その④
「さてと、いろいろ思うとこはあるけど」
「ん?」
「今日はもう戻るわ」
「は? 来たばっかだろ」
「民事専門とは言え忙しいのよ」
日帰りでも来てくれたことに感謝してと口を尖らせる未那だがその顔は満足気だ。仕事の都合とはいえ飛行機を使わなければ会えない距離にいるのだ。もうしばらくは遠距離が続くと短時間でも顔を見たくなるものだ。
「いまのクライアントが片付いたら辞めるって言ってるから――そうね、冬にはこっちに来れるわ」
「そっか。悪いな」
「ま、私は別にいまのままでも良いけど。可愛い子引っ掛けたみたいだし?」
「おまえホントは怒ってるだろ」
「怒らない訳ないでしょ……あ!」
「どうした」
「ごめん! 飛行機乗り遅れるから帰るわ」
何気なく見たスマホで長居し過ぎたと悟り慌てて立ち上がる未那は急いで帰り支度を始める。やっぱり泊りにすれば良かったと後悔の念を吐露する未那が慌てるのも当然。時刻は二〇時過ぎており、九時までに空港へ着かなければ最終便に間に合わないのだ。まぁ最寄りの駅から空港までは三〇分かからないのでギリギリ間に合うのだが。
「少しは余裕を持たせろ。地下鉄止まったらアウトだぞ」
「タクシー飛ばせばギリセーフよ。それに、まさか浮気野郎の尋問するとは思ってなかったし」
「はいはい悪かった。良かったな。ウチが空港のすぐ近くで」
「ほんとソレ。街のど真ん中に空港があるなんて便利過ぎよ」
「もうすぐその街の住人になるんだろ。それじゃ気を付けて帰れよ」
「ありがと。見送りは良いわ。じゃあね」
リビングの外に気配を感じたらしくチラッと背後に視線を向けた未那は軽く隆俊へキスすると急ぎ足で部屋を出て行く。その数秒後、玄関ドアが閉まる音が聞こえたところで隆俊は廊下にいるであろう居候へ声を掛けた。
「出て来て良いぞ」
ずっと廊下で二人の様子を覗っていたのだろう。入室の許可と同時にドアノブが回りゆっくりとドアが開く。そしてこちらの顔を伺うかのように恐る恐るリビングへ入る少女は不安げな表情をしている。




