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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第五章「魔女と勇者の血脈」2

 駐在所の間取りは部屋二つ、入り口に面した側が事務所となっているようで、やや大きめの机が中央に置かれその周りに椅子、壁には何かしらの資料をまとめた棚や、この近辺の地図が張り付けられている。

 その奥は私からは確認することができないが、見張りという長時間の常駐する仕事から予想するに休憩室のようなものになっているのだろう。

 私たちは事務所となっている部屋の一角を借り、おのおの椅子に座るなり、話をするなりして、ガリアーノの家の者が来るのを待つことにした。

 ちなみに当のガリアーノ本人は、長椅子に横たわらせている。マティーニに遭ったことがよほどショックだったのだろうか、いまだに目覚める気配はない。


「相棒、どうやらきたみたいだぜ」


 外に聞き耳を立ていたのか、ギムレットが私にそう告げた。そしてほとんど間も無く、兵士と、使用人の装いをした女性が事務所へと入ってきた。色の抜けたような白い髪に琥珀の瞳、整った顔立ちだが無表情のためか少し威圧感を感じる。マティーニよりも低い背丈から見るに年齢は私よりやや下だろうか、それにしては礼や体の運びに堂の入ったものを感じる。


「あなたがこの貴族の引き受け人?」

「はい。わたくし、ガリアーノ様に仕えております、ニコラシカと申します。この度は主人がご迷惑をおかけし……」


 ニコラシカと名乗った少女はマティーニをはじめとした私たちの顔を見て一度言葉を詰まらせた。


「どうかしたのかしら?」

「いえ……失礼しました。少々お待ち下さい。それと兵士さんちょっと込み入った話になるかもしれないので席を外してもらってよろしいかしら?」

「はいっ! かしこまりました」


 兵士たちが事務所から出たことを確認したあと、ニコラシカはスカートのポケットから手帳を取り出して、なにかを確認する様にページを巡り始めた。


「うんうん……ほほー、なるほど、そうなりますか」


 独り言が大きいのか、わざとなのか判断しづらい声量で呟きながらニコラシカは手帳を確認していく。ややあって、手帳を閉じた彼女はさっきとは打って変わって笑顔で私たち全員を見渡した。


「えー、皆さま、ガリアーノ様を助けていただき、ありがとうございます。つきましてはお礼も兼ねて、我が主人の屋敷まで皆さまを招待させていただきたく思います」

「はぁ!?」


 ニコラシカの言葉にマティーニから大声が上がる。

 私とて同じ心境だ。いくらなんでも唐突すぎる。

 見れば、シャンディとガフも声こそ出さないものの驚いた顔をしている。

 唯一、ギムレットは不敵な笑みを浮かべながら相手の様子を観察している。

 彼は彼なりに彼女を読み切ろうとしているのだろう。


「なるほど、団長、俺は招待を受けてもいいと思いますぜ」


 そうしてギムレットはマティーニに提案する。

 確かに目的の魔女区に入るために貴族区への侵入は必須だ。

 当初では商業区にいる間にアブジンスキー目当ての貴族に接触し、薬の利益の代わりに貴族区への許可書を手に入れる算段だったが、ニコラシカとギムレットの提案に乗ったほうがかなり健全だろう。


「……そうね。でも許可はどうするの? 私たち商人は貴族区へ入るための許可が必要だわ」

「それはこうしましょう」


 そういってニコラシカは横たわるガリアーノに近づき、彼の口に耳を近づける。

 言葉が悪いがまるで遺言を聞いているような風景だ。


「ふむふむ、そうですかそうですか! ぜひ招待したいと、え、なんですって、何かあったら全責任はガリアーノ様が取られると! いやーさすが勇者の家系、太っ腹ですね!」


 そしてそのまま小芝居が始まった。

 私たちはただただあっけにとられ、彼女の一人芝居が終わるのを待つことに。

 ややあって、ニコラシカは兵士を呼び出し、あたかもガリアーノがそういった風に伝え、無理やり通行許可をもぎ取ってしまった。


「……お待たせしました。無事許可は下りましたので参りましょう」


 ギムレットもそうだが、このニコラシカという少女も感情の切り替えが早いようだ。

 一芝居を終え、気が付けば元の無表情に戻ったニコラシカに私は声をかけてみた。


「一つ尋ねるが、君はどうして見ず知らずの私たちを招き入れようと思ったのだ?」

「すべては主人のためでございます。私の目的は主人に益をなすこと。そのためにはあなたたちを館に招いたほうがいいと判断したまでです」

「なるほど、しかし、必ずしもそうなるとは限らないと思うが」


 その私の言葉に口元だけでニコラシカは笑う。


「なりますよ」


 自信に満ち溢れた言葉だった。

 あたかも未来を見てきたかの発言に私は言葉を失った。


「どう思う、マティーニ」

「そうね……まあ、ガリアーノのことだから、だまし討ちなんてこともないでしょう。

あの使用人も癖が強いけど、ガリアーノが雇用し続けているということは外道なことはしないと思うわ」

「そうか、なら、やはり―――」

「ええ、提案に乗りましょう」


 そうしてニコラシカの提案に乗った私たちは、再びガリアーノをリアカーに乗せ、彼の館まで向かうこととなった。

 

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