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おだまり!  作者: 倉名依都
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31.それからどうなったかというと

レン

レンは凄く大変だった。数学と物理と天文と生物と、ま、とにかく。教科書を作りながら、徹底的にジュラルディンに科学を詰め込んだ。

キャリコが同席したいというので、一緒に詰め込むことにしたが、付き添うだけの筈のケイが当然のように座って必死に話を聞いている。

そのうちに話を聞きつけて、数学だけでいいからという会計監査部の貴族のおぼっちゃまが来るようになった。そいつらには個別に表とグラフを教えて、ついでに数を見ただけで虚偽記載を見破る方法を教えて追い返した。

ああ、めんどくせぇ、なんで人数がどんどん増えるんだ?

公爵邸は、いつの間にか理系の私塾と化していた。


サブサイダーズ

サスキント公爵から契約金の倍の料金を受け取り、冒険者ギルドでも正規の料金を受け取ってしまった。これで次に公爵家から依頼があっても断れない羽目に。

そもそもキャリコは公爵邸から帰ってこない。

キルエットは大笑いしながら、もとの薬師稼業に戻り、トニオはマユと神虎のウッドハウスに戻り、スカリーは鱗をくれた水龍に会いに行った。


オクタビア(こより)

まだ設立して日が浅い女性騎士団の育成に必死だ。

公爵家の名で残された礼物は、団長・副団長への見事な剣であった。それに加えて、公爵家からの礼金の他に、シュレディンガーの名で女性騎士団年間予算の10倍もの白金貨が包まれていた。

「坂下、がんばれよ」というレンの声が聞こえるようだった。

オクタビアは小芝居を思い出して、公爵家の方に手を合わせ“ナマムギナマゴメナマダイズ”と唱え、ぐふふ、と笑った。

そして、何度も腹に力を籠め直しながらその白金貨で騎士団の整備を進めていった。


公女

ジュラルディンは、公爵邸に戻ってすぐに母に謝りに行った。

母は、怒ると思ったのだが、これが意外と。大笑いしてまたもやマイアに叱られていた。

「あらー、ジュリエッタのままでもよかったのよ?」

「おかあさま、お許しください。わたくしが悪うございました」

「あらまぁ」

それだけのことだった。


公女はベッド以外で眠ったのは初めてだった。野営の日、テントの中、地面に直接毛布を敷いた雑魚寝で、寝衣に着替えもしないで失神するよりも速やかに眠りに落ちた後、人生に悟りを開いたといっていい。

真理は意外と簡単なところにある。彼女は「これは自分にはできない」ということがわかった。全く適性がないことを知った次第だ。人間も適材適所、彼女は自分のフィールドで戦うことにしたのだ。


女性騎士に皇太子妃が務まらないのと同じように、公爵家の娘には女性騎士は務まらない。

要するにそれだけのことなのだが。彼女の悟りはそれなりに尊いものである、特に自分自身でその結論にたどり着いたという意味で。


ジャンヌマリーア

公爵夫人の目からすれば、ミリカンジャの女性騎士団に体験入隊に行く娘ジュラルディンの最終選択については疑いの余地もないことだった。むしろ、必ず野営訓練を組み込むようにレンにアドバイスをしたのは夫人だった。

これは、皇妃ユリアナがまだ皇太子の婚約者だったころの体験と同じものだったからだ。


皇太子妃は、普通、侯爵家から選ばれる。それは、侯爵位が元の属国の首長に与えられる地位であり、皇帝家としては征服した、あるいは服従を得た領土とよい関係を保つ必要があったからだ。

ユリアナは、100年ぶりに伯爵家から出た皇太子婚約者だった。

伯爵位は、帝国がまだ王国だったころから仕える古くからの臣下に与えられた地位である。


彼女は苦しみ、見かねたサスキント家が助けに入った。それを実行したのが、当時まだ公爵家の婚約者であったジャンヌマリーアであった。

実際は、主に実家デュラック侯爵家の力を借りたのではあった。


ジャンヌマリーアは、ユリアナを実家の領地へと招き、そこで泣きながら心を打ち明けるユリアナに寄り添い、ちょうどレンがジュラルディンに言ったと同じように、「よろしいですわ、それではあなたとともに神隠しに遭ったことにして、ふたりで冒険者になりましょうか」と慰めた。


逃げ道を用意されて有頂天になりかけているユリアナに、「では、とりあえず、冒険者らしく裏山を探索、夜はテントで眠りましょう。きっととっても楽しいですわ」と、まあ、野営訓練とほぼ同じことを提案したのである。

裏山と言っても、ミリカンジャとの国境、ジャンヌマリーアの父が崖から落ちたほどの難所もある。テントと言っても麻の布を木の枝に掛け、両裾を折り返して縫い,そのポケットに石を入れて広げただけのものだ。


結果は言うまでもなかった。上位貴族の娘が山を探索し、テントで眠れば、翌朝は体中の骨と筋肉が傷んで、起き上がることさえ困難になるのは当然だ。ましてトイレともなれば。

その点、ジャンヌマリーアは育った場所がこの領で、幼少時から12歳まで山も森も探検し尽くしているから別物である。平然と日の出とともに起き上がり、

「楽しいですわね、いつ出奔します? これでわたくしも公爵夫人の重責から解放されますわ」

と、にこやかにユリアナに尋ねたものだった。


ユリアナも、ほぼジュラルディンと同じ決意に至った。隣の芝生をうらやんでそこに自由があると思った自分を恥じた。ジャンヌマリーアに婚約者を取り換えてほしいと泣いてすがった自分を。

この友と呼ばせてくれた侯爵家の姫なら、ひとりで公爵家の婚約者という立場から逃げ出して冒険者として生きて行ける。それなのに、あえて公爵家を選び、そこで義務を果たそうとしている。こうして自分を野営に誘ってくれたのも、その義務の一半なのに。

彼女は、本気で自分を冒険者にしてくれる気でいるのだ。

ユリアナは、さすがに伯爵家の姫だった。一夜で自分はひとりではないことを知ったのだ。



皇妃ユリアナが貴族の娘という繭を破り、皇太子妃として繭から出てきたあの瞬間、自分のフィールドで、自分の戦いをするということを決意するに至ったあの夜を、娘も経験するだろうとほぼ見当がついていたのだった。


トニオ、気合い入れて行けよ! ジェマに嚙みつかれて、ヴィエントにニマニマ笑いされっぞ!

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