幕間
「それで、キルシェ・グラント嬢はどうだった?」
グラント書記官——改め、グラント秘書官とハーヴィス書記官長が部屋を後にするのを見送ったあと、セイルに感想を尋ねる。
——彼の表情を見れば、気に入ったのは明らかだが。
「そうですね。金や地位に欲がなく、真面目なご令嬢でした。こちらの不躾な質問にも嫌な顔ひとつせず答えていた点も、好感が持てます」
「真面目なところは、君に似ているかもね」
欲しいものを“知識”と答えた彼女。
目の前のこの男もまた、知識に貪欲で、暇さえあれば読書に耽る本の虫だ。
——案外、彼らは気が合うかもしれない。
部下同士の関係が良好であるに越したことはない。
もしかしたら、年の近い彼らが夫婦になるなんてことも、あり得なくはない——
らしくもなく、そんな空想が浮かび、内心で苦笑する。
「ただ——」
セイルの声に視線を上げると、彼は心配そうに眉を寄せていた。
「彼女を利用しようとする者が増えることが、気がかりですね」
「彼女は、実年齢より幼く見えるからね」
初めて会ったとき、せいぜい十五か十六歳ほどかと思っていた。
だが、すでに成人していると知って驚いたものだ。
——もっとも、十近く離れた僕からすれば、変わらず“お嬢さん”だが。
「閣下に近づきたい者は、貴族からご令嬢まで幅広いですから」
「ははは。そこは、君が守ってあげて」
「……ご令嬢に関して言えば、閣下が早くご結婚なされば片付く問題かと」
「今は仕事で手一杯ってことにしておいて」
肩を竦めて答えると、セイルから重いため息がこぼれた。
この歳になって、はっきりとは言われないものの、両親も僕の結婚について気を揉んでいることには気づいている。
けれど、自分自身は結婚にそれほど関心がない。
公爵家を背負う身として、後継者の必要性は理解している。
とはいえ、二人の妹もいるし、遠縁の子に継がせることもできる。
正直なところ、僕が結婚しなくても何とかなるだろう——それが本音だった。
「まあ、彼女ならその辺りも上手く立ち回れそうな気がするけどね」
「……随分と自信があるようですね」
「彼女はすでに、王宮一の堅物である君を絆しているじゃないか」
「……そうですね。王宮一、疑り深い宰相様を手懐けていますし」
「手厳しいなぁ」
棘のあるセイルの言葉に笑うと、彼はわずかに口元を緩めた。
宰相と公爵という立場に群がり、私腹を肥やそうと擦り寄ってくる者は多い。
そんな中に長く身を置いていれば、嫌でも疑り深くなる。
——だからこそ。
彼女と過ごす裏庭での時間が心地よくて、申し訳ないと思いつつも、自分の正体を明かさなかった。
ただの“王子様”でいたかった。
ふと、彼女が秘書官になれば、あの時間は失われるのかと思い、胸の奥に淡い寂しさが滲む。
不意に、開け放たれた窓から、やわらかな風が吹き込んだ。
なぜか、彼女の——尻尾のように揺れる髪が、風に遊ばれる姿が目に浮かんだのだ。




