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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第三章「ストレガ義賊団と商隊の裏事情」 1

 ストレガ義賊団は自称王都の魔女マティーニを中心に結成された40人規模の集まりだ。

 廃墟の村の地下を拠点にしており、表向きは農作業で生計を立て、裏では王都へ向かう商隊を襲っている。マティーニいわく「別の国の人間が王都の貴族たちに取り入り、違法な物品を王都に輸入しているのよ。だからそれを防いでいる」らしい。

 違法な物品とは主にアブジンスキーと呼ばれる薬。依存性の高い薬らしく、接種が増えてくると無気力になる厄介な薬だ。彼女曰く徐々に輸入量が増えていっているそうだ。


「まったくもって惜しい」


 ギムレットはそうぼやきながらクワをふるっている。

 私もその隣でクワをふるいながら、ギムレットの言葉に耳を傾けた。


 ここは廃墟の村の農業地帯、獣よけの大きな柵で囲われ、遠目には枯れ木で覆われた山が目に入る。この街に続く街道はつぶされているのか見当たらないあたり、私たちが逃げ出しづらい環境にいるのは明らかだった。おまけにクワをふるっているのは私たちだけではなくほかの盗賊……いや、義賊のメンバーたちも混じっている。自然と監視も入っているというわけだ。

 義賊団に入って一週間、私たちに割り与えられたのはここでひたすら地面を耕すことだった。


「ギムレット惜しいとは何の話だ?」

「この間の商隊を襲っている話さ、あの女の話が本当だとしたら惜しいなぁって、な」


 ギムレットはクワを振り下ろし、小気味のいい音を鳴らしながら地面を耕していく。

 私はギムレットの話の続きを促すことにした。


「他国からの輸入を妨害している話か? ギムレットはどう思っているんだ」

「本当に商隊の中にアブジンスキーを売りさばいているやつがいたのなら、王都が攻撃を受けている可能性が高い。マティーニ嬢は輸入を抑えればなんとかなると思っているかもしれないけどな、攻撃しているやつが本気で王都をつぶそうとするならば、輸出していく商品や移民する民もチェックを入れるべきだな」

「薬だけではないと」

「師匠の本にも書いてあった国を落とすための手順の方法だな。臣民を堕落させ、武器を奪い、国の機能を低下させる。結構有名な戦略ってやつだ」

「堕落させるというのは薬か、しかし武器を奪うというは、どうするつもりなんだ」

「んー、例えばだけどな。王都は冒険者を当てにする武器職人、精霊術を研究する精霊学者なんかがいるだろ。そいつらにこっちの国のほうが実入りがいいぞと甘言をかけて移民を促す。王都の機能が低下気味で商売あがったりの職人や学者は移民するだろう、とな」


 クワを振り下ろしながら事もなしにと物騒なことをギムレットは返してきた。

 彼がよく行う考えこむしぐさが全くなかったのを見ると、彼が言っていた学問の一端なのかもしれない。しかしギムレット自身がその話には直接触れてほしくないといっている以上、確認をしてみるのも野暮というものだろう。


「なるほど、生活の保障か、それに近い条件をちらつかせて内部の戦力の根幹を奪ってしまう寸法か。しかも王都の戦力がマイナスになるだけでなく、敵国の戦力はプラスの効果も兼ねている」

「お、さっすが相棒。いいところに気がつくぜ。さらに言うなら輸入輸出をしている商隊をその国が直接依頼しなくても、もう一つか、二つ、他国や商業を取りまとめている組合を噛ませていれば直接追及される可能性は低くなるってところだな。そこまでやっているかどうかはわからないが、もし捕まえた商隊の中にアブジンスキーを売りさばいているクソ野郎がいて、問いただせばはっきりするだろうさ」


 もしアブジンスキーを売りさばいている商隊の人間がいて、その人間ないし商隊が武器職人や学者を勧誘し別の国に移民を促しているとすれば、これは時間が経過していた分深刻なダメージを王都が負うことになる。

 最悪、戦力同士をぶつけ合う実際の大規模な戦闘がおこる際に、敵は最新の武器と精霊術を使い、王都の陣営は手持ちの武器だけで戦わなければならないし、壊れた場合は直す時間が莫大にかかるか、修理すらできなくなる可能性さえある。

 冒険者を傭兵として雇うこともできるが、褒賞金がかかる上に、下手をすると冒険者たちも薬の餌食になっている可能性もある。


 私の周囲の義賊たちも話に耳を立てていたのかざわつき始めている。

 ああ、なるほど。これはギムレットの一手というわけか。


「ということは、ギムレット。君ならばそのクソ野郎とやらを問いただせば情報を得られるわけだな?」


 おや、とギムレットの表情が一度変わった。それから少しおいてニヤリと少し悪そうな笑みを浮かべる。こうも露骨に悪だくみをする人間の笑みを見せられると演技か何かなのかだとおもうが、ここは触れずにおいておこう。

 その演技かかった笑みを浮かべながら普段よりも少しだけ大きく、緩やかな声で周囲に聞かせるようにギムレットは声を上げた。


「そうだとも相棒。何せ俺は師匠はロブロイ。伝説とそれと同じだけの悪名をこの大陸にとどろかせた王都の軍師ロブロイだぜ。」


 静寂が場を包んだ。

 私は詳しくは知らないが、名前ならば聞いたことがある。

 軍師ロブロイ。戦争と共に姿を消した王都の重鎮の一人だ。

 政に長け、王都が今の地位として他の町、村を従えているのは彼の人物の力だとも聞いたことがある。

 嘘か真か、ギムレットはそんな偉大な人物を師匠と称した。

 場が静かになるのも無理はない。

 皆、判断に困っているのだ。

 ただ、王都の状況の考察といい、もしかしたらと感じる部分もある。

 

「本当なのか?」


 いろいろ思考を巡らせたが、こんな陳腐な質問しか私にはできなかった。


「ああ、そうだとも」


 大声でうなずいた後、ギムレットは小声で私だけに続けた。


「でも、今じゃあの爺さん、いろいろ嫌になって隠居中なんだぜ……名前出したことバレたらまた何言われることやら、まいったまいった」


 ギムレットはそういって慣れた風に肩をすくめた。

 

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