7‐出発
大会出場が決定したことで、レイフが神聖魔法の基礎をエリナに教えるために訓練場に来た。
訓練場には、レイフとエリナの二人だけが立っていた。
物理魔法の使い手たちが集う学院では負の魔力を持つものばかりだ。
強いて言えば回復要員の教師は正の魔力を持ち、神聖魔法が使える。
だがレイフは中性の魔力を持つため、
物理魔法と神聖魔法のどちらも使える。
なので今日は神聖魔法の発動をレイフが担当することになっていた。
「……じゃあ、見せるね」
レイフが手を前に出す。
「ブレスフラーレ」
淡い黄緑色の光がふわりと集まり、空中に術式が浮かび上がった。
正の魔素特有の色——
神聖魔法の術式だ。
「レイフ……本当に神聖魔法が使えるの……?」
エリナは驚きで声を震わせた。
負の魔素の人間には絶対に扱えないはずの魔法。
「あぁ、この世の魔法はすべて。」
レイフの指先から生まれた術式は、
静かに脈動しながら黄緑色の光を放っている。
エリナは息を呑んだ。
「神聖魔法って……どう対処するの?」
「術式無効化だ」
「と言っても術式無効化なんて技術は、
神聖魔法に対しては存在しないよ。」
「どういうこと?」
「神聖魔法の術式は“正の魔素”でできてる。
そこに“自然の中性の魔力”や“負の魔力”を当てると……
性質がぶつかって術式が壊れるんだ」
「えっ……それって……」
「それを“無効化”って呼んでるだけ。
神聖魔法の魔法を消すんじゃなくて、
術式が壊れるだけ」
エリナはレイフの術式を見つめた。
「じゃあ……レイフは、その術式破壊ができるの?」
レイフは軽く頷いた。
「やってみせるよ」
レイフは神聖魔法の術式に向けて、
自分の魔力をゆっくりと流し込んだ。
まずは自然界の中性の魔力を取り込み、
それをそのまま術式に触れさせる。
次の瞬間——
ぱん、と光が弾けて術式が消えた。
「……っ! 本当に壊れた……!」
エリナは目を見開いた。
「中性の魔力は、自然界に満ちてる魔素。
魔力操作を鍛えれば、誰でも扱えるよ」
「じゃあ……負の魔力でも壊せるの?」
「もちろん。
正と負は性質が真逆だからね」
レイフは今度は負の魔力を指先に集め、
再び神聖魔法の術式を展開した。
そして負の魔力を軽く触れさせると——
ぱん、と再び術式が弾けて消えた。
「……すごい……こんなの、誰もできないよ……」
レイフは少しだけ視線をそらした。
「現代ではね。
でも古代では、魔力操作は当たり前だったんだ」
「レイフ……あなた、本当に何者なの……?」
レイフは静かに微笑んだ。
「ただの転生者だよ。初代国王のね。
でも……これは秘密にしておいてほしい」
「は?へ?どういうこと!?
でも……うん。絶対に誰にも言わない…!」
その時、学院の鐘が鳴り響いた。
「そろそろ行こう。
王都武術魔道会場まで馬車が出る」
二人は訓練場を後にし、学院の門へ向かった。
◆ ◆ ◆
王都へ続く道を馬車で進む。
エリナは窓の外を見つめながら、
さっきの光景を思い返していた。
(中性の魔力……自然の魔力……
そんなものを扱える人なんて……)
馬車が止まり、二人は外へ降り立つ。
目の前には、巨大な白い建造物——
王都武術魔道会場。
その空気には、
淡い黄緑色の光がふわりと漂っていた。
「……神聖魔法の気配だ」
レイフは静かに息を吸った。
(現代の神聖魔法……どれほどのものか、確かめてみよう)
こうして、対抗戦の幕が上がろうとしていた。




