9‐第一試合
王都武術魔道会場は、朝から熱気に包まれていた。
観客席はすでに満員で、
王都魔導高等学院と聖シャマシュ高等学院の生徒たちが
それぞれの応援席に分かれて声を上げている。
「……すごい人の数」
エリナが小さく呟く。
「大丈夫。落ち着いて」
レイフは隣で静かに言った。
エリナは深呼吸し、拳を握りしめる。
アナウンスが響いた。
『第一試合——
王都魔導高等学院、エリナ・ストラング
対
聖シャマシュ高等学院、ミリア・フェルナ』
エリナはゆっくりと競技場へ歩き出す。
対面に立つ少女、ミリアは、
淡い雰囲気を纏っていた。
柔らかな雰囲気の少女だが、
その周囲の空気は澄んでいて、
まるで聖域のようだった。
「よろしくお願いします、エリナさん」
ミリアは微笑む。
「怪我をしても、すぐに治しますから安心してくださいね」
「……敵を治すつもりなの?」
「はい。私は回復系ですから」
観客席がざわつく。
「回復しながら戦うのか……?」
「いや、試合の終わった後だろ?」
エリナは構えを取った。
審判が手を上げる。
「——始め!」
エリナは地を蹴った。
魔力を纏い、一気に距離を詰める。
「はっ!」
拳を叩き込むが——
ぱあ、と黄緑色の光が弾け、
エリナの拳は柔らかな壁に阻まれた。
「……っ!」
「ブレスシールドです」
ミリアの周囲に淡い光の膜が展開されていた。
エリナは後退し、距離を取る。
ミリアは静かに手を前に出した。
「ブレスフラーレ」
黄緑色の光が一点に集まり、
閃光となってエリナへ向かう。
「くっ……!」
エリナは横へ跳び、光を避ける。
(当たったら……ただじゃ済まない……!)
観客席ではレイフが腕を組んで見つめていた。
(ミリアの術式は綺麗だ。
だが……密度が低すぎる)
つまり——
“壊しやすい”
(エリナ……気づけるか?)
ミリアは再び光を集める。
「ブレスフラーレ!」
その瞬間。
エリナの瞳が鋭く光った。
(……あそこ!
術式の中心が薄い……!?)
エリナは地を蹴り、
魔力を拳に集中させる。
「はあああっ!!」
発動までの術式組み立ての瞬間、
拳がミリアの術式に触れた——
ぱんっ!
黄緑色の光が弾け、
術式が崩壊した。
観客席がどよめく。
「魔法の術式が……壊れた!?」
「どうやって……?」
ミリアは驚きに目を見開いた。
「……術式が…破壊……?
そんな……どうして……?」
エリナは息を切らしながら答えた。
「あなたの術式……中心が薄かった。
そこを狙っただけ」
ミリアは一瞬沈黙し、
やがて微笑んだ。
「……すごいです。
でも、まだ終わりません」
ミリアは再び光を集め始める。
その瞬間——
レイフの目が細くなる。
(ミリア……今のは悪手だ。
術式を壊された直後は誰でも隙が生まれる)
エリナもそれを感じ取っていた。
(今……!)
エリナは地を蹴り、
魔力を右腕へ集中させる。
「フレアショット!!」
黒い閃光のような魔力が、
一直線にミリアへと走った。
ミリアは驚き、術式の構築を中断する。
「っ……!」
防御が間に合わない。
魔力の弾丸がミリアの胸元に直撃し、
彼女の身体が後方へ大きく弾き飛ばされた。
「きゃっ……!」
ミリアは地面に倒れ込み、
光がふっと消える。
審判が駆け寄り、手を上げた。
「ミリア・フェルナの戦闘不能を確認。
——勝者、エリナ・ストラング!!」
会場が一気に沸き上がる。
「すごい……!」
「神聖魔法相手に勝ったぞ!」
「術式を壊して……そのまま一撃で……!」
エリナは肩で息をしながら、
倒れたミリアへ歩み寄った。
ミリアは苦しげに笑いながらも、
しっかりとエリナを見上げる。
「……負けました。
あなた、本当に強いんですね」
「ありがとう。
あなたの魔法も……すごかったよ」
二人は軽く手を取り合う。
その光景を見ながら、
レイフは静かに頷いた。
(エリナ……よくやった)
こうして、第一試合はエリナの勝利で幕を閉じた。




