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小麦畑の君に  作者: おはよう


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13/16

幕間


慌てて去っていく後ろ姿を見送ったあと、僕は補佐官室へと戻った。


自席に着くと、もらったクッキーが割れないよう、そっと机の上に置く。


「……餌付けでもされてきたんですか?」


様子を見ていたセイルが、呆れたように声をかけてくる。


「これは、秘密を共有した証だよ」


「はあ……」


僕の答えに、セイルは納得いかない様子で首をひねった。


「それより、こちらを」


「ん?」


「秘書官職に応募してきた者たちの履歴書です」


「……履歴書、というより釣書のようだけど」


手渡された書類に目を通す。

並んでいるのは、どれも貴族令嬢のものばかり。

記されている内容も、刺繍や楽器といった、仕事には直接結びつかない“嗜み”ばかりだった。


「貴方がことごとく見合い話を断り続け、独身を貫いているからでは?」


「別に、貫いているわけではないんだけどね」


なにも、独身主義というわけではない。


公爵家を背負う身として、結婚が必要であることも理解している。

そこに恋だの愛だのを求めるほど、若くもない。


——けれど。


派手に着飾り、アルヴァート公爵という地位や名誉、財産ばかりに目を向ける女性たちと、関係を深めたいとは思えなかった。



不意に、裏庭の“リス”——キルシェ・グラント嬢の顔が浮かぶ。


女性の空腹の音を聞いたのは、人生で初めてだった。


顔を赤らめる姿。

クッキーを齧りながら、上目にこちらを見る大きな瞳。

真剣に本を読み進める横顔も、不思議と目が離せない。


思わず笑みがこぼれる。


手にしていた釣書——もとい履歴書を、無造作に机へと置いた。


「セイル、ハーヴィス書記官長を呼んでくれないか」


「……彼が、素直に頷くとは思えませんが」


「ははは。そこは僕の腕の見せ所、かな」


そう笑うと、セイルは肩をすくめて踵を返した。


忙しい書記官の引き抜き。

あの老伯が、すぐに首を縦に振るとは思えない。


(年代物のワインだけでは、足りないかな)


これから対峙する相手の“攻略法”を頭の中で組み立てる。


ほんの一瞬だけ——

まるで父親に結婚の許しを請うようだ、なんて馬鹿な考えがよぎった。


小さく苦笑をこぼしながら、その思考を振り払い、再び説得の段取りへと意識を戻すのだった。



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