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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第二期
91/102

第十三話

「う~ん・・・・・・」


12月に入ってしばらくした頃、周は一人ベンチで悩んでいた。

とは言っても悩んでいるのが周一人なだけで、他のメンバーや子供達は周囲で練習をしていた。


「周ちゃん、どうしたの?」


それがずっと気になっていた俊介は周に声を掛ける。

周はチラッと俊介の方を見るがすぐにまた頭を悩ませ始める。


「う~ん・・・・・・ちょっと見ただけじゃ分からないかもしれないけど、実は考え事をしていたのよ」

「うん、見れば分かるよ」


以前にも聞いたようなやり取りをしながら、俊介は周の横に座る。


「で、何を考えていたの?」

「・・・・・・しゅんくん、このコートの状況を見てどう思う?」

「どう・・・・・・」


俊介は辺りを見回す。

見ずとも分かるが、コートはいつものメンバーだけでなく、遊びたいだけの子供達も多数占めていた。


「子供達が元気いっぱいに走り回ってるね」

「そうなのよ・・・・・・」


そう言ってまた黙り込む周。


「・・・・・・それがどうかしたの?」

「もー、しゅんくんなら見れば分かると思ったのに!

 これじゃ普通のバスケの練習が出来ないでしょ!?」

「いや、それは気づくのが遅いんじゃない?」


大声を上げる周にそう言う俊介。


この間明工大のノブたちと試合を行なったのは、そもそも自分達がコートをほぼ独占していたことを指摘されたからだったはずだ。

そうして他の子供達を受け入れるようになったからには、それくらいとっくに覚悟をしているはずだと思ったのだが。


「なによぅ、こっちは一生懸命考えてたっていうのに」


周はそういうとプーと頬を膨らませる。

俊介はそれを見てため息をついた。


「でもまぁ、確かにこれじゃねぇ」


と、不意に声がする。

麗奈が後ろから話しかけてきたのだ。


「あのノブって人達と試合できて、海波も練習に参加してきて。

 せっかくやる気が出てきたってのに。

 何て言うんだっけ?モチ・・・・・・なんとか」

「モチベーションですね」

「そうそう、それ。

 モチベーションが上がってきたって言うのに」


せっかくやる気になっても練習が出来ない、それは麗奈もここしばらく感じていたことだった。


ちなみに麗奈がさりげなく海波を呼び捨てにしているが、竹内も呼び捨てにしている。

それは決して彼らが無礼なわけではなく、海波本人がそう呼んでくれと言っての事だ。

そしてさん付けで呼んでいるのは周、俊介、まろん、そして恋二達となっている。



「よし、決めた」


ふと、周が立ち上がった。


「決めたって・・・何?」

「新しい練習場を探しましょう!」


俊介の言葉に、周は元気よくそう答える。

そしてそれを聞いて俊介と麗奈は揃ってため息をついた。


「・・・・・・それができなかったからここで練習してるんでしょうが」

「そうなの?でも私他の場所探したこと無かったよ?」


麗奈の言葉に周はそう返す。

それはそれでどうかと思うが。


「せっかくだから・・・そうだねぇ・・・・・・。

 どこかの体育館を練習場にしましょう。

 そろそろ寒くなってくる頃だし」

「それこそ無理でしょ、っていうかもう結構寒いよ、12月だし。

 未だに半袖シャツとハーフパンツなのは周ちゃんくらいだよ。

 それから僕達はどこかのバスケット協会に所属しているわけでもないんだし。

 仮に所属してても新しく練習場所を提供してくれる所なんて無いよ」

「そんなのやってみないと分からないわ!

