3‐決闘
放課後の訓練場には、すでに多くの生徒が集まっていた。
ストラング公爵家の令嬢エリナが入学初日に決闘を申し込むなど前代未聞であり、
その相手が最底辺男爵家の三男レイフだという事実が、さらに注目を集めていた。
エリナは中央に立ち、鋭い視線でレイフを待ち構えていた。
金髪が夕陽に照らされ、怒りとプライドが混ざった瞳が光る。
「来たわね。逃げなかっただけ褒めてあげる」
「逃げる理由がないからな」
その落ち着いた返しに、エリナはさらに苛立つ。
「昨日の試験、あなたの魔法はどう考えてもおかしい。
初級魔法を無詠唱で相殺、中級魔法を術式ごと消すなんて普通はできないのよ。
だから確かめる。あなたが本物かどうか」
教師の合図と同時に、エリナが詠唱を開始する。
「我求む、根源たる光の力よ。束となりて敵を貫け。ライトランス!」
鋭い光の槍が一直線にレイフへ向かう。
中級魔法とは思えない速度と圧力。周囲の生徒たちが息を呑む。
レイフは静かに手をかざした。
「術式無効化」
光の槍はレイフに触れる前に霧散した。訓練場が静まり返る。
「……本当に消した……。どういう理屈なのよ……!」
エリナは悔しさを隠さず、さらに魔力を高めようとする。
しかしレイフは一歩前に出た。
「次は俺の番だな」
その瞬間、レイフの身体がふわりと浮かび上がった。
「なっ……空を……飛んでる……!?」
訓練場がざわめく。現代では失われた古代魔法——
浮遊魔法。誰も使えないはずの魔法を、レイフは当然のように発動していた。
空中に上がったレイフは、片手を軽く振る。
「闇属性上級魔法、深淵の大剣。」
黒い大剣の形をした魔力が次々と生成される。
一本、二本……十本……二十本……。
「嘘……まだ増えるの……?」
最終的に、空中には五十本の闇の大剣が並んだ。
「ありえない……!だって…同時発動は三つが限界なのよ……!」
エリナの声は震えていた。周囲の生徒たちも言葉を失う。
「行くぞ」
五十本のアビスクレイモアが一斉にエリナへ向かって放たれた。
「くっ……アースドーム!」
エリナは即座に地面へ手をつき、土属性魔法を発動する。
地面が隆起し、半球状の土の防壁が形成される。しかし——。
轟音と衝撃が訓練場を揺らし、土煙が舞い上がる。
ドームは辛うじて形を保ったが、内部ではエリナが膝をついていた。
「……っ、あ……!」
左手は深く裂け、右足は血に染まり、腹部にも大きな切り傷が走っていた。
致命傷こそ避けたものの、立っているのがやっとの状態だ。
「ま、まだ……終わって……ない……!」
震える身体で立ち上がろうとするが、足が崩れかける。
レイフが地面へ降り立ち、静かに手を伸ばした。
「降参しろ。これ以上は危険だ」
エリナは唇を噛む。プライドが邪魔をする。
しかし、もう戦えないことは自分が一番理解していた。
「……っ……降参……よ……」
その言葉を聞いた瞬間、レイフは彼女の身体を支え、片手を傷へ向ける。
「神級治癒魔法、リザソーマ。」
淡い光がエリナの身体を包み、裂けた皮膚が閉じ、血が止まり、肉が再生していく。
まるで時間が巻き戻るような光景だった。
「な……に……これ……」
エリナは自分の腕を見て震える。現代では誰一人使えない、伝説の神級治癒魔法。
治癒が終わると、エリナはゆっくりと立ち上がる。
その瞳には、もはや敵意ではなく、理解不能な存在を前にした戸惑いが浮かんでいた。
そして——胸の奥が、わずかに跳ねた。
「……あなた……いったい……何者なの……」
その問いは、恐れでも怒りでもなく、
自分でも説明できない“高鳴り”に揺らいでいた。




