第四章「王都潜入」
王都エイトワーズはおよそ人口30万の巨大な都市だ。その区画を八つに分け、それぞれの区画で代表者を中心とした自治を行っている。
軍隊は戦争時に最大1万2千もの兵を動員したこともあった。さすがに疲弊している今はそこまでの人数が動員できるとは思わないが、40人ほどの集まりのストラガ義賊団が正面からぶつかり合うのは誰が見ても愚策であり、さすがにそのようなことをいう者はいなかった。
地下アジトの地図が並んでいた部屋で私は、ギムレット、マティーニ、ガフとシャンディの5人でテーブルを囲い最終的な確認を行っていた。
伝説の軍師ロブロイの弟子であるギムレットはともかく、私がこのような場所にいるのは少し疑問であったが、マティーニとギムレットから何かあったら意見が欲しいということで同席することとなった。
「しっかし王都に統治者の魔女がいない……そんな状態が10年近くも続いていただって?」
ギムレットのは口をへの字に曲げ、頭を掻きながらそういった。
誰しもが驚く事実だ。何度だって確認したくなる。
「そうよ。アタシの代わりを用意して傀儡にしているのよ。王都自体は各区画の代表者が自治を行っているから、頭が変わっても簡単に崩壊しないようになっているし、何より傀儡に選んだ子の選択がヤツラにとって最悪だったのでしょうね。うまくやってくれているわ」
「この間も言っていたが、マティーニはその王都の魔女の代わりにされている子を知っているのか?」
焚火の日のことを思い出しながら私はマティーニに尋ねた。
あの時、彼女は友達を助けたいと言っていた。ならばその子の情報も知っているはずだ。
「ええ。彼女の名前はミュール。精霊術の素養はないけど、人一倍真面目で、頭が良い、簡単に無理しすぎるのがちょっと弱点ね。」
私の疑問答えたマティーニの言葉に、今度はギムレットが疑問を投げかける。
「おいおい、10年近くも王都に行っていないのだろう、なぜ、あんたはそのミュールが代わりになっていると知っているんだい」
「アタシが魔女として政を始めるときに側近としていてもらおうと思っていたほどの子よ。魔女という立場を知り、魔女として振舞える同い年の子なんて彼女以外知らないわ」
「なるほどな」
マティーニの言葉に納得したのかギムレットはうなずいた。
ギムレットが納得したことを確認し、マティーニはテーブルに王都の地図を広げ、指で指し示しながら今回の作戦の話を始めた。
「予定では商隊に偽装して王都に入り、貴族区経由して、魔女区へ。そこでミュールと話をするつもり。彼女から情報を得られればそこから黒幕をつぶすつもりよ」
「ちょっとまった。貴族区は確か特別区画で商隊が入ることなんてできねぇぞ?」
貴族区は文字通り貴族が住まう区画だ。一般人や王都外の人間が入ることはできない。
ギムレットの確認にマティーニは鼻を鳴らし、口だけで笑った。
「……普段ならね。今はアレがあるじゃない」
「アブジンスキー、か」
「ええ。貴族区にさえ入ってしまえば、魔女区への道はアタシがよく知っている。どう、なかなかのものでしょう。お弟子さん?」
確かに作戦としての筋は通る。
これ以外の方法を提示するのはたぶん難しいだろう。
しかし、私は疑問に思い当たった。
「マティーニ、いいだろうか?」
「ええ」
「黒幕といったが、思い当たる人物や組織は把握しているのか?」
「いいえ。何度か探りをいれては見ているのだけど、見当はついていないの」
「そうか。もしなのだが――――」
そう言いかけて、眼前に火花が飛んだ。比喩ではなく実際に。
マティーニの整った顔が険しくなり、こちらをにらみつけている。
「もし、ミュールが私をハメたとかいいだしたらあんた燃やすからね」
「……すまない」
「分かっているわよ。安心して、私もその可能性は考えたことはあるわ。もしもの時のこともね」
まっすぐとこちらを見つめる彼女の表情に決意が見て取れた。
友人を助け出すとあのとき言っていたあの時と同じ表情だ。
私もこれ以上は何も言うことがなく、納得し、会議を進めた。




