第十二話
「2週間ぶりだな。
ここにくれば会えると思ってたんだが・・・・・・時間がな」
ドリブルをしながら海波はそう言う。
と、その後ろから子供がそーっと近寄ってボールに手を伸ばす。
が、それを察していたらしい海波はパッとかわすとゴールに向かってシュートを放つ。
シュートはリングに当たって跳ね返り、ゴール下近くにいた子供の手に渡った。
そのまま子供がシュートを打つと、ボールはリングを通過した。
「やったー!」
と子供達の声が上がる。
「どうした?
そんなとこにいないで荷物置いて練習入れよ」
コートの入り口で固まっている周と俊介に笑顔でそう言う海波。
あなたのせいなんですけどね、とは言えず、俊介は固まっている周をベンチまで連れて行った。
「しゅ、しゅ、しゅんくん、今、何かいたよ?」
「何かっていうか、まぁ、確かに何かいたけどね」
まだ微妙に固まっている周の言葉に返事をする俊介。
少し不機嫌そうだ。
無理も無い、愛しの周を抱きしめた自分以外の男が目の前にいるのだから。
「か、海波さんだよ、しゅんくん。
海波さんに会えたよ、あは、またバスケできるよ!」
そんな俊介の心情を知らない周は次第にテンションが上がってきたようだ。
荷物を置くとボールを手に、読もうと言っていた雑誌の事も忘れて海波の元へと走って行ってしまった。
その様子を見て俊介は小さくため息をつくのだった。
「海波さん、練習に混ぜてくださいませ」
「おう、っていうか元々お前達の練習場だろ」
「そうでした、ふふ」
周と海波はなにやら仲良さそうに話していた。
2週間前に1日共に試合をしただけだというのに。
「もしや今日までずっと私たちの事探してました?」
ポーンとボールを投げながらそう聞く周。
「いや、そういうわけじゃない」
海波はボールを受け取るとドリブルしながら答えた。
「バスケットマンの身体に戻してた」
それを聞いて周がにこっと笑う。
「・・・ということは、あの試合の日よりもレベルアップしてるって事ですね」
「ま、現役だった頃に及ぶかどうかだがな」
海波がそう答えた直後、周が駆け寄って海波からボールを奪おうとする。
海波はスッと身体を引いてそれを回避する。
「試させてもらっても?」
「聞く前に行動するなよ」
両者はそう言ってフッと笑う。
そしてボールを奪おうとする周と、回避を続ける海波のバトルが始まった。
「・・・・・・で、それどれくらい前の話?」
ダムダムダムとコートを狭しと走り回る周と海波を眺めながら麗奈が俊介に聞いた。
「10分・・・は経ってないですけど」
俊介も二人に視線を向けたまま答える。
周が身体を左右に振り、ボールに手を伸ばしたり。
海波がわざと隙を作り、周が手を伸ばしてきたところをターンでかわして距離をとったり。
それでも重りがついていると思わせないようなスピードで周がすぐに追いついて、海波の動きを牽制しながら隅に追い詰めようとしたり。
フェイクや突然の加速、停止で海波が周を振り払ってみたり。
どちら側に攻め込む、という取り決めも無くくるくると身体の向きを入れ替えてのボールの取り合いは始めこそ小規模だったものの、次第に子供達が巻き込まれないようにと身を引いていって、今ではコート全体で行なわれていた。
「・・・・・・んで、そのまま10分も?」
「はい」
再び口を開く麗奈と俊介。
「10分もボールの取り合いしてたら1クオーター終わっちゃうじゃない」
「まぁ、そうですけど」
「何?二人の実力はそこまで拮抗してるの?」
「いえ、周ちゃんは重りつけてますし。
多分海波って人の方が周ちゃんに合わせて加減してるんじゃないかと」
「はぁ~、周相手に加減ねぇ」
今の周の動きはとても重りをつけているとは思えないほどだ。
それだけ周がいつも以上に体力を使っているということかもしれないが、しかしそれを相手に立ち回っている海波はやはり相当な実力者だろう。
しかも俊介に聞けば、今まで一度も周にボールが渡っていないという。
「・・・・・・マジに何者?
