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小麦畑の君に  作者: おはよう


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2/9

幕間


夕陽に染まる王宮――


昼前から続いた会議を終え、執務室に戻ると、ようやく一息つく。


――が。


「宰相様、こちらの書類にサインをお願いします」

「宰相様、王都南の橋の修繕について面談の申し込みが来ています。いかがなさいますか?」

「宰相様、明日の会議ですが――」


部屋に入った途端、補佐官たちが次々と声をかけてくる。


一つ一つに応えているうちに、気づけば空はすっかり夜の色に染まっていた。



「それでは、お先に失礼します」


仕事を終えた部下たちが、一人、また一人と帰っていく。

静まり返った執務室に残されて、ようやく深く息を吐いた。


目の前にうず高く積まれた書類の山は――今は見ないことにしよう。


「……いい加減、新しい秘書官が必要では?」


そう言いながら茶を差し出してきたのは、筆頭補佐官のセイル・レイトン。


その顔には隠しきれない疲労が浮かんでいる。


「そうなんだけど、ね」


曖昧に返すと、セイルの表情がさらに重くなった。


「……募集しても、集まってくるのは貴方目当てのご令嬢ばかりですからね」


「しかも、すぐ辞めてしまう」


苦笑すると、セイルはついに頭を抱えた。


かつては複数の秘書官を置いていた。

だがそのほとんどが、アルヴァート公爵家当主であり宰相である僕――リディオル・アルヴァートの“妻の座”を狙う令嬢たちだった。


最初こそ熱心に働いていたものの、激務に直面すると、皆あっさりと去っていく。


――靡かない僕の態度も、一因ではあるのだろうが。


秘書官不在の今、その役割の多くはセイルが担っている。


「このままでは倒れてしまいますよ」


「ははは。その前に家に帰してあげるから安心して」


「私ではなく、貴方が、です」


「それこそ安心して。アルヴァートの男は頑丈なのが取り柄だから」


冗談めかして笑うと、セイルは呆れたように肩をすくめ、自席で書類の仕分けを始めた。


その背を横目に、僕も書類の山へと手を伸ばす。


並んでいるのは、貴族たちからの無理難題ばかり。

見ただけで溜息が出そうになるのを、どうにか堪え、ひとつひとつ筆を走らせていく。


静まり返った執務室に、紙の擦れる音と筆の音だけが響く。


(……日付が変わる前に帰るのは、無理かな)


胸の内で小さく息を吐き、再び目の前の仕事へ意識を戻した。



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