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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第二章「旅の学者と盗賊」 2

 ギムレットから借りた本はなかなか考えることが多い内容ばかりだ。


 たとえば国のあり方についてこの書では二種類の国あり方が書かれている。ひとつは『民のための国』で、もうひとつは『国のための国』と定め、『民のための国』はその国に生きる民を生かすために活動し、『国のための国』はその国あるいは象徴のために民が活動をする。国を動かすものとして、まず示さなければならないのはこのどちらかのあり方である。示せぬ者には国を動かす資格はないと締めくくっている。


 確かに国は自国がどのような国なのか方向性を決める必要がある。

 それを見て国民は国に留まるのかを決めるだろうし、隣国のほうが自らに住みやすい方向性ならば彼らはそちらへ行ってしまうだろう。


 私は一度本を閉じ、荷馬車から外を眺め、自分のダイキリの部族のことを思い出してみた。

 自然とともに生き、土を敬い、風を読み、ルコアルの自然とともに生きる私の帰るべき場所。

 この本に当てはめるのなら、ダイキリの部族は民のための部族なのだろうか、それとも部族という象徴のための部族なのだろうか。


 改めて自分に問いかけてみると、うまい言葉が出ないものだ。自分がいかに未熟か思い知らされる。

 部族の長になるということは人の命を預かるということだ。それには部族の未来を決める意思が必要なのだ。強く、厳しく、それでいて皆を安心させられる力。


「こんなことではいけないな……」


 流れる景色につぶやき、私は再び本を開きなおした。旅は始まったばかりなのだ。未熟なところは変えていけばいい。そのための旅なのだから。


 行程としては四分の三、王都まではあと二日といったところだろうか、ようやくあたりは草木が生え始め、馬車の中を通り抜ける風には土埃の粉臭さがなくなってきている。

 私やギムレットが同伴させてもらっている行商隊は、夜になり野営の場所を決め、旅の足を休めることになった。


 私は荷馬車を降り、そばで水ランプに油を敷き、火の霊素たちを集め、火を起こした。水ランプとは戦時中に発展した精霊学が生み出した発明品で、火の霊素を逃がさぬように氷の霊素とガラスでつくられたランプだ。ランプの灯かりは火の霊素が逃げるまで燃え続けるので、半ば消えることなく使い続けることができる便利な品物だ。


 周りを見渡せば同行している者たちは荷馬車で寝るか、同じようにランプで灯りを作り、外で自分の作業に勤しんでいる。


「なあ、ギムレット。この東の国は果たして『民のための国』だろうか、それとも『国のための国』だろうか?」


昼間読んだ項目を思い出し、私はギムレットに疑問を投げかけた。


「んー、民のための国ってわけじゃないと思うぜ?」

「ならば、国のための国だろうか?」


 国を守るために戦争を起こしたのだからどちらかというとそうじゃないかと私は思う。


「うーん。それも俺はそれも違うと思うわ」


 私の予測を否定した彼はぽりぽりと頭をかきながら、なんといったことかといったと思案し言葉をつづけた。


「しいて言うなら、個人のための国だな。そんな感じじゃないのか今は」

「どういうことだギムレット?」

「なに、師匠の本に書かれているのはあくまでいい国であるためにと書いているわけで、今のこの国はいうほどよくはなっていないってことだよ」


そうなのだろうかと私は少し思考を巡らせてみた。

確かに戦後の治安の悪化によって交通機能は低下し、物価はその危険に合わせて上昇した。治安の悪化の原因は飢えや物資の供給が少ないからだ。しかし戦争に負けた国として物資を生み出す土地は奪われ、我々に残されたのは『精霊』によって生み出された広大な不毛の大地と異常繁殖した森林群。ダイキリの部族にいるときにさまざまな土地を巡ってきたがこれをどうにかできない限り、物資不足はどうしようもないのではないだろうか。


「それは敗戦によって国としての機能が低下しているのが原因だろう? 私が見てきた土地は戦争の影響で草すら生えない土地か、植物の異常繁殖がひどく人が住めなくなってしまった土地ばかりだった。それが改善されればなんとかなるんじゃないか?」


私はその自分の意見をギムレットに投げかけてきた。


「さすがは遊牧の民だけあっていろいろな土地を見ているんだな。確かにそうだ。国の機能が低下しているということもあるだろうさ。しかしなどうにも俺はそれだけじゃないと思うんだ。」

「というと?」

「あまり考えたくはないんだがな。この期に及んで利益を手に入れようとするやつらってのは案外多いもんなんだよ。いや、これを幸いにかな。たとえばそうだな―――」


 ギムレットが自らの意見を口にしようとしたとき行商隊の人間の怒鳴り声が響いてきた。


「――――盗賊だ!! 盗賊が出たぞ!!」


 叫び声とともにあちらこちらで剣戟の音、悲鳴が聞こえてくる。

 盗賊の夜襲だと身構えた私の目の前にも、屈強そうな男が血の滴る剣を構え現れた。


「おい、あんたら。荷馬車に戻ってもらおうか。こっちだって殺しをしたくてこんなことしてるわけじゃないしな。もっともしたくないだけで、出来ないわけじゃないっつうのだけは、分かってほしいわけだが、どうする?」


 数がどれだけいるとも知れず、相手の技量を測れるほど私は戦闘に長けているわけでもない。それはギムレットも同じようで、おとなしく両手を上げていた。

 私も抵抗の意思がないことを両手を上げることで伝えた。


「で、たとえばなんだって。ギムレット?」

「……こういうやつらのことだよ。ああ、まったく短い人生だったことで」


 皮肉交じりのギムレットの言葉は流し、私たちは荷馬車に戻った。

 護衛が盗賊を蹴散らして、無事王都にたどり着けるようにと祈りながら……。


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