32.婚姻式
ジュラルディンは、粛々と進む準備に軽々と乗って、皇太子妃となる日を迎えた。
衣装はクリーム色の生地を、皇城の侍女とメイドが順に手を掛け、婚約期間の3年を掛けてキルティングして仕上げたものだ。帝国皇妃の正式な婚姻衣装を踏襲、ベールもなければブーケもない。ただ手を取り合って進む。
襟6枚、片袖3枚、身ごろ10枚、スカート20枚を、パーツに分けて裁ち、各布を表地、中綿、裏地と3枚重ねにする。
パーツごとに裁縫部屋・縫子から主任を決めて、手が空いている時間に侍女やメイドが裁縫部屋まで来て、布と同じ色の糸で皇家からジュラルディンに与えられた花紋を描いて、表・中・裏3枚に針を通して縫い取る。コツもあるが、道具もいる。力も必要だ。
各パーツは、木製のキルトリング(刺繍輪を大きくして、足をつけたもの)にセットされていて、キルティングする女性はスツールに腰を下ろすか、膝をついて、3枚の布に対し直角に針を入れていく。指には針を押すための金属のキルト用指輪を嵌める。
大変な仕事なのであまり長時間は続けられないのが普通だ。互いの進行速度を見ながら、パーツの抜けがないように、針目が揃っているように調整していくのも主任の仕事だ。
皇太子妃の花嫁衣装だ。名誉に掛けて針目の乱れは見せられない。
仕上がったものは、スムースな布ではなく、凹凸が模様に浮かび上がる。
そのパーツを縫い合わせて、出来上がるのだ。
いや、お疲れさんというか、重い。ドレスも重いが、代々の皇太子妃が身に着けて来た宝飾品の重さも大概ではない。それに加えて皇宮に勤める侍女とメイドの想いが、皇太子妃に重くのしかかる!
ジュラルディン、着て歩けるか?
歩いているねぇ、ジュラルディン。いやー、朝練していてよかった。
花嫁の美しさにボケ顔になりかけている皇太子の左腕に手を預け、ブライズメイドを務めるジュリエッタに長く引いたドレスの裾の面倒を見てもらいながら、両陛下と公爵夫妻の待つ祭壇に進んでいく。
祭壇の設えられている細長い部屋の壁際には、皇宮侍女が並んで控えている。
涙が見えるのは婚姻式に感動したからというよりも、ドレスが間に合ったという安心からではないだろうか。いやいや、そこは疑ってはいけないところか。
ふたりが歩く道は、近衛兵が両側から剣を合わせて作っている。
両親に礼をし、場所を交代して義両親となるふたりに礼をして、儀典長が持つ婚姻書類にサインをしている。
このふたりがどんな治世を築いていくか、それは誰にもわからないし、割とどうでもいいことだ。ブライズメイド・レンが祈ることはただ一つ。
「頼むから女の子を産んでくれ!」
なんか、惑星の運命がかかってるらしいし?
End of the story.
This is titled “Stop and Goaway!”
by Granite
お読みいただき、ありがとうございます。
いやー、きちんと三部作の形式を整えて、最後がウエディング・マーチで終えられてよかったです! 危うく公爵家の姫を冒険者にしてしまうところでした。思いとどまれてよかった……
寒さもあと一息。いや、積雪が多いところは5月の連休まで雪が残るのでしたね。
どなたも、ご自愛くださいませ。
またお会いできる日を楽しみにしています。
倉名依都




