第二章「旅の学者と盗賊」 4
その後、私たちの立てた作戦は実にシンプルなものだった。
護衛付きの荷馬車を奪うほどの戦闘技術、人数に二人では太刀打ちできないと判断し、そのまま盗賊たちに捕まり、隙を見てお互い奪われた品物を取り返すというものだった。
ギムレットの言葉を借りるとするならば、「そもそも、荷物を奪うだけなら人をさらう理由がない。もし奴隷にして売りさばこうなんて考えても、高くは売れそうにないおっさんだって殺さずにいる。これはどういうことだ? 可能性があるとするならば人売りではない何か別の理由で人を集めている可能性がある」とのことだった。
そうして通された部屋で、私とギムレットはお互いどういった顔をしていいのか分からずにいた。
「さて、あんたたちで最後ね。アタシの名前はマティーニ。この義賊団の長をしているもんだ」
部屋には窓はなく、中央に大きく頑丈そうな木のテーブルが設置されている。そのテーブルの向こう側には2、3人が座れそうな長椅子が配置され、そこに腰掛けているのが今、名乗りを上げたマティーニという女性だ。
その容貌は盗賊とは言い難い、整った容貌をしていた。
歳は私と同じぐらいだろう。光の加減で赤く煌めく髪に、意志の強そうな瞳、何より盗賊とは似つかわしくないドレス姿。
髪こそラフに後ろでまとめているが、どちらかと言えば貴族だといわれたほうがまだしっくりくる。
「それであんたたちの名前は?」
強烈な違和感を感じながらも私とギムレットはそれぞれ名前を伝えた。
「―――ふんふん、なるほど、覚えたわ。それで早速なのだけど、本題よ。あんたたち私の義賊団に入りなさい。そうすれば命は救ってあげるし、三食と寝床の確保をしてあげるわ」
「は……?」
一瞬、何をいっているのかわからなかった。
ややあって盗賊の仲間になれ、と言われたことを理解し、私はなおのこと混乱した。
返事がすぐに出ないことで焦れたのか、硬直した私の代わりにギムレットが言葉をつづけた。
「おいおい、どういうことだよ?」
「言葉通りだ。アタシたち義賊団はこれから大きな奪還作戦に入る。だから人が欲しいの」
「奪還ねぇ。マティーニ、ここは義賊団といったが、あんた何をするつもりなんだ」
「アタシは、いや我々『ストレガ義賊団』は王都エイトワーズを奪還する」
……あんまりなセリフに私は混乱の末、頭を抱えた。
見ればギムレットも開いた口がふさがらないのか、なんだそれはと叫びたい心情が表情だけで読み取れる。
王都エイトワーズを奪還する。
それはつまり、王都を乗っ取ろうというのだろうか。
「悪いが、意味が分からない」
「今の王都には魔女はいないわ。それももう何年も前から。今やつらは魔女の代わりを用意し王都を我が物顔で牛耳っている」
本当ならよほどうまくやらなければ、今頃王都は大変なことになっているだろう。
私が記憶している限りではそういうことはないはずだが。
「……なぜ、君が知っている」
その言葉に突然目の前で炎が生まれ、爆ぜた。
思わず身を引く。精霊術を使われたと理解したが、本来の手順をすべて無視している。
本来の精霊術は道具を用いて霊素を呼びやすい環境を作り、詠唱に意志を乗せ霊素と呼ばれる現象を起こす、仮にその過程をすべて飛ばせる存在がいるとすれば、それは。
「そりゃ、アタシが王都の魔女だからよ」
右手に火を、左手に氷を浮かせマティーニはそう言い放った。
常人にはたどり着けない、精霊に語りかけることで未来をも見透かす力をも持つという国の象徴とも呼べる存在。
全てを信じきれないが彼女の能力はそれに近しいものを感じる。
ギムレットを見ると参ったという風に口をへの字に曲げていた。
「……だいたい君の予想は当たっていたみたいだなギムレット」
「へへ、そういってくれると嬉しいね相棒。」
「それであんたたちはどうするのかしら? 義賊団に入るか、それともこの場で消し炭になるか、好きなほうを選んでいいわ」
拒否した瞬間即座に燃やされるとあってはどうしようもならなかった。
その日、私とギムレットは義賊団へと加わることになったのだった。




