第十八話
「メモ、できてるか?」
「あ、はい。
見辛かったらごめんなさいです」
海波の言葉に、パスルートをまとめてメモしたノートを差し出すまろん。
受け取ったのは俊介だった。
「じゃあ、僕が引き継ぐよ。
まろんちゃんは次から試合ね」
「は、はいです。
緊張します・・・・・・」
立ち上がって軽く身体を動かすまろんだが、どこかぎこちない。
しばらく皆で肩を叩いたり頭を撫でたりすると、ほぐれてきたようだ
その間にも俊介はメモに目を通し、自分なりにまとめ直す。
さらにそこに、コートで実際に対戦した情報と過去に見た対戦映像を記憶から照らし合わせ、新たに書き加える。
そうこうするうちにインターバルは終了した。
審判の合図でメンバーはコートに戻る。
「じゃ、しゅんくん、行ってくるね」
「うん、頑張って」
周も俊介に一言告げてコートに戻る。
「さて、と」
俊介は改めてノートに向かう。
が、実はメモに目を通して自分で新たにまとめたところで、すでにあたりは着いているのだ。
(答えあわせと行きますか)
俊介はチェックすべき場所を頭に入れると、コートに視線を移した。
コートではまろんがサイドラインの外でボールを構えていた。
以前公園の試合でも実施したオルタネイティング・ポゼション・ルールにより、第一ピリオドでボールをキープしたのが上松でそれ以降ジャンプボール・シチュエーションは無かったので、この第二ピリオドはこちらのチームからのパスで始まるのだ。
「えっと~・・・・・・」
ボールを持つまろんの前に立ちはだかるのは野伊だ。
まろんはその隙間からパスを出す相手がいないかと探す。
しかしさすが全国に行ったチームのメンバー。
両手の動きで巧みにコースを塞ぐ。
早くパスを出さなければバイオレーションを取られてしまうため、まろんは少し焦りだす。
そして思い切って「えいっ!」と声を上げながらパスを出した。
ボールは綺麗に野伊の足の間を抜け、麗奈の手に渡った。
「よし」
ダダム、とドリブルで一気に麗奈は攻め込む。
マークについているのは吉田。
ノブ、カズ、上松に比べれば迫力は多少弱いものの、全国レベルと言うだけの迫力はある。
ドリブルで前には進めるが、内側へは中々進めない。
仕方ない、と麗奈はボールを抱えると身を低くし、思いっきり上へと投げ上げた。
かのように見せて、低い弾道でパスを出していた。
「「「「!?」」」」
ボールの行方を見ようとしていた味方すら騙した奇襲!
反応したのは離れて見ていた選手と、パスを出された周だけだった。
ボールを受け取った周は一歩でゴール下まで詰め寄ると、レイアップを放つ。
しかしそこに、周をマークしているノブが立ちはだかる。
レイアップを放とうとしてもブロックの腕が飛んでくるし、一度戻してダブルクラッチにしても、それすら読んでいたかのように止められてしまう。
零れたボールは上松に拾われ、カズへとパスを出される。
「うぬぬぬ・・・」
思わず奇妙な鳴き声を上げる周。
だがノブはそれを笑いもせず、攻撃へと加わっていった。
前回負けた屈辱と言うのが余裕を奪っているのだろうか。
そして、悠里ヶ丘OBの攻撃が始まった。
カズをマークしているのは海波。
さすがにドリブルであっさり抜くのは難しいらしく、カズは吉田にパスを出す。
受け取った吉田は麗奈にマークされながらも切り込んでいく。
が、麗奈が吉田にマークされて内側に進めなかったのと同様、吉田も麗奈のマーク相手に内側には中々切り込めなかった。
小さく舌打ちして立ち止まると、吉田は後ろの上松にパスを出す。
受け取ろうと左手を伸ばす上松。
しかし、それをカットしようとした竹内の手がわずかに触れ、コースがそれる。
上松の手からそれたボールは上松の後ろにバウンドする。
取るのは厳しいかと思われたボールだが、上松はクルッとターンすると右手でキャッチした。
そして即座にカズにボールを送る。
空中で受け取ったカズも即座に野伊にボールを送る。
受け取った野伊はドリブルで攻め込む。
