第十九話
ピィ―――!と笛の音が鳴り響く。
「第二クオーター終了!」
影山先生がそう告げる。
悠里ヶ丘OB 40-27 新生悠里ヶ丘
この第二クオーターで引き離されてしまった。
ここから追いつくとなると少し無理をしなければならないだろう。
しかし、周たちはすでに無理をしている状態だ。
この状態で引き離されたということは、それは考えたくはないが・・・・・・。
「大丈夫、まだ前半終わったところだもん」
周は自分に言い聞かせるようにそう言った。
その言葉に答えるように皆は頷く。
とはいえ、その表情からは疲労が感じ取れる。
相手との実力差を感じてしまっているのだろう。
それが実際の疲れ以上に、彼らに疲労感を与えているのだ。
「お疲れさん」
ベンチで休んでいた麗奈がタオルを渡す。
「ありがと、麗奈ちゃん」
「ありがとございます・・・」
周とまろんは受け取って汗を拭きながらベンチに座る。
俊介はタオルを受け取ってベンチに座ると、再びノートを取り出してなにやら整理している。
「ほい、あんたも」
「・・・・・・」
竹内は無言で受け取り顔にタオルをかけると、天井を仰ぐようにベンチにドカッと座り込んだ。
海波はタオルを受け取ると首にかけただけで、自分の鞄から飲み物を取り出して飲んでいた。
第二クオーターと第三クオーターの間は10分の休憩がある。
疲労している彼らにはこの間に少しでも休んでもらいたいのだが・・・・・・。
「海波、ちょっといいかい?」
麗奈は声をかけた。
「・・・・・・なんだ?」
首をかしげる海波に麗奈は何も言わず、代わりに外を指差して先に体育館の外に出た。
周りの観客も何事かと見ているが、構わずに。
外に出るとすぐに海波が追ってきた。
「なにやら込み入った話みたいだな。
突然の告白か?」
「しないよそんなこと。
聞きたいことがあるんだ。
勘違いなら申し訳ないんだけど」
海波のジョークを軽くいなしてなにやら真面目な表情で問いかける麗奈。
「あんた・・・・・・まだ全力じゃないでしょ」
「・・・・・・・・・」
麗奈の言葉に、海波は軽く眉を動かす。
そのまま少しの間沈黙が続いた。
やがて海波は頭を掻きながら答えた。
「・・・・・・なんでそう思った?」
「なんつーか、他のメンバーよりまだ余裕あるし。
それにほら、あんたもう呼吸が整ってる感じじゃない」
その言葉に海波は肩をすくめる。
「・・・・・・思ってたよりも見る目があるな」
「前まで不良やってたからね。
危ない喧嘩とかよくやってると、服の上から相手が武器持ってるかとか見られるようになるのさ。
だから・・・・・・」
麗奈は腰に手を当てて小さくため息をついて、言葉を続けた。
「あんたがこの段階でまだ足に重りを入れていると、あたしの直感が告げている」
その言葉に海波がフッと笑った。
「・・・・・・外す気はないの?
このままじゃ負けるかもしれないよ?」
麗奈がそういうと、海波は答えた。
「仮に俺がここで全力でもってこの点差をひっくり返して勝ったとしよう。
それで嬉しいか?」
「・・・・・・負けたら周が悲しむからねぇ。
あたしは勝った方が嬉しいね」
「じゃあ・・・・・・
それが延々と続いてもか?」
「・・・・・・」
麗奈は黙ってしまった。
「このチームは俺のチームじゃない、周のチームだ。
分不相応な相手と戦いを続けたところであいつの為にはならない。
負けるべき相手には負けておかないと、尋常でない負け方をするぞ。
その時、立ち直れるか?」
「・・・・・・・・・」
麗奈は元々弁論が上手い方ではない。
どちらかといえば口より先に手が出るタイプだ。
だから、海波を言い負かすことが出来ないと頭を抱えてしまう。
確かに海波の言うことは間違ってはいない。
海波一人に頼って勝ち続けてもそれは周の為にならない。
もちろん自分達の為にもならない。
相手との実力差を全く知らなかった結果、夏の大会で自分達は手痛い負け方をしたのではなかったか。
その時、普段はあんなにも明るい周が涙を流して悲しんだのだ。
もうあんな姿を見たくはない。
「でも・・・・・・、ここで負けてちゃんとしたバスケの練習が出来なくなったら、それこそもっと悲しいことになる!
あたしはそんなの嫌だ!
