も経費精算しようなどとは思っていない。
「宿は決めてんのか」
「まだです」
「は? ハイシーズンだぞ。わかってるだろ」
何年この業界にいるんだと呆れながら小鉢を差し出す竹原は良い案があると不敵な笑みを見せた。
「ほんと茄子嫌いですよね」
「話聞けよ」
「どうせウチのコネ使えとか言うんでしょ」
会社を通せば繁忙期でも一部屋くらいどうにかなる。それはわかっているが業務以外でその特権は使いたくない。一度使ってしまえば公私がぐちゃぐちゃになりかねないし、さすがにそれは社会人としてどうかと思う。
「俺は別に先輩みたいに適当な人間になりたくないので遠慮します」
「さすがにその言い方は泣くぞ。穴場を教えてやるって言ってるんだ」
「穴場?」
「どの媒体の取材も拒否する旅館だ。もちろんサイトにも載っていない」
大手代理店も知らない宿だと豪語する竹原だがいまの時代そんなところが存在するというのか。いったいどんな宿を勧めてくるのかスマホを弄る竹原が気になって仕方がない。
「ん? そんな前のめりになるな。お、コレだ。ここだ」
「こりゃまた年季の入った外観ですね」
「こんな見かけだけどやってるのは俺と同い年の夫婦なんだぜ」
「へぇ、すごいですね」
「だろ? 一日一組。それも一見お断りの完全紹介制の宿だ」
俺の紹介で予約入れてやるという竹原を間にその人脈の広さに驚く隆俊。確かに一見お断り完全紹介制なら大手も存在は知っていても手は出せまい。いったいどこで仕入れたんだ。
「俺も個人的に知っただけだ。社長たちも知らないから黙ってろよ」
「わかってますよ。でもほんとにこの時期に取れるんですか」
「取れるから言ってるんだ」
任せておけと言わんばかりの竹原はその場で宿へアポを取る。未那のことを考えれば土日で行きたいところだが世間は夏休み。いくら紹介制の激レア宿でも予約は入っているはずだ。希望は言わず、竹原に任せよう。
「――あ、もしもし俺――そう。3人いけるか?」
ん? なぜタメ口なんだ。相手が同い年だとしても普通はそれなりの態度をとるはずだが――




