第十五話
「全員揃いましたね」
「うん、そうだね」
まろんの言葉に頷く周。
「よし、じゃあ学校に向かおうか」
全員この公園に集まりそこから一緒に学校に向かおうということになっていたので、一度いつもの公園に集合した周、俊介、麗奈、竹内、まろん、海波の6人。
かなり遠いがウォーミングアップを兼ねて全員歩き、もしくは走りだ。
自転車を持ってきている人もいない。
と、メンバーが揃ったところで公園を出ようとするとその前に立ちはだかる一同が。
「おっす、周」
「恋二くん」
現れたのは子供たち5人だった。
今日は練習無しだと伝えたはずだが・・・・・・。
「どうしたの?恋二くん。
今日は皆だけで練習?」
「ちげーよ、俺たちは俺たちでやることがあるの」
俊介の言葉に恋二がふくれっ面で答える。
そして、全員で旗や垂れ幕を取り出した。
「皆の応援に行かないとね」
愛奈がそう言ってウインクしてみせる。
「みんな・・・・・・」
その様子を見て周は満面の笑みで両手を広げ、子供達に向かって行った。
そして5人をまとめて抱きしめようとする。
手は届かないが。
「ありがと、みんな。
今日は応援よろしくね!」
「「「「「うん!」」」」」
周の言葉に、子供達は元気いっぱいに返事をした。
一方その頃、試合会場となる悠里ヶ丘高校に向かう別の5つの影が・・・・・・。
「フッ、久しぶりだな、悠里ヶ丘高校・・・・・・」
「あぁ、変わってないな、ここも・・・・・・」
「それ、あんた達の台詞じゃないわよね」
ポンと軽く両者の頭を叩いたのは周のクラスのいいんちょ、近藤恵。
そして叩かれたのは宇喜多くんと蓮井くんであった。
「なにやってんのよあんた達は」
「いや、それらしく演出しようとな」
「演出って何よ・・・・・・」
宇喜多くんの言葉に、恵は思わずため息をつく。
「まぁまぁ」
「そんなに気を張ることではありませんよ、近藤さん」
そんな恵を落ち着けようと、後ろから野澤さんと凪さんが声を掛ける。
「試合をするのは私たちではないのですから」
「そうそう、気楽に応援しようよいいんちょ」
「何を甘いことを・・・・・・」
野澤さん達の言葉に再びため息をつく恵。
「確かに試合をするのは私たちじゃないけど、クラスメイトでしょ。
勝って欲しいじゃない」
「確かにそうですね~」
「何でも今後バスケ部が復活するかどうかもかかってるらしいしね」
恵の言葉に、2人はやけにニヤニヤしながら話を続ける。
「もし今日負けてバスケ部が作れないなんてことになったら・・・・・・」
「きっと林田君は悲しみますね~」
「・・・・・・どうして林田君だけをピックアップするのかしら?」
「それはもういいんちょの心理を汲み取って」
「・・・っ・・・」
2人とのやり取りで気に入らないところでもあったのか、プイッと顔を背けてしまう恵。
その様子を見ながら、やはり2人はニヤニヤしているのであった。
この5人、周たちがバスケット部復活を賭けて試合をするということを聞いて応援にやってきたのである。
なんとも優しいことだ。
ただどういう相手と試合をするのかは聞いていない。
「すみません。
君たち悠里ヶ丘高校ってご存じないかしら?」
「え?あ、はい・・・・・・」
と、不意に声を掛けられ立ち止まる恵たち。
声をかけてきたのは女性2人組みだった。
黒髪ロングと茶髪おさげの組み合わせは記者の響と凛菜であった。
「私たち悠里ヶ丘高校に行きたいの。
場所教えてもらえるかしら」
「はい、私たちも悠里ヶ丘高校へ向っていますので、ご案内しますよ」
突然前に乗り出し、女性のお願いを快く承諾する蓮井くん。
「あら、ありがとうございます。
大丈夫ですって、凛菜」
「はぅ・・・・・・ごめんなさい先輩、私が不甲斐無いばっかりに・・・・・・」
「全くだわ」
「あう!」
「ささ、どうぞこちらへ」
2人の女性を引き連れて歩き出す蓮井くん。
と、宇喜多くんがその横に張り付く。
「・・・・・・どういうつもりかね蓮井くん。
・・・とまぁ聞かざるとも予測はつくが」
「お前なら分かってくれると思ってたよ、宇喜多。
その通りだ」
蓮井くんはそう言って凛菜の方をこっそり指差す。
「あの眼鏡のお姉さんは俺を激しくトキメかせた」
「やはりか。
ちなみに比べるなら僕はあの黒髪の女性の方がいいと思うがね」
「分かってないなお前は。
あの眼鏡のお姉さんは、やる時はやるが普段はドジッ娘とみたね。
そしてあの胸の大きさ・・・・・・文句のつけようが無い」
「フッ、そうかな?