あたしはこの試合に勝ちたい!」
そう叫んで、麗奈は海波に歩み寄る。
「そのためには・・・・・・あんたの力が必要なんだ・・・・・・。
頼む、力を貸してくれ!」
しばらく両者は見合った。
やがて、海波がため息をついた。
「・・・・・・言っただろ分不相応な相手と試合をしても成長しないと」
「それでも・・・!」
「だが」
どうしても説得したい!と麗奈が声を荒げようとしたのを、海波が止める。
「・・・・・・あいつらが取るに足らない相手だ、というんなら話は別だ。
こんなところでつまずいてはいられないからな」
「じゃあ・・・・・・」
「そこでだ」
ポン、と海波は麗奈の肩に手を置く。
「次のクオーターで、お前が10点とって見せろ。
そうしたら手を貸してやる」
「・・・・・・!」
10点、あのメンバーから一人で?
「アシストならいくらでもしてやる。
それで取れなきゃ諦めろ」
「・・・・・・取れたら・・・・・・手を貸してくれよ」
「ああ」
パンと麗奈は海波の手を払った。
「やってやるよ」
「あ、麗奈ちゃんに海波さん。
どこ行ってたの?」
「んや、ちょっと会議をね」
体育館に戻ると周が迎えてくれた。
相変わらずの笑顔だ。
点差も開き、押されているというのにだ。
「え~、会議なら私たちも混ぜてよ~」
「はは、ごめんごめん。
そんなに大したことじゃないよ」
この笑顔を、守りたい。
「周。
次のクオーターはあたしが頑張るから、少し休んでな」
「え?でも私まだ平気だよ」
「いいから」
ポンポンと周の肩を叩く麗奈。
その様子をなにやらおかしいと思いつつも頷く周であった。
そして10分の休憩は瞬く間に終わり、試合再開となる。
この第3クオーターは再びジャンプボールから始まる。
ヒュッと投げ上げられたボールに上松と竹内が飛びついた。
周たちのチームは竹内がセンターサークルに入り、俊介が敵陣、まろん、海波、麗奈が自陣に構えている。
周は半ば強引に控えに回されたのだ。
それをふくれっ面でしぶしぶ承諾した周だったが、試合が始まるとすぐに応援に熱が入った。
僅差だったがボールを叩いたのは竹内、そして海波がボールをキープする。
直後、麗奈にパスが出された。
(早速抜いてみろって?やってやろうじゃない)
麗奈はボールを受け取ると即座に走る。
が、その前を当然のようにカズが塞ぐ。
強引に抜けるような相手ではない。
一旦まろんにボールを渡す。
まろんの相手は野伊。
フェイクやゼロブレイクを駆使して隙間を作り、なんとかパスを出す。
受け取ったのは海波、相手はノブだ。
瞬時に左回りにターンし、同時に背中越しに逆方向へパスを出す。
不意だった上にドリブルで突っ込んでくるかと身構えていたので、あっさりとパスは通った。
受け取った麗奈は即座に走り出す。
それに併走してくるカズ、容易には抜けないし引き離せない。
タン、と麗奈の足が床を蹴る。
「!?」
ふわっと浮き上がる麗奈の身体。
(このメンバー相手に点差を埋めるとなると、海波には早いところその気になってもらわないとね。
それに何の打ち合わせもしていない以上、ゴール前まで攻めたらあたし以外の誰かがシュートを決めちまう可能性もある。
ならば・・・!)
スピードと確実性。
それらを両立するためには、無茶な選択だが
不意を付いてこの距離からシュートに行くしかない。
それが麗奈の考えだった。
ヒュッとシュートを放つそこはまだハーフラインを超えたばかり。
3Pラインよりもずっと遠くだ。
そんな位置からボールを投げる。
片手では届かないと自覚しているのか、ボールを両手で持って胸の前から放った。
いわゆるチェストシュート、腕力の弱い女の子によく見られるシュートだ。
麗奈の腕力はスポーツをしている同年代の女子に比べても鍛えられている方だ。
それに男とも競い合ってきた麗奈にとって、力が劣ることをいかにも実感させられるこの構えはできればとりたくはなかった。
そんなプライドは、海波に頭を下げた時点で捨てていたのかもしれない。
実際周や竹内こそ僅差で競っているが、自分が全力のノブやカズの相手を勤まるとは思えない。
海波の言うとおり実力差のある相手なのだろう。
でも、それでも。
(一度バスケを諦めたあたしを誘ってくれて、またこんなに楽しい思いをさせてくれた。
だから、周に恩返ししないとね)
最後までスタミナが持たなくてもいい。
この10分で10点をもぎ取る!
どんな無茶でもしてやる!
そんな思いを込めて放ったロングシュート。
ボールはリングとボードを何度かバウンドし、やがてリングの内側を通過した。
わっと歓声が上がる。
第3クオーター開始1分足らず、不意を付いた麗奈のロングシュートが決まったのだ。
悠里ヶ丘OB 40-30 新生悠里ヶ丘
点差は残り10点。
約束の10点獲得まで、あと7点。
別に意地悪がしたいわけではないのですよ。
そんなわけで麗奈のターン。
だがそれをあっさり許すOBではなかったー。




