第四章「王都潜入」 4
翌日、まだ日が登りきらない早朝。
夜の名残を残す空の下、私たちは村の出入り口に馬車を移動させ、出発の準備を完了させた。
「よし、準備できたわね」
マティーニはいつか見たドレス姿で木箱の上に登った。髪を後ろにまとめなおし、あたりを見渡し皆を確かめている。
ストレガ義賊団の面々はマティーニのそばに集まり、私はその最後尾に着いた。
手にはサングリアの杖。隣にはこちらも深緑のローブを着こんだギムレットが、ガフやシャンディは方だろうか、近くには見当たらなかった。
「皆、全員いるね! 持ち出すものは全部持った?」
マティーニの呼びかけるような強い言葉、各々うなずく。
その様子をマティーニは確認し、少しの間をおいて、村のほうへ振り返った。
そして村を一通り見直した後、彼女は何かをくみ上げるように手を空中に差し出した。
「――――――おいで」
透き通った声が響き渡った。
その声にに合わせて空気が波を打つように揺れているのを感じる。
周囲の面々はその雰囲気に飲まれ静まり返っていた。
「―――――こちらに、おいで」
その静寂の中もう一声。
まるで透明な波が彼女から発せられたかのように広がっていく。
「―――――さあ、こちらに、おいで」
そうしてソレは現れた。
彼らは青白い小さな光を放ちながら、地面から湧き上がり、ゆらゆらとその身を風に任せ夜明け前の空に昇っていく。
幾百、幾千、いや幾万、村を全体が青白い光に包まれていく。
どこか懐かしさを感じる光景に、私はただ見ているだけしか出来なかった。
「ありがとう。――――さあ、燃え上がれ!」
マティーニの言葉に青白い光の柱は、空を、闇を切り裂くがごとく、赤く輝き、その身を炎に転じた。
強い風がこちらに吹き付けてくる。見ればマティーニの髪も炎から発せられる熱風に揺らされていた
廃墟の村が焼かれていく。そのすべての痕跡を消すがために。
それは彼女の不退転の想いの現れなのだろう。
マティーニは私たちの方へ改めて振り返る。風のため、前に流れようとする髪を片手でなおす。
「アタシは王都の魔女マティーニ。10年前、戦争が始まる以前に謀略により王都を追放され、殺されかけ、逃げ落ちた女だ。ただ、私は王都を恨んでいない。そこに住まう全ての人の意志ならば私も納得し魔女の座を去ろう。しかしそうではない、なぜならば私を殺そうとしたのは王都ではなく、一部の我欲、利欲にまみれたクソ汚い一部の人間だからだ。彼らは王都にアブジンスキーをばらまき、職人、学者を流出させ、王都を壊滅させようとしている。全員に伝える、これから行うことは略奪ではない、奪還だ。我欲、利欲に飲まれた愚か者をストラガの名の下、討つ」
彼女の強い言葉に湧き上がる周囲。
私と、隣のギムレットは静かに彼女を眺めていた。
大きく開かれた輝きを放つ瞳、結ばれた口元からは彼女の想いが伝わってくるようだ。
彼女は拳を握り天に掲げた。
その動作に合わせ村を焼いていた炎は一瞬広がり、そして青白い光に戻ったあと散り散りに飛んでいき、消えていった。
「さあ、行くわよ! 我らの義を果たすために!」
再び歓声が湧き上がる。
ややあってそれが収まったあと、全員はそれぞれの馬車に移動していく。
私も、割り振られた馬車に移動し、乗り込んだ。
馬車の中にはガフ、シャンディ、ギムレットと顔なじみのメンバー。それに遅れてマティーニが乗り込んできた。
「マティーニ、君はこの馬車に乗るのか?」
「なにか悪い? シャンディとガフは付き合いが一番長い信頼のおける人物で、ギムレットはロブロイの弟子、あんたは……そうね、面白い。なにか問題でもある」
「……いや」
言いたいことはあるが、飲み込んだ。
あの演説のあとだ、下手にもめて台無しにするのも悪いだろう。
「さあ、出発進行よ!」
彼女の号令に従い馬車が出発していく。
目指すは王都エイトワーズ。私はようやく上り始めた朝日と、それに照らされた廃墟の村をもう一度眺めた。
短い間だったが生活をおこなった場所だ。
跡形もなく灰とかした今では少しさみしいものを感じる。
「なにかあったか、相棒?」
「ああ、いや、気にしないでくれ」
隣にいたギムレットに声をかけられた。
私は首を横に振り、この気持ちを仕舞うことにした。
そうしてこれから始まる王都での戦いに気を引き締めるのだった。