確かにその見立ては僕も同様。
だがあの普段きつそうな黒髪の女性こそ、打たれ弱く、二人っきりの時には甘えてくるか弱い女性なのだ。
そのギャップこそが最上の魅力よ。
それに胸を言うのならあの女性だって引けをとりはするま・・・」
「なにくだらないこと話してんのよあんたたちは!」
「ぐはっ!」
「げふっ!」
2人が好き勝手話していると、後方から恵のチョップが飛んできて2人の後頭部を捉えた。
その様子を見ながら凪さんはクスクスと笑っていた。
「楽しそうですわね、3人とも」
「・・・まぁ、どっちかといえば私もあの2人のうちどっちかを殴りたかったけどね」
凪さんの呟きにそういう野澤さん。
「あら、どうしてかしら?」
「それは・・・・・・」
と言い淀んで、野澤さんはチラッと凪さんの胸を見る。
「・・・・・・春華には分からないかもね」
「・・・・・・?」
「ふふっ、学生達は楽しそうね」
「そうですね、先輩」
そんな5人の様子をさらに見ながら、響と凛菜は話していた。
「私も学生時代に戻りたいかな・・・・・・」
「そうですね・・・・・・。
でも私、今の仕事も楽しいと思ってますよ」
「まぁそうね、ノブ君の追っかけやりつつ給料もらえるお仕事なんて他に無いでしょうし」
「ですよね~」
2人はそう言って笑った。
「さぁ、今日もノブ君の活躍をしっかりレポートに収めるわよ」
「はい、先輩。
私もこのカメラでノブ君の活躍をしっかり写真に収めます!」
「あら、カメラ変わったわね」
「はい先輩、上司の説得に成功しましてついにデジタルカメラを入手しました。
これでたくさんのフィルムともおさらばです。
感慨深くもありますが・・・・・・」
「通りで今日は荷物が少ないわけね。
私もワープロだけの機能を持った小型PCとか欲しいわ、あれば」
「時代の発達を心待ちにしましょう」
7人はそれぞれ楽しく盛り上がりながら悠里ヶ丘高校を目指す。
ものの5分ほどで学校に到着した。
「ここが悠里ヶ丘高校ね。
ありがとう、君たち」
「「いいえ、何のこれしき」」
シュタッと執事のように並んで頭を下げる男2人。
その様子を見ながらため息をついている恵たちであった。
「さて凛菜。
今日のメンバーと対戦相手を再確認するわよ」
「はい」
響の言葉に凛菜は素早くカバンからメモ帳を取り出す。
「え~と、ノブ君側のメンバーは・・・・・・猪山、高橋、上松、吉田、野伊、ですね」
「猪山・・・・・・、猪山和人元悠里ヶ丘高校副キャプテンね。
今は国際高帝学院大学だったかしら?」
「はい、その通りです先輩。
ノブ君に負けず劣らぬ実力者としてあちこちから注目されてましたね。
高校時代にはムードメーカーとしてチームを支えてました。
ちなみに私事ですが、彼の人柄は少し苦手でした」
「あらそう?
