第二十話
ヒュッとボールを放ったのは再びハーフラインを超えた直後。
二度目はないだろうと思っていたのか再び不意を突かれた悠里ヶ丘OB。
だがろくに練習もせずにそう何度も続けて入るようなシュートではない。
今度はリングにガスッと辺り、あっさりと敵の手に渡ってしまった。
チッと小さく舌打ちしてボールを奪いに行く麗奈。
だがそこから繰り広げられる悠里ヶ丘のパス回しは簡単には止められない。
タンタンタンタンとボールが回されあっさりゴールを奪われる。
悠里ヶ丘OB 42-30 新生悠里ヶ丘
また点差が離れた。
だが試合開始直後こそ困難だったパスルートの解読だが、すでに俊介によって暴かれている。
今回のパスでドリブルをせずにパスのみに集中していたのはカズと野伊だけだ。
ならば残りの3人に注意していればいい。
そう思っていたのだが。
再び麗奈がゴール下でシュートを決めて点差をつめたと思った直後、OB達の攻撃時にカズがなにやらサインを出す。
左腕を後方に突き出しながら、人差し指と中指を立てていた。
「「「「「!?」」」」」
そしてパスを出していくカズ。
こちらとしては今のサインが何かは分からない。
だが思い当たることが一つ。
(((・・・・・・まさか・・・・・・)))
不安を持ったのは俊介、麗奈、海波。
そして、その不安は的中した。
カズのマークに付く海波。
そこに野伊からパスが出される。
パスのみに集中しているカズの事だ、また速いパス回しで仲間にボールを送るだろう。
メンバーの配置的にパスが通りそうなのは吉田へのルート。
だから、そこを狙いに行く。
そう思って動いた海波。
だが、ボールを受け取ったカズは瞬時にドリブルで攻め込んできた。
「!!」
あわてて向きを変えて追いかけるが、追いつく間もなくシュートを打たれる。
何とか竹内が叩き落として事なきを得たが、悪い予感が当たったようだ。
パス役のメンバーが入れ替わっている。
怪しいのはカズが出したあのサインだ。
あれでパス役に当たるメンバーの指示を出したのだろう。
ならば。
「今回のパス役があの人差し指と中指に当たる、って所だと思うよ」
「・・・そうなのか」
俊介が竹内にコッソリ囁いた。
「どっちがどっちかは、次の攻撃も見ないと分かりませんね」
「ああ、そうだな」
一方まろんには海波が同様の説明していた。
全員が状況を把握したところで試合に戻る。
竹内が叩き落としたボールがコートの外に飛んでいったため、OBのパスから再開する。
ボールを受け取ったのはカズ。
と同時に、コート内のメンバーに右手で指示を出す。
今度は中指と薬指。
直後にヒュッとパスが出された。
受け取ったのはノブ。
すぐにパスを出し、そこから上松、野伊、吉田と、あっという間に逆サイドまでボールを運ばれる。
そこからドリブルでゴールまでの距離をつめると、吉田はシュート体制に入った。
(前回攻め役だった吉田さんは攻撃のまま。
なら吉田さんは親指か小指?)
俊介はブロックに入りながらもサインの解読を進める。
シュートコースを塞がれた吉田はパッと野伊にボールを戻す。
そして受け取った野伊も即座にシュート体制に入った。
(前回パス役の野伊さんがシュート!
野伊さんが人差し指!)
まろんがそう考えながらシュートを止めにいく。
ボールは指先に触れてコースを変え、麗奈にキープされる。
「よし」
ダダムとドリブルで攻め込んで行く麗奈。
それを阻むのはカズ。
何とか攻め込もうとするがカズの守りは堅く、攻め込めない。
と、二人の間に割り込んでくる者がいる。
海波だ。
「行け」
「!」
ボソッと言われた言葉に従い、麗奈は攻め込む。
それを防ごうとするカズを海波が阻んだ。
麗奈はフリー。
だがきっとすぐに別の誰かが追いついてくるだろう。
ならば追いつかれる前に!
麗奈はスッと構えるとシュートを放った。
それは3Pラインの外。
以前俊介にシュートモーションの指導をしただけの事はある綺麗なフォームだった。
ボールはボードに一度当たると、リングの真ん中を通過した。
悠里ヶ丘OB 42-35 新生悠里ヶ丘
無理はしているが、麗奈の活躍で確実に追いついてきた。
そして海波に全力を出させる為に定めた10点まであと2点だ。
確実に決める!と心に誓う麗奈。
そして、OBの攻撃の番。
再びカズがサインを出す。
チームメイトの方に右手を突き出し、立てたのは再び人差し指と中指。
そして野伊のパスから試合は再開した。
(人差し指と中指・・・・・・ってことは最初と同じか。
確かパス役は野伊さんと上松さん。
あと指を使ったサインってことはノブさんもパス役やるのかな・・・・・・?)