 実績はあるんだし」

「・・・・・・実績?」

「市内大会優勝」

「それはそうだけど・・・・・・」

「市長に相談して市の体育館を貸してもらうって言うのはどう?」

「あそこはさすがに遠いよ。

 移動時間を考えたら、この公園がこうなる以前よりずっと練習時間減っちゃうし」

「あーもー!じゃあどうしよう!!」


上手く行かないじれったさに、とうとう周が音を上げた。

かと思うとまたベンチに座り込んで頭を悩ませているらしい。


「・・・・・・この周どうする?」

「・・・・・・満足するまで放っておけば収まると思います」

「よし、決めた!」


麗奈と俊介がそんな会話を交わしていると、再び周が立ち上がる。


「今度は何?」

「学校の体育館を借りましょう!」

「だから無理だって・・・・・・」


再びため息をつく俊介。


「無理なんて言わないの!

 何事も急がば回れよ!

 何でもやってみなきゃ!」

「・・・・・・言ってることがメチャクチャだけど」

「早速明日先生に言ってみるのよ!」

「・・・・・・はぁ・・・・・・」


俊介のため息など気にしないかのように、周は一人燃えていた。


「・・・・・・満足するまで付き合ってやりな」

「・・・・・・はい・・・・・・」


麗奈の言葉に俊介は力なく頷くしかなかった。




「というわけです先生!」


ホントに言いに行ったよ、とため息をつく俊介。

翌日の放課後、周は担任の影山先生を捕まえて「バスケの練習の為にこの学校の体育館を借りたいのです!」と告げたのだった。

突如押しかけられた先生は始めポカーンとしていたが、次第に話を飲み込んでいったらしい。


「・・・・・・なるほど」

「分かっていただけましたか!先生!

 では早速手続きを!」


影山先生の相槌を都合よく受け取った周はここぞとばかりにまくし立てる。

が、そうたやすく言いくるめられる先生ではなかった。


「そうあっさりとOKを出すわけには行きませんね」

「ぐぬっ!」

(だから言ったのに・・・・・・)


一応付き添ってきた俊介だが、未だに周に助けを出すべきか止めるべきか決められずにいた。

結果、横から心の中でツッコミを入れるだけに留まっている。


「そうですねぇ・・・・・・手が無いわけではないと思うのですが」


と、先生がボソッと漏らした。


「ほ、本当ですか!?」


早速食いつく周。

だが何をするというのだろうか?

俊介が聞いてみる。


「先生、手が無いわけではないってどういうことですか?」

「ええ、以前までバスケ部があったのはご存知でしょう。

 それをまた復活させるというのでしたら無理ではないかと」

「な、なるほどー!」


先生の話に周は喜ぶ。

が、俊介は何かと不安でいっぱいだった。


「でも人数とか・・・・・・」

「男女合わせて5人もいればいいでしょう」

「男女合わせて?

 男子バスケと女子バスケで分けないんですか?」

「表向き分けます。

 でも人数が少ないと合同で練習するというのは割りとある話なんですよ」


確かにそれは聞くかもしれない。


「それならもうバスケできるも同然だね!

 メンバーは私、しゅんくん、麗奈ちゃん、竹内君、まろんちゃ・・・」

「ちょ、待って周ちゃん」


指折りメンバーを数える周を慌てて止める俊介。

そして文句を言う周を横目に影山先生に確認を取る。


「ち、ちなみに学校外の人を入れるというのは?」

「学校外?部外者ですか。

 それは厳しいでしょうね」

「な、なんでですか!」

「いや、当然でしょ。

 問題とか起きた時に責任負うのは・・・」


先生の言葉に怒り出す周をたしなめる俊介。

だがそんなことで周は収まらなかった。



「問題なんて起きません!

 それに部外者でもありません!

 皆私の仲間です!!」



周は先生をまっすぐに見つめ、そう言った。


「周ちゃん・・・・・・」


俊介が声を掛けるが、周は先生を見つめたまま。


やがて先生は頭を掻きながら視線を外した。


「・・・・・・仕方の無い生徒ですね」

「・・・・・・」


さすがに普段温厚な先生といえども、これだけの無茶な要求には怒ってしまっただろうか?