私は野伊君の方が苦手だったけど」
「それは・・・・・・まぁ同意します」
「さぁ、体育館へ向いましょう。
いい場所確保しておかないと」
「ですね」
ひとしきり話を終えると、響は再び恵たちに声を掛ける。
「ごめんなさいね、体育館はどっちかしら?」
「えっと、私たちも行きます、けど・・・」
「あの・・・記者の方ですか?」
恵と野澤さんの質問に、2人は「ああ、まだ名乗ってなかったわね」と名刺を取り出す。
「スポーツ雑誌「月間バスケットNEWS」の大学バスケ担当、北本響です」
「同じく峰岸凛菜です、よろしくお願いします」
「は、はぁ、どうも」
と、受け取ったところでくるっと他のメンバーの方に向き直る
「ざ、雑誌の人だって・・・」
「なんでわざわざこんなところに取材を?」
恵と蓮井くんが顔を合わせてそういうと、凪さんが腕組みをしながら口を開く。
「今日の斉藤さん達の試合と関係ありそうですね」
「と、とにかく様子を見てましょうよ」
野澤さんの言葉に一同は頷いた。
「ではどうぞこちらに・・・・・・」
宇喜多くんがスッと手を差し伸べる。
恵がその様子を見ながら「んな大げさにやらなくても・・・」とため息をつくが気にせずに。
が、響と凛菜からの反応が無い。
滑ったか?と顔を上げると2人が校門の方を見ているのが分かった。
一体何が、と一同もそちらに目をやる。
「・・・・・・来たわね、悠里ヶ丘OB」
「はいです」
レポート用紙を取り出す響と、スッとカメラを構える凛菜。
そして2人は学校に入ってきた5人の様子を撮り始めた。
「・・・・・・悠里ヶ丘OB?」
一同はキョトンと顔を見合わせながらその様子を見ていた。
「懐かしき我らが悠里ヶ丘高校よ!!」
バッと両手を広げて空を仰ぐ一人の青年。
周たちと試合をしたメンバーにはいなかった、少し長めの髪を茶髪に染めた青年だ。
「ん~・・・・・・変わらんなぁ、母校よ」
「少し落ち着け、カズ」
ため息をつきながら上松が青年をなだめる。
「なぁにを言ってるんだね、君たち。
久しぶりの母校だぞ、テンション上がらぬ方がおかしいだろう」
「俺は文化祭の時遊びに来てるけどな」
と、またも以前の試合にはいなかった、今度は坊主頭の青年が口を開く。
「女子高生目当てでか?野伊」
「当たり前だろ」
「自慢することじゃねーよ」
こちらもため息をつきながら苦笑いする吉田がなだめる。
「さて、体育館へ向うぞ」
ノブがそういうと4人は「おう」と声を揃える。
と、そこへ。
「どうもみなさん、今日の試合の意気込みを聞かせてもらえますか?」
響と凛菜が現れる。
途端、カズが響の手を取った。
「ご機嫌麗しゅう、お姉さま。
調子の方はいかがでしょうか」
「え、ええ、そうね、私の方は大丈夫だけど・・・・・・。
そ、それより試合の意気込みを・・・・・・」
と重ねて質問をすると、今度は野伊が響の前に現れた。
「どうも北本さん、お久しぶりです。
どうでしょう?この後僕と二人でお食事になど・・・・・・いでででで!」
ひくっと2人の表情が引きつったのを見て、上松が野伊の首を掴み、持ち上げる。
「・・・・・・お前は少し自重しろ」
「いてーっつーの!離せコラ!」
野伊がそう言った途端にパッと手を離す上松。
野伊はドサッと尻餅をついた。
「いててて・・・・・・お前な、試合前に怪我したらどうしてくれるんだよ!」
「お前こそ試合前に記者の人の心に怪我を負わせたらどうする気だ」
「無理矢理うまい事言ってんじゃねえよ!
