23.サスキント公女は決められない
ここからは、公女の選択です。公女に対してかなり辛辣です。
誰かを非難する意図はありませんが、読んで辛いと思う方はあるかもしれません。
ジュラは“立場の弱さという鎧”を脱ぎ捨てて、母や皇妃の辿った道を追うでしょうか。
それともレンに甘えて逃げ出すでしょうか。
そしてレンは?
3部作の3作目なので、1作目からは作中予告通り”調停者“チームを、2作目からは坂下こより(オクタビア)を呼び出しました。高坂真由についても、その後が少しわかるようにしてあります。みんな元気に異世界暮らしを楽しんでいますよ(love)
すでに就寝の時間を過ぎ、寝衣に包まれてベッドに入っている時間だ。
公女とレンの寝室を繋ぐドアが開き、レンが手に文を持って入ってきた。
「一姫さま?」
「ああ、返事が来たぜ」
「さかしたこよりさま?」
「そうだ」
「この手紙について話をする前に、おまえに聞きたいことがある」
「はい」
「ジュラ、どうする。
逃げるか、皇太子妃になるか。心は決まったか」
公女は真剣な顔になる。
「皇太子妃は誰かが努めなければならない役柄です。それがわたくしに巡ってきたのは不運だと思います。追いつめられていたのは、今から考えるとよくわかります。
皇太子についても、好ましい男性という訳でもなかったのだと思います。ですが、それについてもレンさまが力を尽くしてくださいました。
どちらも、レンさま最初の日におっしゃったように、わたくしの代わりを務めてくださり、状況は非常によくなったと思います。
本当に感謝しています」
「皇妃となるべく生まれそのように育てられたわたくしに、逃げ道はありません。皇太子かわたくし自身の死以外にこれを免れる方法はないかと思います。まさか婚姻まで男性であるレンさまに代わっていただくことはできません。
レンさまの示してくださった、女性騎士になって、ミリカンジャ王女のおふたりとレンさまと、4人一緒に生きて行くという可能性に憧れ、救われております。
決めなくてはならないことは、重々承知にございます。ですが、決めかねて迷いばかりの毎日にございます」
「お尋ねします。仮にわたくしが女性騎士の道を選んだとして、どのようにして帝国からミリカンジャ国へ移動いたしますのでしょうか。どのように逃げようとも国を挙げて追われ、レンさまは誘拐罪を負わされるのではありませんか」
「ああ、それな。
それで坂下に連絡していたんだ。坂下は、高坂真由先輩の師匠・キルエット師から転移陣を習ったそうだ。いろいろ考えていたんだが、坂下の転移陣が簡単でいい」
「転移陣?」
「そうだ。坂下がミリカンジャの女性騎士団隊舎に転移陣を持っているんだな。そこは高坂先輩の家とも繋がっている。
で、坂下に帝国に来てもらう。俺の持っている、というか、シュレディンガーの姫の資産に別荘があるから、そこに転移陣を貼ってもらうのがいいだろうな。
で、まず俺が転移陣に乗せてもらって、ミリカンジャ往復するだろ?
そうすりゃもう一発だ、いつでも一瞬でおまえを連れてミリカンジャだな」
「後はどうなさいます?」
「あと? 後って?」
「いえ、ほら、帝室とか、皇太子とか、婚姻式とか、公爵家とか」
「全部放置!」
「ええー!」
「神隠しとかでいいんじゃね?」
「はあ」
「過激だったか? でもな、オレの目から見りゃ、おまえには婚約を解消する権利がある。そもそも婚約したときに意思を確認されていないからな、ま、日本基準だがな」
「そうなのですか? 結婚は家同士のもので、本人の意思は関係ないのでは」
「それで娘に死なれる訳だ。この場合、神隠し。
おまえがいなくなるとする、次の候補はジュリエッタ姫だが、一緒に居なくなる。
どうしようもないから、誰かがやるだろ?」
「そんな無責任な」
「おまえね、逃げるときは全部捨てて逃げるんだ、後に残る奴や残していく物のことを考えられる間は逃げられねぇ。生きるか死ぬか、死ぬより少しマシだから逃げられるんだよ」
「おまえはどうなんだ。
一応言っておくが、おまえが逃げるなら、おまえだけじゃなくブライトンも他の相手を選んでいいことになるんだ。未来への分岐点だな」
公女は責任感と開放への渇望の狭間で揺れ動く。未来への分岐点とまで言われて、そう簡単に選べるはずもない。
(え? 殿下はわたくしでない方と婚姻の日を迎える? ええ、確かにその通りですわね)
「決められません、そもそも自分で決めていいかどうかわかりません」
「寝ろ」
レンはそう言い捨てて、並んで座っていたベッドから立ち去った。