俊介は怒鳴られるのを覚悟した、が。


「一応上に相談してみましょう。

 期待はしないでいてくださいね」


意外にも先生はあっさりと折れた。


「あ、ありがとうございます!」


周がペコッと頭を下げる。

俊介も慌てて頭を下げた。

やがて先生の姿が見えなくなると、周は俊介の手をとって喜んだ。


「やった!やったよ!しゅんくん!」

「あ、うん、やったね」

(え?いや、ホントに?

 部外者を交えて部活させてくれるなんてありえない要求なのに・・・・・・なんで?)


先生の姿を見送っても、俊介の頭からはそんな疑問が離れなかった。

だが、喜んでいる周を見ていると自然と嬉しくなる。


そう、彼もバスケができるのが嬉しいのだ。




4、5日が経過した。


「では、HRはこれで終わります」

「起立、礼」


影山先生の一言を聞いて、恵が号令をかける。

これで学校の授業は終わりだ。

クラスの皆は荷物をまとめ、各々放課後を過ごす。



「斉藤さん、林田君、ちょっといいですか?」

「はい?」

「あ、はい」


周たちもいつものようにバスケの練習へと向かおうとしていたが、今日は先生に呼び止められた。

何事かと先生へと近づく二人。

が、思い当たることが一つある。

なにせ言い出しっぺはこの二人なのだから。


「この間の件、決まりましたよ。

 細かく伝えたいのですがここでは何なので、資料室にでも行きましょうか」

「「はい」」


二人は揃って返事をして、先生の後についていく。

そして資料室の前まで来ると、先生は鍵を開けて二人の方を向く。


「では、中で少し待っていてください。

 私は荷物を置いてから戻ってきます。

 5分もかかりませんので」


そう言って職員室へと向かって行った。

周と俊介は言われたとおり資料室に入る。


「しゅんくん、この間の件ってやっぱり体育館の話だよね?