つーかなんだそれは!」
なにやら揉め始める2人。
「まぁまぁ、2人の事はお気になさらず、響お姉さま、凛菜お姉さま。
お2人ともどうか、今日は私たちの勝利を祈っていてくださいませ・・・・・・」
「・・・・・・お前も少し自重しろ、カズ」
「ははは、おいおい、俺の口説きで女性陣がときめいているからって嫉妬はよせよ」
「誰がときめいてるんだよ・・・」
明らかに困った表情をしている響と凛菜を見て、ボソッとノブが呟く。
「あ、あの・・・・・・試合の意気込み・・・・・・」
誰にも相手にしてもらえない響が凛菜と顔を見合わせていると、ノブがその前に立った。
「・・・・・・あ、ノブ君・・・・・・」
「今日の試合、必ず勝ちます。
大学バスケットプレイヤーとして」
「・・・・・・!」
前回の負けがよほど響いたのか、ノブのその表情は既に本気モードのようだった。
「・・・・・・はい、分かりました。
ありがとうございます」
その想いを汲み取り、響は頭を下げるとレポートにその様子を書きまとめる。
「・・・・・・行くぞ」
「・・・あいよ」
ノブが体育館目指して歩き始めると吉田がそれに続き、その後他の3人も続いた。
「ではお姉さま、また後で」
「え?あ、は、はい・・・」
カズのウインクに少々引きながら2人は悠里ヶ丘OBを見送った。
「・・・・・・ちなみに凛菜」
「はい」
「ノブ君のあの顔は撮ったかしら?」
「思わず撮ってました」
「さすがだわ、トップで使いましょう」
「はい!」
「・・・・・・で、改めて聞くんだが」
「なんだ」
カズがノブに話しかけていた。
「以前戦った高校生6人、そんなに強いのか?」
「高校生じゃないのも混じってるが・・・・・・」
ノブは立ち止まり、カズに向き直る。
「強い。
頭数が揃ってるだけじゃ不利だ」
「・・・・・・ふ~ん・・・・・・」
「だが、今日はこの5人、頭数だけじゃなく実力も揃ってる。
今日こそ負けはしない・・・・・・!」
ノブは力強くそう言った。
カズは・・・・・・。
「やぁ、そこのお嬢さん。
今日これから試合をやるんだ、応援に来てくれるかい?」
「え、あの・・・・・・」
「話を聞け、お前は」
と、カズを連れ戻す時、不意に校門が目に入る。
そしてそこからこちらを見ている6人も。
「・・・・・・!」
「ん?どうした?ノブ」
吉田がカズの視線に気づき、同じく校門に目をやる。
「・・・・・・来やがったか」
「・・・ああ、そうだな」
上松もそれに気づいたようだ。
「んん?ってことはあれが前回の対戦相手か?」
「ああ、そして今回の対戦相手でもある」
野伊の言葉にノブが答える。
校門からノブ達を見ていたのはもちろん周たち6人。
「・・・いるね、ノブさん達」
「大分はしゃいでる様に見えるが・・・・・・」
「余裕だねぇ」
周、竹内、麗奈がそう呟く。
「久しぶりの母校でテンションが上がってるのかもね」
「あう・・・私はむしろテンション低いですよ」
「なんにしても、試合が始まりゃいつまでもはしゃいではいられないさ」
俊介、まろん、海波がそういう。
「みんな」
周が一歩前に出て皆に振り返る。
「今日の試合、勝つよ」
「うん」
「ああ」
「もちろんだ」
「はいです」
「おう」
そろそろクリスマスが近づき、人々がうきうきし始める12月半ば。
悠里ヶ丘高校にて試合が行われる。
周たちの命運をかけて。




