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小麦畑の君に  作者: おはよう


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10/14

幕間


「宰相様、なにか良いことでもありましたか?」


夕刻。

書類に目を通していると、報告書の署名を求めてやって来たディオスが声をかけてきた。


「そんなふうに見えたかい?」


動かしていた筆を止め、顔を上げて彼を見る。


「はい。いつもより、どこか楽しげに見えました」


ディオスはわずかに目元を緩め、小さく頷く。

長身で強面な彼は威圧感のある外見だが、実際は気配りに長けた男だ。

だからこそ、周囲の変化にもよく気がつく。


「……ちょっとした出会いがあってね」


先ほどの出来事を思い出し、自然と笑みがこぼれる。

そんな僕の様子に、ディオスは首を傾げた。


「出会い……小動物か何かですか?」


「そんなところかな」


“小動物”という言葉に思わずくすりと笑うと、ディオスはますます不思議そうな顔をしながら、自席へと戻っていった。


再び書類へと視線を落としながら、先ほどの光景を思い返す。



常に人に囲まれている為、一息つける時には誰も来ない裏庭に行くのが常だったが、今日は先客がいた。


——その客が、木の上にいるとは思わなかったが。


枝にしがみつく姿は、確かに“小動物”のようで。


小柄な身体に、大きな瞳。

紅茶にミルクを落としたような柔らかな色の髪は、ひとつに結われ、尻尾のように揺れていた。


(——お転婆なリス、といったところかな)


バランスを崩して落ちてきたときは肝が冷えたが、怪我をさせずに済んで良かった。



おそらく彼女が、グラント書記官なのだろう。

見覚えのない顔というのもあるが、胸元に結ばれていたリボンは書記官職を示す、赤色のリボン。


市井で迷子になったり、木に登ったり——


有能と噂の書記官の、想像とかけ離れた素顔に、思わず笑い声が漏れる。


その音に、部下の視線が刺さった。


誤魔化すようにひとつ咳払いをすると、書類へと視線を戻す。


そこに書かれた整った文字と、小さな注釈。

あのリスのような彼女が一生懸命机に向かう姿が目に浮かぶ。


無意識に、口元が緩んでいた。



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