俊介はそのサインを見ながらマークに付く。
ヒュッ、ヒュッとボールが回り、ドリブルをしないのは野伊と上松、それからカズ。
カズがドリブルをしないのはフェイクなだけで、やはり前回と同じか。
そう思った直後、3Pラインを超えたあたりで不意に上松がジャンプシュートを放った。
「え!?」
「何!?」
不意を突かれた!
とっさにジャンプした竹内が何とかボールに触れる。
そして、零れたボールを拾った野伊がやはりシュートモーションに入る。
((((パス役のはずの2人がシュート!?))))
パァンと何とか麗奈が止める。
だが次に零れたボールを拾ったのはカズ。
そして一気にゴール下まで攻め込んできた。
止めに入ったのは海波。
止めようとボールに手を伸ばす、が。
ヒュっと一瞬のターンで抜き去られる。
そしてゴール下を通り抜けて反対側へ行き、ゴールに背を向けたままポーンとボールを放り投げた。
それはカズと出会ったその日、挨拶代わりに放たれたシュート。
ボールは綺麗にリングを通り抜けた。
悠里ヶ丘OB 44-35 新生悠里ヶ丘
わぁ!と歓声が上がった。
「先輩!今の!今のシュートは!」
「ええそうよ凛菜!奇襲度バツグンのノブ君の必殺技!
全国大会でも猛威を振るったバックシュートよ!」
記者二人は盛り上がっていた。
ゴール下を駆け抜けた後に振り返ることなく放り投げるように打つシュート。
その特殊なモーションは初見ではまずシュートだと見破られない。
ゴール前からジャンプして放つという前提が頭の中にあるだけに心理的にも奇襲だ。
その上打たれてもまず入るとは思われない。
記者二人が必殺技とまで言うように、このシュートも他のシュートに負けない精度を誇っているのだ。
外れるだろうなどという期待は決して叶うことはない。
そんな説明を受けずとも、周たちはそのシュートがまぐれではないだろうということを悟っていた。
でなければあんな場面であんなに堂々と放つはずがない。
「・・・・・・あんなもんどうやって止めんだよ・・・・・・」
思わず竹内が呟く。
ゴール前でシュートを打つかと思いきや通り越してからバックシュート。
かといってバックシュートを警戒していたら普通に打ってくるだろう。
どうすればいいのか・・・。
と、麗奈の肩をポンと叩く手がある。
海波だ。
「あれは俺に任せろ。
お前はゴール決めてきな」
「・・・・・・ホントかい?」
「いいから行ってこい」
その表情にはまだ笑顔が浮かんでいる。
なら・・・・・・任せよう。
時間はおよそ5分が経っていた。
海波の実力がどれほどのものかはわからないが、これ以上時間を掛けたらまずいかもしれない。
いや、そもそも初めっから全力でやれという話なのだが。
だがあと2点だ。
全力で飛ばしまくったせいでかなり疲労感があるが、それだけ入れれば自分の実力も示して海波も納得するはずだ。
なら・・・突き進むのみ!
ボールを持った俊介がフェイクで隙を作り、海波にパスを送る。
一番実力のある海波にボールはよく集まるようだ。
その海波が麗奈のアシストに力を入れていることは敵にも伝わっているらしい。
ボールを受け取った海波が即座にパスを出そうとすると、丁度麗奈へのパスコースにカズが立ちはだかる。
海波はそれを一瞥すると、ターンして逆方向からドリブルで切り込んでいった。
が、カズもそれにしっかり付いてくる。
頃合いを見計らって海波はキュッと右足でブレーキをかけ、逆方向に身体を向ける。
しかし身体の動きからそれを見抜いたカズも同様にブレーキをかけ、逆方向に加速する。
というのはフェイク。
海波はブレーキをかけている右足をカクッと曲げ、再び元の方向に加速した。
「!?」
一瞬でカズが振り切られる。
ブレーキをかけ、そのブレーキでスピードが殺されきる前に再加速。
それは有効なフェイクだが、足にかかる負担が大きく多用できない技だ。
それを全国区相手に交代なしで試合に参加している海波がこの第3クオーター半ばで?
疲労している状態なら膝を壊すこともありうるというのに!
