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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第一章「掟の旅立ち」 1

三年に渡る戦争、終結という名の破壊。

後に残るのは不毛の大地と嘆きの声だけ。


第一章「掟の旅立ち」


 懐かしい夢を見ていた気がする。しかしそれは竹網の窓から差し込む光によってあっという間に霧散してしまった。


「……まあ、最後まで相変わらずというのも私らしいな」


 長年染み付いた習慣というものなのだろう。今日という特別な日に対してもいつもどおりの起床時間だ。そんな自分を少し可笑しく思いながら衣装箱をベッドの下から抜き出し、身支度を整える。

 幾何学的な刺繍の入ったローブは私の一族の伝統的な衣装だ。

 それを頭から通し道具用のベルトを腰に巻きつける。髪を整え、二、三体を伸ばし、私は寝室用のテントから外に出た。


 乾いた土の匂い。地平の先まで草木が生えぬまま枯れてしまった荒野、そしての先には赤く血のような朝日。なにもかもがいつも通りの朝だ。

 私にとってはこの土地に移ってからの半年の間に毎朝見た景色であり、五年前に終結した戦争のツケともいえる風景。正直、何時見ても空しさが胸をすく。


「起きていたのか」


 この景色も今日でしばらくお別れかと眺めているところに、低い男の声が私にかけられた。


「族長、おはようございます」


 振り返って礼を尽くし挨拶をする。見上げた先には私の育ての親である族長のフラッグスが立っていた。彼はこのダイキリの部族を十八年に渡り守り続けている白髪の偉丈夫だ。齢にして60近くになるはずだが、いまだに足腰は曲がらず、その目は強く、優しく、大地と部族を見守り続けている。


「旅の儀は正午から執り行う。それまでしばらく休んでいるといい」

「あの、今日の仕事はいいのですか?」

「今日が最後の日なのだ。別によかろう。ゆっくりとしていなさい」


 微笑んだのか、それとも悲しんだのか、複雑な表情をしたフラッグスは、仕事場として使っている一回り大きいテントへと入っていった。


 そう、今日が最後の日なのだ。


 私は今日で二十歳。

 私の部族ダイキリでは二十歳になったものには部族の長を継ぐ権利が与えられている。そしてその権利を行使し、ダイキリの部族の族長を継ぐためには、掟としてこの大陸を一度自らの力で巡り部族の益となることをしなければならない。

 これは遊牧の民を率いる力量を試すためでもあり、また大陸を一度見定めるためでもある。

 もちろん族長となるにはこの掟の旅を終えるだけではなく、現在の族長から師事を請い、さまざまなことを学ばなければならない。実際に正式な族長となるには何年もかかることだろう。


 五年前の戦争の影響や、ここでの生活よりも町での生活を選んだものも多く、長を継ぐというものは20年近く現れていない。一応、何人かはこの掟に従い旅に出たのだが、十年前に旅立った者を最後に今も誰一人帰ってきてはいない。

 その後は戦争の影響もあって誰も掟の旅に出れる者がいなかったというのが現状だ。


 私は辺りを一度見回した。

 赤い日の中、干草を食べる馬たち、おのおの今日の作業に使う道具の手入れを始める大人たち。二十年変わらぬ光景、私が生きて、生かされてきた景色。


 そしていつものように手入れをしている馬のもとにより、私は彼らの世話をはじめることにした。

仕事はしなくても良いといわれたが、どうにも性分らしい。


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