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ルコアル精霊譚  作者: 鏡読み
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第三章「ストレガ義賊団と商隊の裏事情」 8

 村に帰り、商人の尋問はすぐさま行われることになった。

 私とギムレット、マティーニ、ガフの四人は商人が留置されいた部屋にやってきていた。

 村の地下に作られたアジトの部屋の一つ。窓はなく、複数壁に掲げられている水ランプが部屋の中を照らしている。

 中にはほとんど何もなく。唯一小さなテーブルとイス、あと眠るための床に敷く布と、麻の掛物。いつの食事だろうか茹でた馬鈴薯がきれいなままテーブルに置いてあった。


「それじゃ、ここからは俺の出番だな」

「ええ」


 マティーニの許可を得てギムレットが部屋の隅で膝を抱えてうずくまっている男に声をかける。40代ぐらいだろうかやや小太りの男性だった。

 私は動かず、マティーニの横でギムレットの様子を眺める。

 

「よお、おっちゃん。元気にしているか?」


 ギムレットが声をかける。

 商人は私の目からも明らかに生気が抜け、声に反応し顔を上げるが目が右に左にと泳いでいた。

 返事はない。ただ、ただ、視点の合わない表情をギムレットに向けている。

 事前の情報で聞いていたが、商人自身もアブジンスキーを使っ、ていたらしい。強力な依存症で自力では薬を断つことができないのでこうして隔離している。その間は生気もない状態が続くらしい。何もしない。寝ることも、食べることも、動くことも。ただ呼吸をし、文字通り生きた屍の状態になってしまうとのことだった。

 まさにその生きた屍にギムレットは臆せず近づいていく。


「おうおう、そっか、上等ってわけだな! さて、今日はちょっと儲け話を聞いてきたんだが一口噛ませてくれないか?」

「……薬、か?」


 商人の男がかすれた声で呟くように言葉を漏らした。

 マティーニが声には出さないが驚いた表情をしている。

 ギムレットは一度こちらをみて自身を誇示するような、演技がじみた笑みを浮かべた。

 

「そうそう、おっさん大分儲けたんだって? でもあの薬は出所が限られているはずだ。俺が知っているのは王都の医療地域が多い地区なんだが、あそこはつぶされてもう無理だ」

「……古いな、戦争の前、の話」

「ああ、だから俺もアブジンスキーが出回るなんて盲点でよ。教えてくれよおっさん。俺としては若いうちにがーっと儲けて楽しく過ごしたいわけよ」

「……はは、若、造め」


 ぼそり、ぼそりとゆっくりと商人が話を始めた。

 その内容は時系列がめちゃくちゃではあったが、しばらく話続けた内容から情報が出そろってきた。

 彼はもともと王都から離れた村の行商人で、村で作った食品や工芸品を王都で売り、その金で村の生活に必要な物資を買い揃え、村に戻り売っていたという。しかし、村の食品が徐々に生産ができなくなり、工芸品も売れ残りはじめ、資金が王都からの必要品も買いづらくなり、商売が立ち行かなくなっていたそうだ。

 そんな折、アブジンスキーを売らないかという話を持ち掛けられた。アブジンスキーが違法な物品だとは知っていたが、貴族を相手に商売ができると知った彼は話に乗ることにしたのだ。


「……石、を、投げた……たんだ。……あいつら、俺の、家族に。俺が物を、売らないと……」


 どこまで追い詰められていたのだろうか、商人の男の目に涙がたまっていた。

 ギムレットは一呼吸おいて彼に尋ねた。


「教えてくれ、あとは俺がやってやるから」

「……薬は王都から、町に……交換の条件、は、そこまで、やつから紹介された人を運ぶ、こと……あいつらは」


 呻くように商人の男はそこまでしゃべると顔を落とし、また静かになってしまった。

 静寂が部屋の中を包んだ。


「というわけだ、やっぱり王都から人材の流出が行われている。アブジンスキーだけじゃない。王都は何者かに狙われているみたいだな」


 こちらに振り向いたギムレットはいつものやや胡散臭い笑みに戻っていた。

 隣をみるとマティーニにらめつけるようにギムレットを見ている。


「あんた、あの状態の商人の言葉を信じるの。それになんであんたにだけ言葉をしゃべったのよ。ほかの誰の問いかけにも答えなかったのに」

「アブジンスキーを使ったヤツは嘘なんてつけない。それと話し方は、なんつうか慣れだな。人間ってのは自分がやってきたこと、知っていることが一番話やすいんだ。だから俺は商人のフリをして話をしておっさんが話すって負担を減らした。それだけだよ」


 マティーニの強い言葉を受け流すようにギムレットは肩をすくめた。

 その言葉が逆に彼女の疑問を増やしたのか、マティーニは返した。


「……なんで、そんなことまで知っているの。いくら何でもあんたのそれは慣れすぎている」

「いわなきゃ、ダメか?」

「いいなさい」


 マティーニの強い語調にギムレットは笑みを崩し、表情が消えた。

 静かにマティーニを見据えている。その瞳には何の感情も含まれていない。いや、感情が出てこないように抑え込んでいるようにもうかがえた。


「俺の親がそうだった。それだけだよ」


 静かに言い放ったギムレットは感情を押し殺した声でそういった。


「……いいよ、話すよ。俺がガキのころ、王都の奴隷区に痛み止めとしてアブジンスキーが出回ったことがあってな。俺は親に言われて、それを何度も、親に買ってきていた。特徴を知っていたり、出所を知っているのはそのためだ。いろんなやつがいたが、みんな薬でダメになっちまった。だから俺はあの薬のやばさは知っている。広がるとどうなるのかも」


 普段、飄々としている彼からは想像もしない苦々しい表情。

 もしかしたら、秘匿している師匠の名前までだして、早急にマティーニに取り次ぐように手を打ったのはそれが理由なのかもしれない。


「ただ、あの時は知らなかったんだ。……ガキだった俺はそれがどういうものなのか分からず親の言いつけ通りに手に入れて渡していた。おかしいと気が付いたときにはもう遅かった。俺は全部を捨てる覚悟でたまたま、通りかかった金持ちそうなじいさんに縋りついたんだよ。まさか伝説の軍師だったとは思わなかったけどな」

「……ありがとう。腑に落ちたわ」


 マティーニの表情から警戒心が消えたように見えた。

 一呼吸置いた後、ギムレットはいつもの表情に戻っていた。


「気にしなさんな。それよりも早く王都に行く準備を始めようぜ」

 

 その切り替えの早さのせいでどこかこれまでの話が嘘っぽくなってしまう。

 私は思わず彼に言ってしまった。


「ギムレット、君の師匠の言う通りだ。やはり君は人を学んだほうがいい」

「へ?」


 思いがけない言葉だったのかギムレットは呆けた声を漏らした。

 見ればマティーニがあきれた顔をしている。

 扉の前にいたガフなんかは「俺の感動を返せっす」と文句を口に出していた。

 たぶん私も呆れた顔をしているのだろう。


「とにかく状況はわかり、方針は決まったわ。王都奪還に向けて準備を急ぐわよ」


 マティーニの言葉で仕切りなおした。

 情報はつかんだ。いよいよ、王都に入ることになるのだろう。

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