第十四話
「というわけで、またノブさん達と戦うことになりました」
放課後に先生から試合の件を言い渡された周と俊介は、それを公園でいつものメンバーに伝えた。
「・・・・・・そう来たか」
周の言葉に、竹内が微妙な表情を浮かべる。
前回競っていた上松にはほとんど押し負けていたからだ。
とはいえその全てが僅差でなので、全国相手でも十分戦えてはいることになるのだが。
「で、いつ?」
「10日くらい後の日曜日」
「ふむ・・・」
麗奈が日付を聞いて腕組みをする。
「10日くらいで成長するかと言われたらそうでもないけど・・・・・・。
今の実力じゃ不安はあるしねぇ」
せめてもう少し上達してからが良かった。
と考えて、そういえば上達する為に練習場が欲しいんだったねぇと思い至る麗奈であった。
「今度はあの3人と・・・・・・、またかつてのチームメイトさん達が集まるんでしょうか?」
まろんが不安そうにそういうと俊介がなにやらメモを取り出す。
「一応向こうのメンバーの名前だけ教えてもらったけど」
メモには、猪山、高橋、上松、吉田、野伊と5人の名前が書いてある。
「家に帰ったら調べてみるけど・・・・・・多分皆OBだね。
この猪山って人は、確か副部長やってた人だよ」
「ふ、副部長さんですか!」
ただでさえまろんは観客だった人たちとようやく渡り合うというくらいだったのに、敵わなかった3人とさらに旧副部長も参加するとあって動揺しているようだ。
それはまろんに限らず麗奈も竹内もそうだろう。
俊介だって不安はある。
だが、周はただ一人燃えていた。
「なるほど、副部長さんまで参加とは中々手の込んだことをするわね、先生」
「手の込ん・・・ん~、まぁそうかな」
「いいわ、この間の試合は前哨戦として受け取っておきましょう。
そしていよいよフルメンバー!
もう言い訳なんてできないくらいにけちょんけちょんにノしてあげるわ!」
何を根拠にそれほどの実力差を訴えているのか。
ともかく周は自信満々だった。
「あの本気を出したノブさんですら、海波さんが入った私たちには及ばなかったのよ!
今回最初から海波さんが入ってくれれば負けなんて無いわ!
そうですよね!海波さん!」
どうやら自信の源は海波の存在らしい。
くわっ!と海波に向けて、冬だというのに暑くそう告げる周。
それに対して海波は。
「・・・・・・ぐ~・・・・・・」
話に入ってこないと思ったら海波はベンチで寝ていた、冬だというのに。
海波の顔めがけてポーンとボールを投げる周。
当然のように直撃した。
「・・・・・・なにすんだ」
「眠くなるくらい余裕だからって寝ないでください!」
「・・・・・・何が余裕だって?」
ゆらゆらと起き上がる海波にまくし立てる周。
本当に話を聞いていなかったらしく、海波は聞き返した。
「全く海波さんってば、緊張感が無いんだから・・・・・・」
お前には言われたくない、と周囲が思っていることを知らない周はブツブツと文句を言う。
その間に俊介が試合の事を説明した。
「試合?悠里ヶ丘のOBと?体育館を賭けて?
じゃあ負けた方が体育館を失うのか」
「そんなことは言ってません、付け加えないでください」
「ん・・・寝ぼけてたかな」
俊介とそんなやり取りをしながら、海波は軽く首を鳴らす。
「周は海波がいれば勝てるなんて無責任な事言ってるんだけどねぇ」
「海波さんは確かに強いですが、頼り切りはいけないと思いますです」
麗奈とまろんが二人の会話に入ってくる。
それを聞いて海波は小さくため息をついた。
「いくらなんでも一人で勝てるわけが無いだろ。
サシならまだしも・・・・・・」
そう呟いた。
(サシならまだしも・・・って、サシなら全国レベル相手でも勝てるって言うのか?)
その一言に竹内はそんなことをチラッと思った。
そういえば雑誌にも海波の事は乗っていなかったし、出身校も教えてくれない。
正体不明、だが確かに実力はある。
改めて思う、何者なのだろうかと。
と、海波が少し真面目な表情で乗り出してきた。
「・・・向こうのメンバー分かるか?」
「え?あ、はい」
俊介が慌ててメモを渡す。
受け取った海波はじっとそれを見ていたが、やがて興味なさそうに返してきた。
「部長がいないな・・・・・・」
「あ、はい、そうなんですよね」
海波の一言に俊介がそう返事をする。
と、周がそこに飛び込んできた。
「部長がいないって?部長ってノブさんじゃないの?