その前に立ちはだかるのはまろん。
何度か小競り合いしているが俊介には劣る、と判断している野伊は一気に抜き去ろうと加速する。
不意にまろんの身体が右に傾いたように見えた。
これ幸いと野伊は左から抜きにかかる。
直後、ひとっ飛びで詰め寄られたまろんにボールを叩かれた。
「んな!?」
それを見ていた周りの人も不可解に見えた動きに驚く。
そんな中、零れたボールをいち早く海波がキープした。
すぐに左手でドリブルをするが、即座にカズにマークされる。
カズの姿を目視すると海波はピタッと立ち止まり、ボールを自分の足の間を通して右手に持ち替え、カクッと角度を変えて走り出す。
それについていこうとカズが動き出した瞬間。
ダンッ、とカズの足の間をボールが抜けた。
「!?」
慌てて振り向いた頃には、逆方向に走り出した海波はすでに加速状態。
一瞬で抜き去られると一気にゴール下へ。
そして。
ズダン!とダンクを叩き込んだ。
悠里ヶ丘OB 20-16 新生悠里ヶ丘
「よし」
着地した海波は自陣ゴールへ向けて歩く。
途中カズとすれ違った。
「・・・・・・ふむ、やるじゃないか」
わずかに笑ってやるとそう言われた。
「・・・どうも」
軽く答えて二人は別れる。
カズは海波の後姿を暫し見ていた。
「・・・・・・」
「ナイスカットだ」
まろんは海波に褒められていた。
「あ、ありがとうございます。
海波さんこそナイスシュートでした」
「せっかくカットしてくれたんだ、きっちり決めておかないとな」
まろんの言葉に海波はまだ余裕のある感じで答えた。
海波もやはり全国上位クラスの実力があるのかもしれない。
「それよりお前、さっきのはゼロブレイってヤツか?」
「あ、はいです」
海波の言葉に頷くまろん。
ゼロブレイクとは重心を自らずらす事により、一瞬で加速したり見た目と反対側に飛んだりする技術である。
別名重心崩しと呼ばれる。
防御だけでなく攻撃にも利用できるし、バスケに限らず様々なスポーツや、スポーツ以外でも応用できる技術だ。
「前まであんなの使ってなかったよな?
まだ覚えたてって感じだが・・・・・・どこで覚えたんだ?」
「えっと・・・・・・秘密の特訓です」
「・・・・・・そうか。
ま、頑張ってしっかり身に付けろよ」
「はいです」
なんとなくまろんは照れながら返事をした。
覚えたての技が上手く決まった上に褒めてもらえたのが嬉しいのだ。
よし、と自分に気合を入れ、防衛へと回るまろんであった。
そしてOBの反撃。
再び素早いパス回しが始まった。
野伊がエンドラインからボールをいれ、受け取ったカズが吉田にパスを出すと吉田がドリブルで攻め込む。
そして攻めきれない状況になるとボールを浮かせ、上松からカズ、ノブへと規則性もなくボールが回る。
周たちは何とか止めようとするが、素早いパス回しの上に誰が切り込んでくるのかが分からず、翻弄される。
しかし、上松からカズへボールが送られた瞬間、海波が踏み込んできた。
「!?」
「なっ・・・!」
「・・・チッ」
手はギリギリで届かなかったが、それはパスルートを読んでいたかのように思えた。
(まさか・・・・・・くっ)
ボールを受け取ったノブが半ば強引に攻め込んでくる。
だが周をかわした直後、ゼロブレイクで飛び込んできたまろんに衝突してしまった。
「あうっ!」
「!!」
ピピッと笛が鳴る。
「ファール、悠里ヶ丘OB!」
「・・・くっ・・・!」
ノブが歯をギリッと鳴らし、自陣コートへと戻っていった。
「まろんちゃん大丈夫?
ありがとうね、止めてくれて」
「大丈夫です。
それに前に回りこめたのは周さんが止めていてくれたからですよ」
周が倒れたまろんを起こすと、まろんは笑顔で答えた。
怪我も無い様で周はほっとする。
「ぶつかったら相手の方がファールになりやすいとはいえ、無理しちゃダメだよ?」
「はい、ありがとございますです」
二人は立ち上がり、試合に戻っていった。
一方ノブは不安を抱えていた。
原因は先ほどの海波の動きだ。
(まさか読まれたのか・・・・・・?
