4話
引っ越しを終えて、一週間が経った。
一足遅れて父から届いた荷物には、箱いっぱいの小麦粉が詰められていて、あのオーブンが大活躍することとなった。
そして——今日はついに、王宮への初出勤の日。
届いたばかりの制服に袖を通す。
上品なデザインのワンピースにジャケット。
胸元には赤いリボンを結ぶ。
なんだか嬉しくなって、その場でくるりと一回りすると、スカートがふわりと広がった。
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
——そのとき。
カチリ、と時計の針が進む音がして、はっと我に返った。
「もう出なくっちゃ!」
支給された鞄を手に取り、慌てて玄関へ向かう。
そこには、いつもの機能重視のブーツの隣に、真新しい一足が並んでいた。
小麦粉と一緒に、父が送ってくれたものだ。
(気を使わなくていいって言ったのに……)
けれど、おしゃれに疎い父が悩みながら選んでくれたのかと思うと、胸の奥がじんわりと温かくなる。
そのブーツに足を通し、外へ出る。
階段を降りると、ロザリーさんが店先で開店の準備をしていた。
「あらあら、キルシェちゃん。とっても素敵ね」
「ロザリーさん! ありがとうございます!」
笑顔で声をかけてくれるロザリーさんに、私もにこやかに挨拶を返す。
この一週間で、私たちはすっかり仲良くなっていた。
ロザリーさんだけじゃない。
近所の人たちもみんな気さくで、買い物に出ればいつも声をかけてくれる。
「おう! キルシェちゃん、いってらっしゃい!」
「おはよう、気をつけてね」
「初出勤だろ? 頑張れよ!」
王宮へ向かって歩いていると、次々と声が飛んでくる。
そのひとつひとつが嬉しくて、思わず頬がゆるんだ。
緊張で少し重くなっていた胸も、いつの間にか軽くなっていく。
(よし、がんばろう)
私は小さく気合いを入れて、王宮へと続く道を歩き出す。
王宮の白い塔が、朝日にきらめいて見えた。




