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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第五章「魔女と勇者の血脈」3

 貴族区は円状に屋敷が並ぶ特殊な地区だ。

 中央から第一周区と数え始め、第二周区、第三周区、そして他の地区の区間壁に最も近いのが第四周区にあたる。

 貴族の位に応じて、土地が割り振られており、中央に近いものほど、貴族としての地位が高いらしい。


「次はどっちっすか?」

「次は左に、いや5秒ほど待ってから進んでください」

「了解っす。1、2、ーー……」


 私たちは第四周区に敷かれている馬車が通る広い道を進んでいる。

 暗がりの道をマティーニとシャンディが水ランプで照らし、ガフがリアカーを引く、私とギムレットはリアカーを挟み、並び歩いている。

 リアカーの上には気絶したガリアーノに加えて、ニコラシカも乗ることになった。


「4、5ーーーーおっ?」


 ガフが5秒を数え終わると、少し先に何かが落ちてきた。暗くて見づらいが猫か何かだろう。

 それを確認したあとガフはリアカーを引き、我々もそのあとを追う。

 こんなやりとりがこれで5回目。最初は懐疑的だったが「主人を起こしたくないので、指示に従い、静かに進んでほしい」といったニコラシカの発言も現実味が出てきた。

 見れば、彼女は再び手帳を広げて何かを確認している。


「なるほど、師匠から聞いたことあるんだが、あんた預言書使いってやつか」

「預言書使い?」


 ギムレットから出た聞き覚えのない単語に、私は言葉を返した。


「俺も実際に扱う人物は初めて見たんだが、預言書を操り、未来を見通し、改竄する力があるらしいぜ」

「それはすごいな」


 改めて彼女を見る。

 ギムレットの言葉通りならあの手に持った手帳が預言書の代わりなのだろうか。


「お気づきでしたか。ええ、その通りです。

 ですが、わたくしの力はほんのわずか先の未来を予知するだけ。主人に拾われなければ不良品として始末されるところでした」

「始末とは穏やかではないな」

「私たち一族の根幹は古の魔王に連なっているといわれています。いつか一族の誰かが魔王と同じ力を得てしまうかもしれない。

 ですので有益と言える力でなければ管理しやすいように間引きする。しかたのないことです」

「……なるほど」


 本人が納得しているとは言え、あまりいい話ではない。

 表情に出ていたのか、私の様子をみたニコラシカは口だけで笑い、言葉を続けた。


「お気になさらないでください。主人はそんな私を『なんてすごい能力だ!』といって拾ってくださったのです。

 まったくお人よしというか、世間知らずというか」


 気絶したガリアーノを見ながら、微笑むニコラシカ。

 その様子から彼女がいかにガリアーノを信頼しているのかが見えてきた。

 この二人は、二人でいろいろな事象を乗り越えてきたのだろう。

 

「もう少しでお屋敷です。最後まで気を抜かずにお願いします」


 そういうニコラシカに私とギムレットはうなずき、周りを見回す。

 見渡す街路は鎮まり、すでに人気はない。


 ……そういえば、一つ気になることができた。

 彼女は私たちが館までくることがガリアーノの益になるといった。

 彼女の能力は先ほど聞いた通りなら遠い未来を見通す力はない。

 

 

「ニコラシカ、教えてほしい。私たちが館に行かなかったらガリアーノはどうなっていたのだ?」

「……主人と私は襲撃に遭い、たぶん死んでいましたね」

「それは、どういうことだ」

「主人はいろいろ敵を作りやすい性格なので、貴族からの恨みも良く買っている。

 私も主人が怪我をしたと聞いてあの場に来たのですが、ケガどころか気絶している。

 あの場で私一人で主人を引き取って帰ることになったら、あの兵士たちのだれかに後ろからブスリ、です」

「それで私たちを巻き込んで、館まで招待するというわけか」

「ええ」


 そこで彼女の提案に一番初めに乗ったのがギムレットだったことを思い出す。


「ギムレット、君は気づいていたのか?」

「ん、ああ。使用人の女の子が一人できたって時に違和感があってな。ピンときた。

 狙うなら貴族だろうとは思ったけど、場合によっちゃ俺たちが犯人扱いされて処罰で首打ち、そんな展開だったかもな」


 ギムレットは気楽そうに言うが、かなりの危機的状況だったようだ。

 私は今になって冷や汗が流れた。


「さて、着きました。こちらの館です」


 ニコラシカが指示を出し、一つの館の前でリアカーを止める。

 三階建ての石造りの家だ。部屋は正面から見ただけでも一階、二階四つずつ、三階に三つの計十一部屋とかなり大きい。

 その館の前には広めの庭があり、私たちがいる門から館までは石畳の道が敷かれている。

 見る機会などないかと思っていたが、貴族の家とはこういうも大きいものなのだろうか。


「なんかちっちゃくなったわね」


 マティーニの呟きはスルーしておく。

 彼女はもともと貴族の出、それにガリアーノと親交もあったと聞く。

 また10年も経ち、心身ともに大きくなれば、子供のころに遊んだ家が小さく感じるのもよくある話なのだろう。

 たぶん、そういうことだと思っておく。


「それでは参りましょう。明日になればさすがの主人も目を覚ますはずです」


 そうしてニコラシカは門を開き、私たちはガリアーノの館の中へと入っていった。


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