第三章「ストレガ義賊団と商隊の裏事情」 2
私たちがマティーニから呼び出されたのはそれから間もないうちのことだった。
訪れたのは初めて彼女と話したあの窓のない部屋。廃墟の村にある教会の地下に用意されていたこの部屋はこの義賊団の最重要拠点として機能しているようで、見れば先日にはなかった周囲の地図がテーブルには開き並べられて、その地図には様々なおそらく活動内容か作戦を記しているであろうメモが張り付けられていた。
マティーニ本人は椅子に座り、にらみつけるような難しい顔をしている。
「よく来たわね。まずは座りなさい」
やや苛立ちを感じる声に促されるまま、私とギムレットは用意されていた椅子に腰かけた。
「さてと、ギムレットだったわね。内容は仲間たちから聞いているわ。王都からの輸出物と移民、あとあんたの素性がロブロイ先生の弟子だったとわね」
「そいつはどうも、想定できる事態が事態だからな。手っ取り早くいこうぜ」
ギムレットが身を乗り出し、話を促した。
マティーニは難しい顔を崩さず話しはじめた。
「商人に尋問する件ね。確かにアブジンスキーを売りさばいていた商人はまだ義賊団で身柄を抑え、生かしているわ」
「なら、すぐにでも締め上げちまったほうがいい。現状をより確認しないとまずいのはわかっているだろ。俺ならそれができる、なんたって―――」
ギムレットの台詞をマティーニは「しかしね」と遮った。
「アタシはあんたが信用できない」
その言葉にギムレットが固まった。
さすがに仲間に入り、数日だけ、しかも土を耕していただけだ。彼女の信用を得るにはまったくもって足りないのだろう。ロブロイの弟子という肩書ももしかしたらうさん臭さに拍車をかけてしまったのかもしれない。
「なっ……? おいおい、時間がかかっちゃまずい事態だってのはわかっているんだろう?」
「どうだかね。アタシとしてはあんたと商人がつながっていて、狂言を吐いているというほうが有力だ。悪いがすぐに商人に合わせるわけにはいかない。」
「まじかよ」
そのままテーブルに突っ伏したギムレット。
さすがの学者も信用の壁には形無しだったようだ。
うーんと突っ伏しままうめき声が聞こえてくる。
「ならば、私たちは何をすればあなたの信用を得られるのだろうか?」
同伴しておいてさすがに何もしないのは悪いだろうし、私も今後のことを考えるとマティーニの信用は得ておきたい。
私の言葉にマティーニは「そうね」と呟き言葉を続けた。
「だったら、傷薬の素材になる薬草の採取をしてもらうわ。その成果によってはアタシはあんたたちを信用しよう」
「薬草か、この地帯に群生地があるのか」
「ええ、とびっきりのがね」
終戦直後に発動した『精霊』の影響により、ルコアルの大地は荒廃するか、異常繁殖した森林が発生するかのどちらかになってしまっている。
その影響で傷薬で使える薬草などはその異常繁殖した森林の中でしか採取することができない。
森林は一種の迷宮となっており、中には人知外のケモノ、怪物としか形容できない生物、自然界の法則からはみ出た植物、などが潜み人を襲っている。最悪の事態を考えるなら死ぬことさえ考えられる恐ろしい場所だ。
マティーニは私たちの力量を知りたいのだろう。知ったうえで扱いを決めるということか。
「わかった。ならすぐにでも準備をするから、森林までの案内を誰かにお願いしてほしい」
私は彼女の提案を受けることにした。
危険な話ではあるが、できる可能性は確かに高いし、森を歩き回るのには多少覚えがある。
ほぼ、即答だった私をどう思ったのか、整った彼女の顔が口元が吊り上がり、すこし驚いたような、面白がっているような表情をした。
「いいわね。なら案内はアタシがするわ」
「へ?」
今度は私が固まる番だった。
なぜだろうデジャヴを感じる。
私は心にひっかかかるものを感じながらもマティーニに確認をした。
「……君が?」
「ええ、そうよ! 分かっているだろうけどアタシ、戦闘には心得があるわ。あんたら二人ぐらいならサクッと燃やせるしね」
「……」
自由奔放、猫かぶり、馬脚を現す。思わず言葉が頭をよぎるが黙っておくことにした。
とにかく私は出発の時間を決め、ギムレットを促し準備のために部屋を出ることにした。
とんでもないないことになってきたと、ただどこか懐かしさを感じながら。