しゅん、アンタ何か調べてないの?」
「調べるって・・・・・・。
僕は別に情報屋じゃ・・・・・・あ」
と、そこで俊介は買ってきた雑誌を思い出したのだった。
鞄からそれを取り出す。
「何?」
「この間の試合の事が載ってる雑誌です。
今日発売。
詳しく見てないですが、あの海波さんの事が載ってるかも知れないですよ」
「じゃ、見てみようよ」
俊介が雑誌を広げてページをめくると、麗奈が覗き込んでくる。
と、ズシャーと音が聞こえた。
「いたたた・・・・・・」
コートを見ると周が転んでいた。
足がもつれでもしたのだろう。
「おいおい、大丈夫か?」
海波がドリブルをやめて手を差し出す。
「ふぃ~・・・・・・、さすがにちょっと疲れました」
周は手を借りて立ち上がる。
「あ、ちなみに今の勝負は海波さんのトラベリングで私の勝ちですよ」
「ほう、大した屁理屈だな。
顔にボールでもぶつけてやればよかったか」
周の言葉に海波がそう返すと、周は自分の顔を守るべくあわてて両手を上げたのだった。
「・・・周が転ぶなんて珍しいね」
「あれから重り増やしたみたいですよ。
まだ慣れてないんじゃないかと思います」
「なるほど。
確かにあの周が素で転ばされたとすると、あたし達じゃ手に負えないレベルになりそうだからねぇ」
「・・・・・・」
麗奈の言葉に俊介は黙ってしまう。
確かにそんな実力者だったら自分達が挑んでも勝てないだろう。
でもそれだけの実力者と練習をしていれば、今まで以上に成長ができるかもしれない。
だが、そうなればもしかしたら周は、自分に実力が及ばない俊介達よりも海波を練習相手に選ぶようになるだろう。
そうなったらやがて個人練習とか始まって自分達の目の及ばないところで密会とか始まって、そしてやがて周は俊介そっちのけで海波に惹かれ始めてそのうちいい感じになった二人は人目の及ばないところで別の練習を始めてしまうことになるかもしれない!?
「おーい、しゅん?聞いてる?」
「え、なんですか?」
想像が広がりすぎてしまっていたらしい、いつからか麗奈が自分を呼んでいたようだ。
「いや、だからさ。
あの海波って人の事、雑誌に載ってるかって」
「あ、そうでした」
雑誌のページをめくる動きが止まってしまっていた。
俊介は慌てて再開する。
「ん~と・・・・・・ありました」
「どれどれ」
俊介が大きくページを開くと、そこにはページ半分を占めるノブのドアップ顔と反対側のページに自分達の写真が何枚か載っていた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
ノブを贔屓しているのはなんとなく分かっていたが、ここまで扱いに差が出るとは。
思わずポカーンとしてしまう二人。
しかし文章の方はそこそこ平等に書いてくれているようだ。
読み用によっては、であるが。
「「11月16日、高橋展也率いる日本明工大学チームとに地元の高校生チームが挑み、45-50で日本明工大学チームが惜しくも敗れた」。
・・・・・・向こうのチーム視線ですね・・・・・・」
いつもこんな調子なのであろうか?