あんなに強いのに?全国レベルってもてはやされてたのに?」
てっきりノブが部長だと思っていたらしい。
確かに全国レベルと言われ、それ相応の実力は見せられてきたので勘違いするかもしれない。
が、俊介も海波も首を横に振る。
「悠里ヶ丘最強時代の部長は朧田って人だよ」
「おぼろだ?変な名前」
名前にケチを付けるなよ、と麗奈に突っ込みを受ける周。
「大学入ってからはバスケを続けてるという話は聞かないが、朧田の方が実力は上だったはずだ。
他にも国際高帝学院大学とか勇帝大学とか、全国の常連がいるだろ。
全国レベルと一口に言ってもピンからキリまでいるんだよ。
ま、そうは言ってもそこいらの高校生レベルじゃ及ばないくらい強いけどな」
海波はそう言ってベンチから立ち上がると身体をほぐし始めた。
身体を動かす気になったらしい。
ふと、周が声を掛ける。
「・・・・・・ちなみに聞きますが」
「ん?」
「海波さんはどれくらいでしょうか?
ピン?それともキリ?」
その聞き方はおかしいよ、と俊介が心の中で突っ込みを入れる。
後で実際に教えてやらねば。
同時にどうせまたはぐらかされるんだろうな、と思っていた。
仮に答えられても周にはどっちがいい方でどっちが悪い方か分かるまい。
ちなみにピンがいい方である。
海波はしばらく周から視線を外し、やがて口を開いた。
「・・・・・・どうだろうな?
しばらくバスケしてなかったし」
そうでした。
がくっとこける一同であった。
「まぁそれはいい、とにかく練習するぞ。
全員苦手なものを言え」
海波はボールを手にそういうとコートへと入っていった。
一番にそれに続いたのは愛奈だった。
どこから話を聞いていたのだろうか。
「はい、海波先生!
恋二君はしいたけが苦手だそうです!」
「ちょ!何言い出すんだ愛奈!」
それが聞こえたらしい恋二が、慌てて愛奈の元に走ってくる。
「食べ物の苦手は俺にも克服できん。
だがしいたけは毒ではないし、好き嫌いする奴はバスケで上達できないぞー」
「だってさ、恋二くん」
「うるせー!」
愛奈と恋二はじゃれ合いながら去っていった。
一同はそれを微笑ましく見守っていた。
次にそれに続いたのは周だった。
「はーい、海波先生!
ダブルクラッチが上手く行きません!」
「それは左手のシュートでコツを掴んで、後はひたすら練習だ」
「ひたすら練習してます!でも失敗します!」
「確かにひたすら練習するだけじゃ上手くならない。
だがひたすら練習しない奴は絶対に上手くならん。
だからひたすら練習するんだ」
「な、なるほど!では練習します!
さっそくそのボールを使わせてください!」
「使いたければ取っていけ」
「むむ、じょーとーです!そりゃー!」
「なんの」
二人はじゃれ合いながら子供達の群れへと混ざっていった。
俊介はそれを寂しそうな表情で見守っていた。
その肩を、麗奈がポンと叩く。
「あんたも混ざっておいで」
「いや、それは・・・・・・」
「欲しい物は早い者勝ちだよ」
「・・・・・・で、では」
そう励まされた俊介はおそるおそる二人の中に入っていったが、やがてすぐに打ち解けていた。
元々周と仲がいいのだから当然だ。
「・・・まったく、しょうがない奴らだな」
と、竹内が呟きながらカバンからボールを取り出していた。
「ん?何、あんたも持ってきてたのかい」
「さすがに子供達が増えたこんな状況だからな」
そう言ってドリブルをしながらゴールへと向かっていく。
「何の練習する気だい?」
麗奈が聞くと竹内はドリブルをやめてボソッとつぶやいた。
「・・・・・・ダンク以外のシュートの精度を上げようと・・・・・・」
「・・・・・・今更?」
「うるさいぞ、練習を始めたのは最近じゃないしな。
少しはよくなってるはずだ、が・・・・・・」
そこまで言って竹内は麗奈の方に向き直った。
「・・・・・・コツがあったら教えてくれ」
「ひたすら練習しな」
「それだけじゃ上手くならん」
「確かにひたすら練習しても上手くはならない。
でもひたすら練習しない奴は・・・・・・」
「それは応用の話だろ。
基礎を教えてほしいという奴にそんな一言を送らないでくれ」
やがて麗奈はプッと噴き出すと「しょうがないねぇ」と竹内に近寄っていった。
「・・・・・・はっ」
まろんは一人残されていた。
「こ、これはレギュラー落ちの予感です!
まずいです!私も何か練習を・・・・・・。
そうだ!私も重りをつけて練習してみるです!
そうと決まればまずは重りを買わなければ!20kgくらい!」
こうして各々の練習は順調に進んでいく。




