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金玉の土用干し。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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セイシの真理・14


 分娩手術の日取りが決まると匠海の父母が嬉々としてやって来た。


「お義父さんとお義母さんも来たがってたんだけど、帰って来るの待ってるって」


 手術前日、お土産片手に誠志郎の病室にやって来た匠海の父母はにこにこと誠志郎の手を握った。大学を卒業してからも無理に実家を継がなくていいと匠海に行っていた父母ではあるが、孫が出来たことで少々心変わりが芽生えているらしい。すぐに帰って地元に根付けと言っているわけではないのだろうが、苦笑いで誤魔化すしかない誠志郎である。


「誠志郎さんはこっちで仕事があるんだからね。変なプレッシャーかけないでよ」


 匠海が白い目で父母を見るが、「なんにも言ってないよねー」と父母は顔を合わせてシラを切るばかりであった。


 偽の病気療養で長期休暇を願い出ている会社から誠志郎のもとに連絡が入ったのは数週間前。匠海が勝臣の父を救い出した後ぐらいのことである。


『産休育休に変更なさる場合はご連絡ください。それと被扶養者届は5日以内にお願いします』


 無駄な詮索の無い総務からの連絡に、むしろ冷や汗すら流れた。恐る恐る上司に連絡してみると、会社の誰かが『#男性妊娠』を見つけ出し、誠志郎ではないかと上司に報告してきたのだそうだ。ただちに会社内で会議が開かれたらしいが、AIだろうがなかろうが自分の子だと言うのなら扶養でしょとあっさり決まったらしい。配偶者とか住所とかいろいろ変更あるんならさっさと申請してね、とのことだった。国の法律がすぐには変わらなくても、会社単位でならいくらでも融通きかせられるから、と。


 SNSに写真を載せたときから覚悟はしていた。実は辞表も書いていた。だが、誠志郎が思っていたよりも社会は柔軟なのかもしれない。


 誠志郎の弟妹からも見舞いに行きたいと連絡があったが、ふたりの家から研究所まではまあまあ遠い。子供連れでは大変だろうと、生まれたら見せに行くと約束した。残念がりながらも弟妹は、「おめでとう」とひたすら繰り返してくれた。だが、誠志郎の父母の話題は出てこなかった。誠志郎が妊娠していることを知っているのか知らないのかすら、誠志郎からは聞けなかった。



 人身売買組織『楪』の話題は国際的にも大問題となったが、国は知らぬ存ぜぬの一点張りだった。結局『楪』だけが法の裁きを受けた。囚われていたのは自宅で出産された戸籍の無い子供たちや不法滞在の外国人ということになっていた。妊娠している男性の話など露ほども出てこなかった。


 匠海の父たちによって『楪』から秘密裏に保護された男性妊夫たちは研究所で暮らしていた。出産し、落ち着いたらそれぞれの生活に戻って行くという。


 界隈から話を聞いた人たちや、SNSで#男性妊夫を見た人たちで研究所を訪れる者は日に日に多くなっていた。


 それでも国は沈黙していた。


 男性妊娠は確実に存在するのに無かったように、存在しないように目を逸らし沈黙し続けた。




 てっきり男の子の双子だと思っていたので、匠海と誠志郎も、匠海の父母も、男の子の名前しか用意してなかった。


「なんでお父さんとお母さんまで名前用意してんだよ!僕の子供なんだよ!」


「えー、だってー、だってー初孫だもーん。いいじゃーん、名前考えるくらいー」


 駄々をこねる父母に舌打ちする匠海の横で、誠志郎は目を丸くしていた。


「女の子って……、ありえるんですか……?」


 取り上げた楢崎すら信じられないという顔をしていた。


「私も初めてのことなので……」


 聞かれなかったので言わなかったし、確証が持てないので断定しなかったのだが、取り上げてみれば本当に女の子だったことに楢崎は驚いていた。


 だが今後、性器がどのように成長していくのか予想がつかない。両性具有という可能性もある。長く見守らなければならないと、楢崎は誠志郎と匠海に話した。




「鍵崎さんのとこ、ひとりは女の子だったんだって」


 ベッドの横でりんごを剥いている父に勝臣は言った。父は足繁く勝臣のもとへ通った。心配しなくてもたいがいのことは自分でできるし、研究所の職員が手伝ってくれると言っても、父は勝臣の世話を焼きたがった。


「うちも女の子だったらどうしようかねえ。産着、青いのばっかり用意しちゃったからねえ」


 気の早い父はすでに生まれてくる子のロンパースまで用意している。そのうちランドセルまで買ってくるんじゃないかと勝臣は心配していた。


「ないないない。俺のは単為生殖だから、俺とおんなじ男しか生まれない」


 笑いながら手を横に振った勝臣であったが、生まれて来たのは女の子であった。


「ウソでしょーーー!?」


 ここのところ戸惑ってばかりの楢崎は、大きく目を剥く勝臣にも誠志郎にしたのと同じ説明を繰り返した。男性から初めて生まれた女の子。しかも勝臣に至っては単為生殖なのに。


「まあ、でも生物界ではたまにあることなんで。大丈夫ですよ」


 たぶん。と、一番親近感を覚えていいはずの松室が他人事のように笑った。


 男の子の名前と青い服やグッズしか用意していなかった父は一瞬焦りはしたものの、「お花のワッペンでも付ければいいか」とすぐに気を取り直した。名前はリストの中から『(あおい)』ちゃんが選ばれた。




「精巣は残しました」


 楢崎は言った。


「精巣上体に繋がる胎盤を切除し、胎児を取り出した時の精巣の切開部分もなるべく小さくして縫合しました。ただし、これで精子が今までと同じように作られるか、男性ホルモンが元のように戻るのかは、私も初めてのことなので、今後も様子を見て行かないとわかりません」


 精巣を残す手術も初めて、女の子が生まれてくるのも初めて。楢崎にとっても異例だらけの出産だった。


 誠志郎に至ってはもう一度妊娠できるのか。あるいは今まで通り性交できて、今度は匠海を妊娠させられるのか。まったく予想はつかないという。


 勝臣がもしまた睾丸で妊娠するとして、今回使わなかった方で妊娠するのか、それとも両方できるのか。それもまったくわからない。


 わからないことだらけの男性妊娠だが、確実に研究所に受診にやってくる人は増えている。妊夫が増えれば謎は解けていく。楢崎の杞憂も減っていくことだろう。


『楪』からの資金は断たれたが、#男性妊娠の威力でスポンサーが見つかった。国が知らん顔をしても社会が捨て置かなかった。



 中心が変わらなくても、周りから変わっていけばいい。真ん中よりその周りの方が圧倒的に数が多いのだ。周りが変わっていけば、中心も今のままではいられなくなるだろう。いつまでそっぽを向いていられるか。周りはただ堂々と存在するだけのことだった。




 

明日の朝の更新で最終回となります。

どうぞ最後までよろしくお願いいたします。

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