第三章「ストレガ義賊団と商隊の裏事情」 7
ギムレットとシャンディの二人に無事に合流した私たちは、その後、数度の戦闘はあったものの、無事に私たちは森林を抜け村へ向かう帰路に辿り着くことができた。
すでに日は暮れている。私たちは森林から距離を置くために荒れた大地をしばらく歩き、ある程度の距離を稼いだところで野営を行うことにした。
順番に火の番を行いながら、朝になるまで休息を取っていく。
ややあって、私の番になり、私は焚火の前に座り込んだ。
目の前の焚火は煌々と燃え上がり、周囲を警戒、牽制するには十分な火力だ。しばらくは枝をくべなくても大丈夫だろう。
ぼんやりと火を眺めているといろいろなことが思い起こされてきた。
マティーニの常識外の精霊術に驚かされ、薬草のにおいが分かるという不思議な現象を体験し、自身の三倍はあったゴーレムと戦いと、ダイキリの部族にいたときには想像もできないことばかりだった。
見上げると星が静かに輝いている。日中の出来事がまるでなかったかのように。
「ちょっといいかしら」
整った顔にのぞき込まれ、星空が消えた。
休んでいたと思っていたマティーニが急に現れたことに、私は思わず驚きの声を漏らしてしまった。
驚かれたのが不服なのかマティーニは頬を膨らます。
「すまない、休んでいると思ったんだ」
「……いいわよ。昼間は助けられたし、これで貸し借り無しね」
横暴という言葉を私は飲み込んだ。話を拗らせるとろくなことにはならない。
私はマティーニに近くに座るよう促した。
少し距離が開いた隣に膝を抱えるようにして座ったマティーニは、シャツとズボンのラフな格好だ。
整った顔に火の灯りが揺れ動く。その表情はどこか見たことのない遠い場所を見るような少し寂しさを感じるものだった。
「なにか用件か?」
「ちょっとね、話がしたくなったのよ。まずは改めてお礼ね。ありがとう、あんたのおかげでアタシたちは無事に村に帰れる。それも大収穫でね」
「私の力ではない、マティーニとガフの力あってこそだ」
事実あのゴーレムを始めとして、魔物に対して私一人ではどうしようも出来なかった。
しかし、私の言葉にマティーニは首を横に振った。
「ううん。あんたの知恵に助けられたのは事実なのだから、そこは受け取ってほしい。それと出発前に言った話、商人の尋問はあんたたちにもお願いすることにするわ」
「信用はしてもらえたというわけか」
「ええ。今日の行動を見てアタシはあんたを信用することにしたわ。これから始まる王都奪還に向けてあんたの力は必要になるのもね。それで一つ聞きたいの」
マティーニはそこで一呼吸置き、私の方を見つめてきた。
彼女の瞳が焚火の光で揺れ、ただ、ただ、まっすぐ、私に問いかけてきた。
「王都を奪還した後どうするつもり?」
マティーニは本気で王都を取り返そうとしている。
もしそれがうまくいったとして私はどうするだろう。
少し考え、やはりというか、この答えにたどり着いた。
「私は、遊牧民ダイキリの部族。今は掟の旅の途中だったんだ。王都を救ったという功績があれば一族に益をなすという内容も十分だろう。一巡大陸を巡ったあと、私はダイキリの長になるために部族に戻るつもりだ」
私の言葉にマティーニの目が細くなった。
安堵に近い表情、疑惑が確信に変わったようなそんな表情。何故そんな表情をするのか、私には理由がわからなかった。
それにこちらばかり話をさせられるのも釈然としないので、私はマティーニに尋ねることにした。
「マティーニこそ、魔女に戻ってどうするつもりなんだ?」
「そうね。まずはアブジンスキーを止める。次に馬鹿なことして国政が歪んでいないか確かめる」
真剣な表情で彼女は言う。
今の王都に巣食う闇を取り払いたいと彼女言う。しかしそれは誰でも思うことだ。
もしかしたらと私は言葉をかけた。
「本当は?」
その言葉を聞いてマティーニは目を閉じ、息を吐いた。
そして好戦的な力強い笑みを浮かべ、私に返した。
「アタシを陥れた奴らを引っ叩きに行くわ。それから友達を助けたい。本当は国の象徴なんて柄じゃないのはわかっている。でもね、やられたまんまでいるのは嫌。アタシを陥れた分、倍にして返してやらないと気が済まないのよ」
明瞭な答えすぎて、王都の象徴の魔女としてそれで良いのだろうかと疑問が湧いたが、炎に揺れる力強い彼女の表情に評価を改めた。それに単純な方が分かりやすくて良いのかもしれない。
ただ一つ気になるところがあった。
「なるほど。ところで友達とは?」
その言葉にマティーニは目を瞬かせ、やれやれとため息をついた。
何故だろう腑に落ちない。
「いま、私の友達は奴らのもとで魔女に仕立てられているのよ。私は彼女を助けたい。だから」
そこで言葉を切り、マティーニはこちらに手を指し伸ばしてきた。
「よろしく頼むわ」
友達の為、そして自分の為に戦って欲しいと彼女は言う。
魔女と言うだけではない、リーダーという彼女の一面を見た気がした。
「ああ、こちらこそ」
私もそれに返す。
握った手は少し細く、だがそれ以上に力強く握り返してきた。
見れば彼女は屈託のない子供のような笑顔を浮かべている。きっとこの表情が彼女の本来の表情なのだろう。




