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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第五章「魔女と勇者の血脈」4

 館に入り、私たちは一度エントランスで待機することになった。

 通された広いエントランスにはきらびやかなカーペットが敷かれ、壁には装飾された水ランプが並んでいる。

 私たち五人は壁側に寄り、一息つくことにした。


「な、なんか緊張するっスね」

「えぇ……私たちこんな場所とは縁遠いと思っていたし」


 見れば、ガフとシャンディは場の空気に気圧されたのか緊張気味に辺りを見ている。

 打って変わって、マティーニとギムレットはいつもどおりの表情で、辺りの様子や使用人たちの様子を眺めている。

 私も二人に習い、とりあえず使用人たちの様子を眺め、待つことにした。


 ガリアーノは一度床に転がされ、ニコラシカは留守を預かっていた使用人の何人かに声をかけて、てきぱきと担架を用意し、ガリアーノを詰み運んで行く。

 使用人たちの動きを見ているとこういうことは良くあるのかもしれない。

 もたつきなく流れる連携や、苦笑い気味の余裕のある表情、それらを見ればなんとなくそんな感じが伝わってくる。

 ややあって、ガリアーノを部屋に休ませたと戻ってきた彼女は明日改めてお礼をしたいということで、私たちそれぞれに部屋を貸してくれることになった。



「……それにしても、王都にきて初日でこれとは、少し冗談めいた気もするな」


 私は割り当てられた部屋で一人呟いた。

 ここは2階の角部屋、隣にはギムレットとガフ、下の部屋にはマティーニとシャンディが休んでいるはずだ。


 一人になったのだし、少し状況を整理するためにも私は今日のことを思い返した。

 王都に侵入する際のアブジンスキーをめぐるひと悶着、屋台の建設、中毒者の男、ガリアーノやニコラシカとの出会い。

 本来ならもっとゆっくりしたペースで貴族と接触する予定だったのだが、計画通りにはいかないものだ。

 それにマティーニが言っていた王都の悪についても実感するところがあった。

 元使用人のあの男、ガリアーノやニコラシカを見ていればここがかなり潔癖であることはわかる。そこに同じくして働いていたのがあの男なのだ。それが人目をはばからず、薬を出せと暴れてきた。

 それに他貴族にガリアーノが狙われていた可能性もある。アブジンスキーによる利益を守るためだろうか、それほどに国の重役を巻き込み王都を混乱させている薬をなぜ王都のトップである魔女は放置しているのか。


「いや、放置せざる負えないのか? 例えば周りに味方がいないとか」


 マティーニの言うように、今、魔女として立ち振る舞っているであろう彼女の友人が、無理矢理魔女をやらされているのならば考えられる話だ。

 しかしもう一つの可能性がある。マティーニはそれはないと信じているようだが、可能性として考慮しておかないといけないだろう。

 現魔女は望んで、今の王都を作り上げるために、マティーニを陥れたのだとしたら?


「いや、さすがに憶測が過ぎるな」


 私は頭を振り、一度堂々巡りする疑問を振り払った。

 今はまだ情報が足りない。

 ガリアーノならアブジンスキーの情報を持っていたりするかもしれないが、今は気絶もとい就寝中だ。明日機会が有れば話ができると良いが。


 また明日には忙しくなるだろうし、そろそろ休もう。

 私はサングリアの杖にヒビや傷がないかを確認し、用意されたベッドのそばに立てかけた。

 そうして私もベッドに入る。柔らかすぎて、やや眠りづらさを感じるあたり、意外と義賊団での生活が馴染んでいるかもと苦笑いを浮かべ、それでも疲れがあったのか、わりとあっさりと眠りに落ちた。



 ―――たぶん、夢を見ているのだろう。

 見渡せば森の中に私はいた。

 自覚が強い夢を見るのはまれにあるが、ここまではっきりとした夢は初めてかもしれない。

 私の前を少女が歩いている。

 ダイキリの民族衣装に似た衣装を身にまとい、力任せに前へと進んでいる。


「待って、二人とも……」


 私の背後からか細い声が聞こえてきた。

 振り返れば、水色のドレスのような服を着た少女が、彼女を追いかけて歩みを進めている。

 

 ああ、そうか……。これはいつかあった幼い記憶。

 私は彼女たちと、千年樹と呼ばれる大樹にたどり着き、そこで光る水を手に入れた。

 確かその後は友情の証として私たちはそれを飲み、帰りは三日森を彷徨い歩き、命からがら森から抜け出した。

 大人たちにはものすごく怒られたが、それはそれで今では思い出だ。


 あの時以来、彼女たちとは会うことはなかった。

 名前も聞くことはなく、何処に住んでいるのかも知らない。

 そもそも一人に至っては何でダイキリの衣装を模したもの着ていたのかも分からない。

 そしていつしか、この思い出はごくまれに思い出す程度の記憶になっていた。


 ふと足元を見ると、青白い光が立ち昇っている。ゆらゆらと揺れながら、時に地面をはねながら。

 私はおもむろに手を伸ばしてみた。

 集まってほしいと願うと光は手のひらに集まり、炎に変わる。

 更に願うと炎は私の手のひらで氷、風、雷へと姿を変える。


 

 あの時、雪というものを話で聞き、それを望んだ。

 小さな氷の結晶が風に揺れ、降ってくるというのだ。

 願いは歪み叶い、氷の雨を降らせることになった。


「……願いを叶えた? 誰が?」


 マティーニがゴーレムを倒した際に用いたあの精霊術を思い出す。

 ダイキリのキャンプを襲った氷の雨も彼女がやったというのか。

 いや、そんなことはない。だとしたら、誰が?

 彼女と同じことができる精霊術師など私は知らない。

 ―――いや。


 私は空いたもう片方の手を伸ばす。

 願うと手の平に青白い光が集まってくる。

 右手には炎、左手には氷。

 マティーニが初めに見せた魔女の証明。

 私はさらに願う。右手の炎は風へと変わる。


 ……まさか。これは夢のはずだ。私に同じことができるわけがない。

 うぬぼれてはいけない。


 だが、この生々しさは何だというのだろう。


 私は開いていた両手を握りしめる。

 風は散り、氷は砕け零れる。

 

『祝福を授けよう。お前は世界を構成する要素に愛されるだろう』


 声ならざる声に私は顔を上げた。

 いつの間にか、私の目の前にはあの大樹がそびえ立っていた。

 雄大な枝葉は過去の記憶のまま、千年以上の時をかけ、今なお力強く根を張る千年樹。


「世界を構成する要素に愛される? いったい何のことだ」


 私は大樹から目を離さず応えた。


『祝福の子よ。どうかこれが呪いにならぬことを……』


 祝福の子? 呪い? いったい何のことだ。

 だが、私の疑問は答えられることなく。

 その言葉を最後に、全ては暗闇に落ちた。


 ―――そして私は目を覚ました。




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