表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
19/26

第四章「王都潜入」 4

 翌日、まだ日が登りきらない早朝。

 夜の名残を残す空の下、私たちは村の出入り口に馬車を移動させ、出発の準備を完了させた。


「よし、準備できたわね」


 マティーニはいつか見たドレス姿で木箱の上に登った。髪を後ろにまとめなおし、あたりを見渡し皆を確かめている。

 ストレガ義賊団の面々はマティーニのそばに集まり、私はその最後尾に着いた。

 手にはサングリアの杖。隣にはこちらも深緑のローブを着こんだギムレットが、ガフやシャンディは方だろうか、近くには見当たらなかった。


「皆、全員いるね! 持ち出すものは全部持った?」


 マティーニの呼びかけるような強い言葉、各々うなずく。

 その様子をマティーニは確認し、少しの間をおいて、村のほうへ振り返った。

 そして村を一通り見直した後、彼女は何かをくみ上げるように手を空中に差し出した。


「――――――おいで」


 透き通った声が響き渡った。

 その声にに合わせて空気が波を打つように揺れているのを感じる。

 周囲の面々はその雰囲気に飲まれ静まり返っていた。


「―――――こちらに、おいで」


 その静寂の中もう一声。

 まるで透明な波が彼女から発せられたかのように広がっていく。


「―――――さあ、こちらに、おいで」


 そうしてソレは現れた。

 彼らは青白い小さな光を放ちながら、地面から湧き上がり、ゆらゆらとその身を風に任せ夜明け前の空に昇っていく。

 幾百、幾千、いや幾万、村を全体が青白い光に包まれていく。

 どこか懐かしさを感じる光景に、私はただ見ているだけしか出来なかった。


「ありがとう。――――さあ、燃え上がれ!」


 マティーニの言葉に青白い光の柱は、空を、闇を切り裂くがごとく、赤く輝き、その身を炎に転じた。

 強い風がこちらに吹き付けてくる。見ればマティーニの髪も炎から発せられる熱風に揺らされていた

 廃墟の村が焼かれていく。そのすべての痕跡を消すがために。

 それは彼女の不退転の想いの現れなのだろう。

 マティーニは私たちの方へ改めて振り返る。風のため、前に流れようとする髪を片手でなおす。


「アタシは王都の魔女マティーニ。10年前、戦争が始まる以前に謀略により王都を追放され、殺されかけ、逃げ落ちた女だ。ただ、私は王都を恨んでいない。そこに住まう全ての人の意志ならば私も納得し魔女の座を去ろう。しかしそうではない、なぜならば私を殺そうとしたのは王都ではなく、一部の我欲、利欲にまみれたクソ汚い一部の人間だからだ。彼らは王都にアブジンスキーをばらまき、職人、学者を流出させ、王都を壊滅させようとしている。全員に伝える、これから行うことは略奪ではない、奪還だ。我欲、利欲に飲まれた愚か者をストラガの名の下、討つ」


 彼女の強い言葉に湧き上がる周囲。

 私と、隣のギムレットは静かに彼女を眺めていた。

 大きく開かれた輝きを放つ瞳、結ばれた口元からは彼女の想いが伝わってくるようだ。

 彼女は拳を握り天に掲げた。

 その動作に合わせ村を焼いていた炎は一瞬広がり、そして青白い光に戻ったあと散り散りに飛んでいき、消えていった。


「さあ、行くわよ! 我らの義を果たすために!」


 再び歓声が湧き上がる。

 ややあってそれが収まったあと、全員はそれぞれの馬車に移動していく。

 私も、割り振られた馬車に移動し、乗り込んだ。

 馬車の中にはガフ、シャンディ、ギムレットと顔なじみのメンバー。それに遅れてマティーニが乗り込んできた。


「マティーニ、君はこの馬車に乗るのか?」

「なにか悪い? シャンディとガフは付き合いが一番長い信頼のおける人物で、ギムレットはロブロイの弟子、あんたは……そうね、面白い。なにか問題でもある」

「……いや」


 言いたいことはあるが、飲み込んだ。

 あの演説のあとだ、下手にもめて台無しにするのも悪いだろう。


「さあ、出発進行よ!」


 彼女の号令に従い馬車が出発していく。

 目指すは王都エイトワーズ。私はようやく上り始めた朝日と、それに照らされた廃墟の村をもう一度眺めた。

 短い間だったが生活をおこなった場所だ。

 跡形もなく灰とかした今では少しさみしいものを感じる。


「なにかあったか、相棒?」

「ああ、いや、気にしないでくれ」


 隣にいたギムレットに声をかけられた。

 私は首を横に振り、この気持ちを仕舞うことにした。

 そうしてこれから始まる王都での戦いに気を引き締めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