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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第四章「王都潜入」 6

 王都エイトワーズ、商業区。エイトワーズで最も人の出入りが激しく、またもっとも活気がある区画だ。100件近くの商会が常駐し、各商会と提携を結んでいる職人や小売業者がその10倍、さらに旅の行商が開く露店が1000件以上の看板を掲げている。王都で生活する者はもちろんのこと、王都を拠点とする冒険者や、我々のような外からきた商隊、獣の姿でありがら人と同じように二足で歩き、言葉を喋る精霊人族と呼ばれる種族、と様々な人々がこの区画で物を売り買いしている。

 地図では中央の大通りを中心に北側に商会が軒を連ねる商会番地、東側に職人たちが集まる職人番地、南側もっとも壁に近い位置に冒険者や旅人が集まる宿場、西側に王都内で作られた物を販売する市場の四区画に分かれている。中央の大通りには露店用の販売スペースが用意されていて、外から来た者たちはここで商品を販売する。

 私たちストレガ義賊団はその中央通りの一画、南西の比較的人通りの多い場所を割り当てられた。


「おおい。釘足りないぞ。こっちに分けてくれ!」

「こっちも木材使うんだ。自分で買ってこい」

「看板できたぞ! 次はなんだ?」

「石割れたら面倒だ。慎重にあつかえよ!」


 ついて早々、私たちは設営に取り掛かることにした。

 車輪を外し荷台を崩し、持ち込んだ修理用の木材をつぎ足し屋台の骨組みとして建て直す。日差しよけのサテンを屋根として貼りなおし、屋台内にはブロック状の石を組み上げ火を確保すための窯に、さらにその隣では石を組み上げ腰ほどの高さに調節し、平らな板を置き調理台にするためのスペースにする。

 やや大がかりな作業ではあったが、人数もいたため設営自体はさほど時間はかからなかった。


「よし! 組みあがったわね! 本格的な販売は明日からにして、今日はここまで。アタシ、ガフ、シャンディで周りの屋台のあいさつに行ってくるから、あんたたちは休憩していいわよ。でも屋台の見張りは必ずつけることいいわね!」

「おお!」


 夕方に差しかかるより少し前、予定よりもスムーズに設営は完了し、マティーニは休憩の指示を義賊団全員に伝えた。

 その言葉を聞き、それぞれ散り散りに興味のある店を物色し始める。

 私もどこか店を覗いてみたものかと思案していると、マティーニから声がかかった。


「あんたは留守番。あいつら全員どこか行って屋台の見張り誰もいないでしょ」

「……確かにそのようなだな」


 見れば、私、マティーニ、ガフ、シャンディを残し、ほかのメンバーは、私が思案している間に、皆どこかへ移動してしまったらしい。さすがに屋台をそのまま放置するわけにもいかず、私は屋台の見張りを引き受けることにした。


「わかった。見張りは引き受ける」

「よろしく。後でなんかおいしそうなものあったら差し入れにいくわ。シャンディ、ガフ、行くわよ」


 そう言い残し、マティーニはガフとシャンディを引き連れ屋台から離れていった。

 それを見送り、私は一人屋台の中で見張りのために、椅子替わりの木箱に腰掛けた。

 見れば思った以上に人が多い。夕食の素材を買いに来た者、制服なのだろうか同じ服を着た学生、中には外套を纏い身の丈程の剣を担ぐ老練の冒険者、巨大な猫が二足歩行で歩いているのも見かけた。

 ここ王都では本当に様々な人がいる。

 当初の目的では二か月近く、早く王都に来る予定だった。それもまだ何も知らない状態で。それが盗賊に捕まり、義賊団の一員として半ば無理やり活動をさせられている。王都の危機を救うという大義名分でマティーニを魔女の地位に戻そうと。

 ぼんやりとこれまでのことを振り返ってみると、なかなかひどい体験ばかりだ。命の危機を感じたことも一度だけではない。運がよかったことも多かった。

 ふと、この状況ならば逃げ出しても大丈夫なのではないだろうかと、考えが脳裏をよぎる。

 確かに、違法な薬物を王都に持ち込み、見方によっては王都を混乱に陥れようとしているだけなのかもしれない。それにこの先の立ち回りを考えたとき、また危機的状況に陥るのは目に見えている。


「兄ちゃん、この店は何の店なんだい……」


 気が付けば日が落ちかけ、中央通りを赤く染め上げていた。

 小さな声を掛けられ、そちらを見れば、露店のカウンターの先に中年の男が一人立っていた。ゆらゆらと体を揺らし、目は何かを探しているように節操なく動いている。身なりは悪くない清潔感のある白いシャツに、ズボン。