そうしてカズのマークを外した海波は麗奈にパスを送る。
受け取った麗奈には吉田のマークが付いている。
しかし構わずにジャンプしてシュートモーションを取った。
吉田もそれを防ごうとジャンプする。
だが、麗奈の足はギリギリ地に着いたまま、つまりジャンプはしていなかった。
そのままグっと上体を沈め、ドリブルで切り込む。
そして吉田をかわした後、ヒュッとシュートを放った。
そこに飛びついたのは上松。
指先がわずかにボールをかすめる。
この1本さえ決まればというこの状況で!
ボールはゆらゆらと空中を舞い、リングにぶつかった。
ゴール下では竹内とノブが競っている。
おそらく竹内がボールをキープできるだろうが、もしそのままゴールを決められたらもう1本打ち直しだ。
出来ればこの1本で決まって欲しい!
ボールは何度かリングを跳ねた後、
無常にもリングの外へと
ズダン!と、リングの内側に叩き込まれた。
海波の手によって。
落ちてくるのを待たずに先に叩き込んだのだ。
悠里ヶ丘OB 44-37 新生悠里ヶ丘
再びOBににじり寄る新生悠里ヶ丘。
ゴール下では竹内と海波がパァンとハイタッチを交わす。
そして海波はそのまま麗奈の元に走ってきた。
「これで10点だな」
「は?」
何を言って・・・・・・?
「ん?もう1本打ちたきゃそれでもいいぞ」
いや、そうではなくて。
それはもしかして・・・・・・。
「・・・・・・今の2点サービスすると?」
「さぁてね、好きに受け取りな」
素っ気ない表情でそう告げる海波。
なんだこれは。
せっかく必死に得点を重ねて言ったというのに。
それじゃあ・・・・・・。
「何だか気が済まないねぇ」
「まぁ、正直言うとな・・・・・・俺の方が我慢できなくなった。
なるほど、全力出さずに終わるには勿体無い相手だ」
「・・・・・・言い出しっぺが何を今更・・・・・・」
やれやれとあきれる麗奈。
正直今の麗奈にもう1本決めて来いというのは少しきつい。
第2クオーターの後半から休憩をもらっていたというのに、すでに体力が付きかけている状態だ。
「無理させたかな」
そういいながら海波はタイムのサインを出す。
それを受けて審判の影山先生はタイムアウトを宣言する。
「チャージドタイムアウト!新生悠里ヶ丘!」
それを受けて両チームはベンチへと戻っていく。
「お疲れ様だ、麗奈。
ベンチで走りたがってるキャプテンと代わってこい」
「ん・・・そうさせてもらうかねぇ」
海波と麗奈はそんな言葉を交わしてベンチに戻る。
「お疲れ様!麗奈ちゃん頑張ったね!大分点差が埋まったよ!」
周がそう言って迎えてくれる。
ああ・・・・・・、嬉しい一言だ。
そう思いながら麗奈は周の肩に頭を預ける。
「わっと・・・大丈夫?麗奈ちゃん?」
「ああ。
でも・・・・・・後は任せたよ、周」
そう言って麗奈は周に笑顔を見せる。
何事かと思ったが、それを受けて周も笑顔で返す。
「うん、任せて!」
周は麗奈をベンチに座らせると審判に交代を告げに行った。
と、海波もベンチに座り、ズボンの裾をまくる。
足首には重りが巻きつけられていた。
それを剥がし、自分の鞄に仕舞う。
「やっぱりまだ隠してたかい」
麗奈が呆れ半分に苦笑いを浮かべる。
この状況でまだ重りをつけていて、それでいてあのチームを相手にあれだけのプレーをしたというのだから。
と、海波は靴を脱ぎ、そしてその中からも何か取り出した。
「・・・・・・え?」
そして何食わぬ顔で自分の鞄に仕舞う。
カランと音がした。
「・・・・・・あんた・・・・・・どんだけの重りを・・・?」
「安心しろ、これだけだから」
もう無いよ、と靴を履きながらおどけて見せる海波。
いや、そういう問題ではなくて。
「さて、と」
深く追求したかったが、海波は水を飲むと立ち上がり、トントンとつま先で床を叩く。
「・・・・・・・・・」
え~と、今言うべきことは何だ?と頭を悩ませる麗奈。
やがて海波と目を合わせる。
「・・・・・・とりあえず、「お手並み拝見」と言わせて貰おうか」
そういうと海波がニヤッと笑う。
「あえて言わせて貰おう。
「とくとご覧あれ」とな」
その目つきは、普段より些か鋭くなっている気がした。




