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小麦畑の君に  作者: おはよう


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16/17

幕間


「それで、キルシェ・グラント嬢はどうだった?」


グラント書記官——改め、グラント秘書官とハーヴィス書記官長が部屋を後にするのを見送ったあと、セイルに感想を尋ねる。


——彼の表情を見れば、気に入ったのは明らかだが。


「そうですね。金や地位に欲がなく、真面目なご令嬢でした。こちらの不躾な質問にも嫌な顔ひとつせず答えていた点も、好感が持てます」


「真面目なところは、君に似ているかもね」


欲しいものを“知識”と答えた彼女。

目の前のこの男もまた、知識に貪欲で、暇さえあれば読書に耽る本の虫だ。


——案外、彼らは気が合うかもしれない。


部下同士の関係が良好であるに越したことはない。


もしかしたら、年の近い彼らが夫婦になるなんてことも、あり得なくはない——


らしくもなく、そんな空想が浮かび、内心で苦笑する。


「ただ——」


セイルの声に視線を上げると、彼は心配そうに眉を寄せていた。


「彼女を利用しようとする者が増えることが、気がかりですね」


「彼女は、実年齢より幼く見えるからね」


初めて会ったとき、せいぜい十五か十六歳ほどかと思っていた。

だが、すでに成人していると知って驚いたものだ。


——もっとも、十近く離れた僕からすれば、変わらず“お嬢さん”だが。



「閣下に近づきたい者は、貴族からご令嬢まで幅広いですから」


「ははは。そこは、君が守ってあげて」


「……ご令嬢に関して言えば、閣下が早くご結婚なされば片付く問題かと」


「今は仕事で手一杯ってことにしておいて」


肩を竦めて答えると、セイルから重いため息がこぼれた。



この歳になって、はっきりとは言われないものの、両親も僕の結婚について気を揉んでいることには気づいている。


けれど、自分自身は結婚にそれほど関心がない。

公爵家を背負う身として、後継者の必要性は理解している。


とはいえ、二人の妹もいるし、遠縁の子に継がせることもできる。


正直なところ、僕が結婚しなくても何とかなるだろう——それが本音だった。



「まあ、彼女ならその辺りも上手く立ち回れそうな気がするけどね」


「……随分と自信があるようですね」


「彼女はすでに、王宮一の堅物である君を絆しているじゃないか」


「……そうですね。王宮一、疑り深い宰相様を手懐けていますし」


「手厳しいなぁ」


棘のあるセイルの言葉に笑うと、彼はわずかに口元を緩めた。



宰相と公爵という立場に群がり、私腹を肥やそうと擦り寄ってくる者は多い。


そんな中に長く身を置いていれば、嫌でも疑り深くなる。


——だからこそ。


彼女と過ごす裏庭での時間が心地よくて、申し訳ないと思いつつも、自分の正体を明かさなかった。


ただの“王子様”でいたかった。


ふと、彼女が秘書官になれば、あの時間は失われるのかと思い、胸の奥に淡い寂しさが滲む。



不意に、開け放たれた窓から、やわらかな風が吹き込んだ。


なぜか、彼女の——尻尾のように揺れる髪が、風に遊ばれる姿が目に浮かんだのだ。



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