「馬鈴薯の料理を売る店なんです。明日から販売しますのでよかったら来てください」

「……なんだ、アレを売ってくれるわけじゃねえのかい」


 男の言動に悪寒が走るのを私は感じた。

 ためらいを交えつつ、私は言葉を返した。


「……アレとは?」

「ああ、最近入ってくる商隊にはアブジンスキーっつう薬を売ってくれる奴らがいてな。貴族の旦那を捕まえて売ればぼろ儲けだし、自分に使えば嫌なこと忘れていられるしよ。ああ、クソ、なんで売っていないんだよ」


 次の瞬間、男の目が見開き、壊さんばかりの勢いで屋台のカウンターに体をぶつけてきた。その勢いは尋常ではなく、男の上半身はカウンターに乗り上がる。唐突な動きに私は思わず身構えた。


「売れよ! あるんだろう! アレがないとダメなんだよ! なあ!」


 何かからもがくように手をバタつかせ、男は怒鳴り声を上げた。

 違法な薬物を使用したものの末路がこれか。人として、何か大切なものを捨ててしまった醜い形相でこちらをにらみつけてくる。

 周囲を見渡すとあたりの人は遠巻きにこちらを見てはいるものの誰かが何かをしようとはしていない。

 ここで話していたら屋台を壊される可能性もあるだろう。私は杖を手にし、男を刺激しないように気を配りながら席を立ち、屋台の脇から表に出た。


「一つ、先程あなたは貴族にそれを売っているようだが、貴族の知り合いがいるのだろうか」

「ああ、そうだとも、俺はなぁ! あのガリアーノ様に仕えていた! お前のような埃まみれの薄汚いヤツとは違う。名誉ある仕事をしていた! お前とは違う!」


 仕えていた、か。察するに他の貴族に薬を売り、雇い主に愛想をつかされたのだろう。あらかたの流れは見えてきたが、果たしてこの男をどうしたものか。

 語が強いが呂律は怪しい、よく見れば男は体が揺れており足取りもおぼつかない。私自身、森林地帯で体験した戦いのせいだろう、男に必要以上の恐怖や脅威は感じない。油断しなければ最悪私一人でも制することは可能だろう。

 だがそれで本当にいいのだろうか。王都についた早々問題があっては、この後のマティーニが動きづらくなってしまう可能性も考えられる。


「憲兵ーっ! こっちだっ! 俺の仲間がいかれたやつに絡まれて大変なんだ!」


 遠巻きにできていた人だかりから、聞きなれた大声が聞こえてきた。ギムレットの声だ。

 しかし治安を維持する役職の名を聞いた上で男はあろうことかこちらに突っ込み両手を伸ばしてきた。


「だせよ! あるんだろう!!」

「いい加減に―――」


 私は男の左脇をすり抜けるように身をかがめ一歩大きく前に踏み込み、対処する。空を切る男の両手、うまくすれ違うことができた。私はそのまま体を回し男のほうへと向き直す。


「しろっ!」


 男の背後に回り込んだ私は、その回転の勢いを利用し男の右かかとを杖で払い、返す杖で体を軽く小突く。

 

「う、うわぁ!」


 想定していない力が加わり、片足立ちの男は勢いを殺しきれずそのまま前のめりに転倒した。


「う、ううう……くそ、くそ……」

「ふぅ」


 涙声の男を哀れに思うも、さすがにこちらも身は守らないといけない。

 私は肩で一度息を吐き、男の次の動きに警戒をする。


「こっちだ、こっち!」


 その時、先ほど声が聞こえてきた。

 深緑のローブを着込んだギムレットが憲兵らしき男を連れてこちらに駆け寄ってくる。


「おう、大丈夫か相棒……って、おいおい、圧倒してるな」

「たまたまだ。それよりも助かった。ありがとう」


 その後、私は憲兵に事情を説明した。周囲の人だかりにも事実確認を行った後、憲兵は倒れた男を抱え運んでいく。それを見た周囲の人だかりも散り散りに去っていく。

 私はその様子を眺めながら、ギムレットに声をかけた。 


「アレは貴族の中で出回っていると思ったが、そうではないのか」

「商業区や市民区の民衆にまで出回り始めるとなると、かなり出回っていることになるな。こいつは早く手を打たないとまずいぞ」


 考え込むギムレット。私はまず屋台の状態を確かめ壊されたところがないか確かめる。

 マティーニが戻ってきたらまずはその件を報告しよう。

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