いや、一度じゃなんとも言えん、たまたまかもしれないし・・・・・・。
おまけにあのまろんとかいう子、以前には無かった動きをしてくる。
まずいなこのままじゃ・・・・・・)
何か手を打たなくては、と思った直後。
ゾワッと鳥肌が立った。
「!?」
思わず振り向くとそこには・・・・・・。
「・・・・・・っ・・・・・・!」
ピピーッ
「ん?」
試合を再開しようと麗奈はコートの外でボールを持っていたが、突然笛が鳴った。
「チャージドタイムアウト、悠里ヶ丘OB」
どうやら向こうが休憩を入れてきたらしい。
ベンチへと引き上げていくのを見て、周たちも自分達のベンチへ戻っていった。
「おつかれ」
「ありがと、しゅんくん」
俊介からタオルを受け取る周。
他のメンバーもベンチや床に座り、軽く休憩を取る。
「いけそうだねぇ、今回も」
「ああ、そんな気がする」
麗奈が口を開くと竹内も頷いた。
新たなメンバーも入りチームワークも増したようだが、それでもまだ周たちは食いついている。
最初は不安があったが、勝てるかもしれないという期待がみなぎって来た。
「俊介」
と、海波が俊介に声をかける。
俊介も何を言われるのか分かっているらしく頷いた。
「はい、海波さんはもう分かってるみたいですね」
「・・・・・・え?何が?」
周はキョトンとしている。
まろんや麗奈もだ。
「ああ、敵のパスルートを解読してもらってたんだ」
「解読って・・・・・・規則性なんかあったのか?」
海波の言葉に竹内が首をかしげる。
実際にコートで見ていたが分からなかったようだ。
それを見て俊介が解説を始める。
「うん、まぁ、規則性って程でも無いんですけどね。
確かに向こうのチームはほとんどランダムです。
誰から誰にパスを渡すかは決まっていないようで」
「んじゃ解読できないじゃない」
麗奈がそういうと俊介は苦笑いする。
「それでも決まってることはあるみたいです。
パスの仕方や相手は決まっていないみたいですが、それでもパスのみに専念している人が2人だけ、います」
俊介はそう言ってまとめたらしいノートを見せてきた。
「それが猪山和人さん・・・通称カズさんと上松さんです。
たまにドリブルで攻めたりはしてますが、あの二人は今日まだシュート0本のはずです」
「・・・・・・そういえば・・・・・・」
その言葉に竹内も頷く。
ずっと上松の相手をしていたが、彼がシュートに行ったところは見た覚えがないのだ。
「それからこれは多少偏っている程度ですが、この二人は自分にパスを送ってきた相手にはあまり返していません。
いわゆる、ワンツーの形を行なっていないということです。
何かの作戦なのか、パス回しに重点を置いているのかは分かりませんが、少しそういうパターンが多いです」
「なるほど~、じゃあ次からそれを読んで行けばいいんだね」
周がポンと手を叩く。
が。
「でも次から作戦変えてくるかもしれないよ?
