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金玉の土用干し。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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セイシの真理・15



 誠志郎と匠海の子供たちも、勝臣の子供も二十五歳になった。


 心配された娘たちに陰茎や睾丸の発達は見られず、初潮があり生理があり乳房の発達があり、ごく普通の女性の身体に育った。


 町では車椅子に乗った男性妊夫の姿が珍しくなくなり、男性妊夫を診る産科も増えた。社会の変容に国がついて行かざるを得なくなっていた。



 誠志郎は元の会社へ戻り、匠海は大学を卒業したあと、実家とは違う会社へ就職した。帰って来ないことに涙ぐむ父母に「そのうち戻りますから」と誤魔化して20年以上が経過していた。


 近所でも評判の美人兄妹だった。親は夫夫だったが、子供たちはそれぞれ異性と付き合っていた。顔が良過ぎて毎年クリスマスは違う人と過ごしているなどと噂されてもいたが、クリスマスなど二日で何人デートをこなしてるかわからないなどと嘯くほどふたりはモテていた。


 そんな鼻持ちならない兄妹の妹の方が秀麗な顔を曇らせていた。


 珍しく晩御飯ができる前からテーブルについている娘に何かあったのかと誠志郎が尋ねると、娘は二、三度ためらったあと、思い切ったように口を開いた。「彼氏の様子がおかしい」と。


 さて、どの彼氏だろうと思いつつも、誠志郎は話の腰を折らないように先を促した。


 今までしつこくエッチに誘って来ていた彼が、一切娘に触れなくなってきたという。そんな話をお父さんが聞いていいのですか?と目を座らせる誠志郎に、「何もやってないから話せるんでしょ」と娘は白い目を向ける。聞きたくもない娘の超絶プライベートな話を聞かされてるのになんでそんな目で見られなければならないのかと理不尽さを感じつつも、誠志郎は先を促す。そして娘は深刻な目をして言った。


「なんか、睾丸が腫れてるらしいんだよね」


 誠志郎は驚いて娘を見ると、娘は焦って両手を前で振った。


「違う!私は見てないよ!お兄ちゃんが相談されたんだって!」


 娘は情けなく眉を下げて考え込む。


「別に誘ってくれなくなったのが寂しくなったわけじゃなくってさ、ただ病院には行って欲しいじゃない?心配だから。でも現物を見たこともない私から行けって言うのもおかしな話だから……」


 誠志郎が顎に指をあてて考え込むのと、後ろでどさりと何かが落ちる音がするのが重なった。


「あ、おかえり」


 呆然と佇む匠海に、誠志郎と娘の声が重なる。


「まさか……それ……」


「いやいや、匠海。早とちりすぎるよ」


「だって!だってだって!そいつうちの大事な娘に粉かけてたくせに……!」


 半泣きで胸倉を掴んでくる匠海をどうどうと誠志郎は諫める。


「ただの睾丸の病気かもしれないでしょう?それに妊娠してるとしても単為生殖かもしれないし」


「連れて来ーーい!そいつ連れて来なさーーい!」


 泣きながら娘に叫ぶ匠海を羽交い絞めして、誠志郎はため息をついた。今度の健診にその男も連れて行くべきか。でも真実がつまびらかになったら、それはそれで面倒くさそうだなあとため息が止まらなかった。



 楢崎の研究所にはここで出産した家族が定期的に健康診断にやって来る。この日は勝臣とその娘が来ていた。


 勝臣はその後結局結婚しなかった。娘の子育てで手がいっぱい。というより、娘さえいればあとはどうでもよくなったというのが正解である。子供なんか育てられない、いらないと泣き叫んでいたあの頃の勝臣はどこへやら。すっかり子煩悩パパになった勝臣は、父と一緒にそれはそれは大切にひとり娘を育てた。


 単為生殖なりの身体の弱さはあったものの、そんなもの後天的にどうにでも克服し、今ではすっかり健康になった。勝臣の遺伝子しか継いでないはずなのにスポーツも得意で、中学高校とバスケ部で頑張っていた。おかげで身長もすっかり勝臣は抜かれてしまった。親の欲目かもしれないが勉強もできて、親に似てるのに顔も可愛い。頭の先からつま先までどこを取っても自慢の娘だった。


 そんな健康体の娘にいつまで健康診断を受けさせなければならないのか。いい大人になったことだし、もう1年に1回でも2年に1回でも間を開けてもいいのではないかと楢崎と相談してみるかと勝臣が思っていたとき。思いがけないことを楢崎に告げられた。


「妊娠!?」


 大声で叫んでから、勝臣は放心した。


 娘が、妊娠。大切なひとり娘が、妊娠。あんなに悪い虫がつかないように目を光らせていたのに、妊娠。


「ウソでしょ……」


 父を連れて来なくてよかったと勝臣は変なところでほっとした。孫娘を溺愛する父が聞いたら泡を吹いて卒倒、悪ければそのまま死んでしまいかねない。


「それが、性交した形跡が無いんです。もちろんご本人も否定していらっしゃいます」


「え……。それって……」


 戸惑う楢崎の目と声を失う勝臣の目が合う。


「お父さん……!」


 検査がすべて終わったのであろう娘が扉を開けて楢崎の部屋へ飛び込んできた。そして泣きそうな顔で勝臣に抱きつく。勝臣はそれをしっかりと受け止めながら、楢崎の目線を外さず呟いた。


「まさか……」


 楢崎は頷いた。


「そのようです」



 果たして遺伝かたまたまか。楢崎の仕事と勝臣一家、そして誠志郎・匠海一家の杞憂はまだまだ終わりそうになかった。



    おしまい。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

男がキンタマで妊娠しましたとさ、ちゃんちゃん。で軽く終わるはずが、思いがけず長くなってしまいました。落語っぽくするつもりが『風』にもなってないし、面目無い。


子供に性教育をしようと思っても、『睾丸』『陰茎』『膣』など、性器にまつわる単語を口に出して言うことが恥ずかしくてできないという話を聞きました。

本編に出てくるキャラクターたちはコメディではありますが、揶揄いや冷やかしではなく、ごく大真面目に『キンタマ』や妊娠について考えています。

心のハードルが下がる一助になれば幸いです。


拙文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


次は犬兄弟3かな?どうかな?

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