読んでいくと相手チームから多少不満の声が上がりそうなところがいくつかあった。
「・・・・・・あ、僕達の事も書いてありますね」
俊介が文章の一部を指差す。
「「後の調査で高校生チームのリーダーを務める少女は斉藤周(16)と判明。
彼女は何と高橋展也たち3人の母校、悠里ヶ丘高校に所属する後輩であった。」
へぇ~、名前しか教えてなかったんですけどね」
「ちゃんと調べられてる辺り優秀な諜報部でもいるのかねぇ?」
「いや、別に諜報部なんていなくても。
周ちゃんはバスケ上手いし特徴ある髪の毛ですから、中学バスケまで遡ればすぐに分かると思いますよ」
「あ~、そうか。
まだ去年の話だったねぇ~、いや懐かしい。
あたしと県大会準決勝で戦って、決勝まで行ってたんだよねぇ?」
「ええ、決勝で残念ながら、という結末に・・・」
しみじみと思い出すように話す二人。
「・・・・・・で、あんたとあたしの事は?」
「え~と・・・・・・、ちょっと待ってください。
あの高橋さんのことがずいぶん長々と・・・・・・。
え~・・・・・・と・・・・・・あった、麗奈さんも書いてありますね。
「見た目は変わっていたが、去年県大会準決勝まで進んだ水ノ瀬中のキャプテンであったらしい。」と」
「確かに見た目変わってるけど」
俊介の読み上げた文章に苦笑いする麗奈。
「僕は一応中学の頃いいところまで進みましたけど、別にキャプテンとかやってたわけでもないですし。
・・・・・・名前と学校名だけですね」
「竹内の事は?」
「バレー部に所属してたって言ってましたからね、書いてないかも・・・・・・あ、あった」
「どれどれ」
「「中学まではバレーをやっていたらしい竹内祥吾」って。
そういえば夏休み前の市内バスケット大会にも出てましたからね、僕達も。
どこで知ったのか観客から名前も呼ばれてましたし」
「・・・思ってたよりも知名度あるのかねぇ、あたしたち」
麗奈が嬉しそうに言うと、俊介も「そうかもしれませんね」と答えた。
「で、まろんは?」
「まろんちゃんは・・・・・・ちょっと書いてないですね。
この「結城まろんという少女はまだ中学生であるらしい。」くらいの一言しかないですね」
「あらら、残念。
・・・・・・それで?」
「ええ、海波さんは・・・・・・」
俊介は文章を指で辿っていく。
が。
「・・・・・・活躍の事は書いてありますけど、それ以上の詳しいことは何も」
「・・・・・・え?なんで?」
「調べがつかなかったってことですかね?」
俊介の言葉に、はぁ、とため息をついてベンチに背も垂れる麗奈。
「・・・・・・なんだい、肝心なところで役に立たない」
(それは言いすぎじゃ・・・・・・)
「よう、何だ?公園まで来て雑誌とは」
ひょっこりと雑誌を覗き込んできたのは海波だった。
「海波さん・・・」
「ん?この間の試合の事か?」
「あ」
俊介の手から雑誌をひったくるとその文章に目を通していく海波。
やがて小さく噴き出したようだ。
「なんだこりゃ、結構偏った文章だな」
「ま、まぁ、読み方によっては平等にも取れますよ」
「そうだが、普通に読めば明工大寄りだろ。
しかしまぁ、高橋展也も人気者だからな、メインに押し上げたくなる気も分かるが」
そう言って海波は俊介に雑誌を返し、コートへ戻っていった。
「あの、海波さん」
「ん?」
「・・・・・・雑誌にも詳しいことが書いてなかったんですけど・・・・・・。
海波さん、どこの高校出身ですか?」
「地元じゃねぇから、言っても分かんないだろ」
「言うだけ言ってみてくださいよ」
せめて学校名が分かれば、と思っての事だったが海波は答えなかった。
「・・・・・・秘密だ」
人差し指を口元に当てながらそう答えた。
「・・・・・・別に可愛くないよ」
「・・・・・・え?いや、別に可愛くやったつもりは無いが」
麗奈の突っ込みにキョトンとする海波であった。
と、不意に今度は海波が聞いてきた。
「あ、そうそう、二人とも名前教えてくれるか?」
「え?あ、瀬戸内麗奈だけど」
「林田俊介です」
「麗奈と俊介か。
OK、忘れたらまた聞く」
「忘れんなよ・・・・・・」
海波の言葉に苦笑いを浮かべる麗奈。
「そんときゃ謝る。
これから俺もここで練習するからよろしく頼む。
リーダーの認証は取ったから」
そう言って周の元へ戻っていく海波であった。
「・・・・・・は?」
「・・・・・・え?」
しばらくして今海波が言った言葉の意味を理解した二人は、周に詰め寄るのであった。