さっきの海波は際どかったし」
麗奈が口を挟む。
確かにあのカットは読まれていると思われても不思議ではない。
「そうですね、それはあると思います。
でもこの基本パターンは早々崩れないはずなので、誰がパス役かを見極めることはすぐにできると思います」
その言葉に皆に笑顔が浮かぶ。
翻弄されていたあのパスワークを攻略できるかもしれないと期待しているのだ。
「それから最後にもう一つ」
と俊介が付け加える。
「ノブさんは、パス役には回らないはずです」
「え?なんで?」
周が思わず聞き返す。
他のメンバーも似たような表情だ。
「ノブさんは攻撃役です。
それが今のノブさんの知名度に結びついているからです。
と言っても、あくまでも推測ですけどね・・・・・・」
「・・・・・・推測にしてはずいぶんと大胆だな」
海波が笑いながら言う。
だが、その説明は「確かにそうかもしれない」と思わせるだけの迫力が感じられた。
と、再び笛が聞こえる。
タイムアウト終了だ。
「よし、行こうか!」
周の言葉に立ち上がる一同。
「あ、誰か疲れている人がいたら変わりますよ」
と、俊介が言う。
「・・・・・・第2クオーターはまだ少しあるね。
皆が平気なら、あたしは少し休ませて貰ってもいいかい?」
皆と顔を合わせた後、麗奈がそういう。
パァンと軽くハイタッチして二人は入れ替わった。
「んじゃ、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
麗奈は俊介と言葉を交わし、ベンチに座った。
そして、上履きを脱ぐと底からそっと「それ」を取り出し、自分のカバンにしまった。
カランとわずかに音がする。
「さて、次からあたしも本気と行きますか」
タイムアウトを取った悠里ヶ丘OBはベンチや床に座っていた。
「・・・・・・パスルート、攻略されたか?」
「この短時間でか、ありえねぇと思いたいね」
上松と吉田が言葉を交わす。
「だが、あの動きを見るとその可能性も否定できんな。
念のため次からパス役を変えるかね?」
カズがそういうと一同は頷く。
が、一人ノブだけは俯いたままだ。
「・・・・・・どうした?タイムアウトを取った本人は」
上松がそういうとノブは顔を上げた。
「・・・・・・取れと言われたんだよ」
「ん?誰に?」
ノブの言葉に野伊が首をかしげる。
と、そこに一人やってきた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・コーチ・・・・・・」
カズの言葉通り、やってきたのは元コーチの影山先生だった。
その表情はわずかに・・・・・・。
「・・・・・・5人とも、今日は遊びにでも来たんですか?」
「「「「・・・・・・!!」」」」
先生の一言に、一同は黙り込む。
口調はそれほどでもないが、確かな威圧感があった。
そのまま暫し時間が過ぎ。
「・・・・・・退屈をさせてしまいましたか、コーチ」
カズが口を開いた。
「・・・・・・「反省」、して頂きたいものですね」
それだけ言うと、影山先生は立ち去っていった。
残されたメンバーはしばらく沈黙していた。
そんな中、カズはスッと顔に手を当てると、前髪をかき上げた。
「すみませんコーチ、「反省」しますよ」
直後に笛が鳴った。
一同は立ち上がる。
そしてカズはメンバーに告げた。
「悪いね、パス役変わってくれ」
「・・・・・・んじゃ俺がやるよ」
引き受けたのは吉田だ。
上松はそのまま引き継ぐようだ。
「・・・・・・行こうか」
「・・・・・・ああ」
そしてコートに戻っていった。
ピッと笛が鳴り、コートの外から俊介がまろんにボールを渡す。
そしてまろんから周、海波へとパスが渡った。
と、その海波の前に立ちはだかるのはカズだった。
「・・・?」
海波はわずかに違和感を感じた。
カズの雰囲気が違う。
「・・・・・・コーチをさ」
不意に話しかけてくるカズ。
「・・・・・・ん?」
「悲しませてしまったよ。
反省しないとな」
「・・・・・・」
言葉に惑わされまいとは思いながら、海波はカズを抜き去ろうと隙を探す。
そしてタッと踏み込んだ。
瞬間、ボールが弾かれた。
「!」
零れたボールは即座に吉田が拾い、再びカズに送り返した。
ボールを受け取ったカズはゴールめがけて走る。
しかしそこは海波のほうが速いのか、ゴール下に到達する前に海波が前に立ちはだかった。
カズはそれを見ると右から抜き去ろうと加速する。
そうはさせまいと同じく加速する海波。
しかし、突然カズの姿が消え、
ダンッと足元から音がした。
「なっ」
海波の足の間にボールを通し、一瞬で反対側から抜き去るカズ。
「に・・・!?」
それは先ほど海波がカズにやってのけた芸当!
タンッと地面を踏み切ったカズはゴールリングにダンクを叩き込んでいた。
「・・・そして・・・」
悠里ヶ丘OB 22-16 新生悠里ヶ丘
再び引き離された。
「・・・・・・俺は、反省すると強いぜ」
カズは再び髪をかき上げながらそう言った。
「遊びは終わりだ」に続く第二弾、「反省すると強いぜ」。
そして悠里ヶ丘OBのターン!




