その⑤
「ずっとそこで聞いてたのか」
「気付いていたんですか」
「未那がチラチラそっち見てたからな」
さくらも関わることなので盗み聞きを責めるつもりはない。むしろ聞き耳を立ててくれていて良かったと思う。
「とりあえずおまえのことは理解してくれた」
「……はい」
「ただいつまでもこの状態って訳にはいかない」
「そう、ですよね」
「? もしかして追い出すと思ったのか」
俯いたまま顔を上げないさくらに首を傾げるが仕方あるまい。普通に考えれば追い出されて当然の状況にあるのだ。さくら自身そのくらいのことは覚悟している。
「……隆俊さんに婚約者さんがいるのは知りませんでした。未那さん? はあんな風に言ってくれましたがやっぱりお二人にとって私は邪魔ですよね」
「おいコラ。勝手に話を作るな。別にいますぐ追い出すつもりはねぇよ」
「で、でも……」
「少なくとも未那はおまえのこと認めたみたいだぞ」
「そうなんですか」
「あいつは弁護士事務所で働いてるんだ。少なくとも俺より知識はあるし、この状態がアウト寄りのグレーなのもわかってるはずだ。それでもなにもせず帰ったんだ。つまりそう言うことだ」
本当のことを言えば未那もすぐにこの状態を解消させたいはずだ。それなのに釘を刺すだけで帰ったのはさくらが隆俊にとって無害だと判断したからだろう。そして逆も然り。隆俊がさくらに手を出さないと信じるに値する人物だから彼女の居候を認めたのだ。長い付き合いだけあって未那の考えそうなことは想像がつく。
「……信用してもらえたってことですかね」
「たぶんな。あいつが本気でキレたら今頃おまえは簀巻きにされてベランダから落とされてたな」
「え?」
「あいつ本性は悪魔だからな」
簀巻きの件は冗談だが口喧嘩の報復で賞味期限が切れた食品を食べさせられたことが何度あっただろうか。毎回食味に明らかな異変が起きてない状態の物を使われるので食べた後に気付くのだ。まぁ、体調に異変を起こしたことは無い……いや、カフェオレに期限切れの牛乳を使われた時は食あたりを起こしたな。
「とにかくアレだ。少なくともしばらくはウチに居て良いそうだ。だから追い出すつもりはない。安心しろ」
「ありがとう、ございます……」
「お、おう。急にどうした」
「いえ、恵まれてるなって」
急に隆俊の胸板に顔を埋めたさくらは呟く。小さな声だが幸せな感情を目一杯込めた言葉に自然と隆俊も嬉しくなる。
「隆俊さん」
「なんだよ」
「もう少しだけ厄介になって良いですか」
「いまさらなに言ってんだ。好きなだけいろ」
「はいっ」