 しかもわざわざ細かく伝えたいってことは・・・!」

「そうだね、OK出たんだとおもうよ」

「やっぱり?やった~!」


周は大げさに喜ぶ。

いや、多分本当にそれだけ嬉しいのだろう。

俊介はそれを微笑ましく見ていた。


すぐに先生は戻ってきた。

手にはなにやらファイルを持っている。


「お待たせしました。

 では早速話に入りましょうか」


そう言って先生は周と俊介に椅子を勧める。

二人は言われたとおり椅子に座った。

先生もその向かいに座る。


「まず体育館の件ですが。

 何とか説得して条件付でOKを頂きました」

「ありがとうございます!」


先生のその一言が出た途端にペコリと頭を下げる周。


「条件付というと・・・・・・?」

「ええ、その条件を満たしてもらえれば体育館を使ってもらって結構というものです。

 もっとも他の部も使用していますから、間を見つけて全面、もしくは半面貸してもらうという形になりますね」


俊介の質問に説明を加える先生。

半面というのは他の部と同じ時間に体育館を半分ずつ分けて練習するということだ。

この辺り特に説明は不要だろう。


「で、条件の説明に入りましょうか。

 条件はただ一つ、こちらが用意したメンバーと試合をして勝つことです」

「試合ですか?」


俊介が聞き返すと先生は頷く。


「強い人たちを用意してますよ。

 そのメンバーにあなたたちが勝てるようなら練習場を提供しましょう、というお話です」

「なるほど!」


周が元気よく頷く。

体育館を提供してもらえるのが嬉しいことに加えて、試合で決めるというところに燃えているらしい。


「条件に不満は?」

「無いです!」


先生の質問に即答する周。

俊介も特に異論は無い。

その相手メンバーが気になるところではあるが。


「ありがとうございます。

 試合の場所はこの学校の体育館です。

 日付は来週の日曜日」

「来週の日曜日というと・・・・・・」

「今からだと・・・・・・10日後、ですか」

「分かりました」


先生の説明に納得した俊介が頷く。


「それでですね、試合の日まで空いている時間体育館の使用を許可しますので。

 事前に言っていただければ明日にでも体育館で練習できますよ」

「わ、ありがとうございます!」


事前に体育館での練習も出来るとは。

待遇が気に入ったのか、周は一段とご機嫌になる。


「わざわざそこまでしていただいてありがとうございます」


俊介はお礼を言いながら頭を下げる。

周も一緒に頭を下げる。


「いえいえ、これはこちらのメンバーからの要望ですから」


先生は笑顔のまま言葉を続ける。


「公園の地面に慣れられてていざ体育館で転ばれたら興ざめだと」

「やだな~、先生そんなこと無いですってば」


周は笑顔で返す。

が、俊介は引っかかるものを感じた。


「先生、メンバーからの要望というと・・・・・・僕達が試合をする相手が言ってた、ってことですか?」

「ええ、そうです」


俊介の言葉を肯定する先生。


「・・・・・・どうしてその人たちは、僕達が公園で練習してるって知ってるんですか?」

「・・・・・・え?」


その一言に、周もようやく疑問を感じたようだ。

先生は笑顔のまま答えた。


「彼らがあなたたちの事を知っているということですよ。

 ああ、あなたたちも彼らの事は知ってますよね」


そう言ってようやく持ってきたファイルに手を掛けた。

出てきたのは雑誌、「月間バスケットNEWS」。

その一ページを広げる。


「この日、対戦しましたよね?

 高橋、上松、吉田の三人と」


まさか、と俊介の頭に予感が走る。


「もう一度戦ってもらいます。

 今度はさらに二人加えて」




数日前、悠里ヶ丘高校を訪れる一人のOBがいた。

あの高橋展也だ。

今やバスケ部が無いこの学校でバスケット選手に詳しい生徒などほとんどいないだろうが、それでも有名人であることに変わりはない。

突然現れた有名人に、彼を知っている生徒から驚きの歓声が上がる。

そんな人ごみを軽くいなして、ノブはとある教室へと向かった。


ガラガラガラ


ドアを開けると、中にいたのは一人の教師。

周達の担任、影山修治先生だ。


「やぁ、久しぶりだねノブ」


そう声を掛けられたノブは頭を下げた。


「お久しぶりです、監督」


先生は笑顔のまま、そして顔を上げたノブは真面目な表情のままやり取りを続ける。


「大学バスケでの活躍聞いてますよ。

 全国区にまでなるとは思ってもみませんでした」

「ありがとうございます」

「ところで、ノブ。

 君も知っての通り、今この学校にバスケ部はありません」

「はい」

「にもかかわらずこの学校にやってきたバスケが大好きな生徒たちが、この学校の体育館でバスケをしたいというのですよ。

 しかも学校外の部外者も混ぜてね」

「・・・・・・・・・」

「斉藤周という生徒なんですけどね。

 私がクラスの担任をしています」

「・・・・・・・・・監督、それで俺にどうしろと?」


なんとなく話は読めたがそれでもそう聞くノブ。

先生はフッと笑い、話を続ける。


「当人達に話を通す前に上を説得してしまったのですが、無理にとは言いません。

 部外者も交えたバスケ部の再設立に上が出した条件は一つ。

 最強時代のOB、つまりあなたたちと戦って勝つことです」

「・・・・・・という風に説得したのですか」

「ええ、まぁ。

 最強時代のOBにも勝てるようなメンバーがうちの学校から現れたとなっては一大事です。

 練習場所を提供しなくては宝の持ち腐れもいいところですからね」


そしてノブの前に雑誌が差し出される。


「この間、うちの生徒と試合をしたそうですね」

「・・・・・・はい・・・・・・」

「斉藤周さんですね」

「・・・・・・はい・・・・・・」

「負けたそうですね」

「・・・・・・はい・・・・・・」


「リベンジと思って受けてはもらえませんか?」


影山先生の言葉に、ノブは答えた。



「・・・・・・受けて立ちましょう」



2話に分ける予定だったけど、キリが悪いので一つにまとまっています。

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