第十一話
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
授業の終わった放課後、教室でため息をつく二人、周と俊介。
そしてその様子を何事かと眺めているクラスメイト達。
特に彼らと親しい友人達は心配そうに、と思いきや笑顔で眺めていた。
「どうしたのかしらね?あの二人」
「さぁ、どうしたのでしょうね?
気になりますね~、近藤さん?」
「・・・・・・どうして私に振るのかしら」
野澤さん、凪さんが恵に笑顔で語りかける。
それに反して不機嫌そうな恵。
凪さんは笑顔で言葉を続けた。
「その事情は詳しく説明すると近藤さんが爆発しそうなので、「クラス委員長として」ということにしておきますけど」
「な、なにかしら?そのいかにも「気を使ってあげるわよ」みたいな言い方は」
「まぁまぁ、今回のお話はそこではないので」
「そうそう。
詳しく話したかったら後でいいんちょだけに、改めて!じっくりと!話してあげるからさっ!」
「・・・・・・」
とぼけるのも話をそらすのもよろしくないと判断したのか、いいんちょはそれっきり黙ってしまった。
野澤さんと凪さんもこれ以上追及しては本題からそれると思い、話を戻した。
「・・・・・・で、ですね。
斉藤さんと林田君のお話なのですよ」
「二人揃ってため息なんかついちゃってさ、何かあったのは明白じゃない?
何があったのか気になるな~、って話よ」
「知らないわよそんなの。
ケンカでもしたんじゃないのかしら?」
二人の言葉にプイッと顔を背けながらそう返す恵。
「まぁ、確かにケンカくらいあるかもしれませんけど・・・・・・」
と、凪さんが二人をチラッと見る。
「・・・・・・あ、周ちゃん。
そろそろ行こう?」
「あ、うん、そうだね」
俊介の言葉にスクッと立ち上がる周。
そして二人揃って教室を出て行った。
しばらくして教室の窓から外を眺めると、二人並んで下校しているのが見える。
「・・・・・・仲が悪くなった、って訳でもないみたいなのよ」
「あのように揃って下校していますし、一緒に勉強もしているみたいですし」
「それはもう他の人の入る余地なんて無いくらいに」
そう言ってチラッと恵を見る二人。
恵は何か言い返そうとしたらしいが、腕組みしながら顔を背けただけだった。
「そんなに気になるなら聞いてみればいいじゃない」
「うわ、デリカシーないわ~」
「デリカシーないですね~」
「か、勝手に色々詮索してる方がよっぽどデリカシー無いわよ!」
ガー!とわめく恵であった。
日本明工大所属、ノブ、上松、吉田と試合をしてからおよそ2週間が経とうとしていた。
試合に勝った後、多くの観客達に囲まれる中、インタビューと称して記者の北本響、峰岸凛菜と名乗る二人に取材を迫られた周たちであった。
「すみません!日本明工大所属ノブく・・・じゃない、高橋展也選手を始めとする大学バスケに勝てた感想を一言!」
「・・・・・・・・・」
「え、あ、う・・・」
話しかけられたが、周は相変わらず右手を上げた状態で固まっていたし、俊介もしどろもどろだった。
仕方なく麗奈と竹内で何とか受け答えしてその場を納めた。
一通り話し終えると記者の二人は。
「ごめんね~、ノブ君。
あなたを蔑ろにしていた訳じゃないのよ。
残りのページは全てあなたに当てるから許して~」
「そ、それなら私のフィルムも残り全部ノブ君に当てますぅ!」
などと言いながらノブに擦り寄っていた。
ノブは一応笑顔であったが、複雑な心境であっただろう。
海波は人ごみに紛れていつの間にか姿を消していた。
それ以来公園にも来ていないし、会ってもいない。
そして俊介の様子がおかしくなったのはその日からであった。
と言っても理由は明白だろう。
(周ちゃんを他の男が抱きしめた・・・・・・周ちゃんを他の男に抱きしめられた・・・・・・周ちゃんを他の男が抱きしめた・・・・・・周ちゃんを他の男に抱きしめられた・・・・・・)
口にしているわけではないが、何度もそう思いながら爪をかじる始末であった。
もっとも血が出ないように加減している辺り、本気で落ち込んでいるのかは分からないが。
一方の周も抱きしめられたショックで・・・・・・というわけではなかった。
俊介の様子がおかしくなったというのに、その元凶である周はケロッとしていた。
バスケの練習も生き生きと参加している辺り、あの日の試合が本当にいい刺激になったようだった。
が、共に試合に参加した海波が全く姿を現さないのが気に入らなかったらしい。
(・・・・・・また一緒に試合したいな~・・・・・・。
せめて練習だけでも・・・・・・はぁ・・・・・・どこ行っちゃったんだろう?)
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・で、今に至ると」
「ああ、そうだな」
その日の練習後、周と俊介、まろんと恋二達を見送った後に麗奈と竹内はここ2週間を振り返ってそうまとめた。
「・・・・・・結局誰だったんだろうな?あの男」
「知らないよ。
道端にいたのをたまたま声掛けただけだって言ったろう?」
「それはそうだが。
知ってるのは結局名前と・・・・・・年齢、か?」
「名前が・・・・・・えと・・・海波。
・・・なんとか・・・・・・何て言ったっけ?苗字?」
「忘れた。
それから年は18って言ってたな。
この時期で高校卒業済みってことは大学生か」
「まぁ、大学に行ってるとも限らないけどね」
二人はあれこれ憶測するが結局正解は分からない。
本人に会って聞くのが一番だろうが、次に会えるのはいつであろうか。
雑誌の記者に彼の事を聞かれたとき、その名前と年齢だけは伝えたので、何か分かれば雑誌に載るかもしれない。
と、それに期待するくらいしかできなかった。
「はぁ・・・・・・早いとこ戻ってもらいたいよ、二人にはね」
「全くだ。
あのため息が感染しちまうよ」
出かけたため息を飲み込み、二人は別れたのであった。
それから数日後、あの試合から2週間が経った11月30日、日曜日。
ピンポーンと斉藤家のチャイムを鳴らしたのは俊介であった。
がちゃりとドアを開けて周が現れる。
「しゅんくん?どうしたの?
練習はお昼の後にしようって・・・・・・」
「あ、うん、そうなんだけど。
ちょっと本屋に寄って行こうと思ってさ。
よかったら一緒にどうかな・・・と・・・・・・」
「本屋さん?何か新しい漫画でも出るの?それとも小説?」
「いや、バスケの雑誌」
「おー、じゃあ行く。
ちょっと待ってて」
そそくさと準備を済ませて家を後にする周であった。
途中の本屋で俊介が購入しようという本は、とある会社が出版しているスポーツ雑誌だ。
「月間バスケットNEWS」という雑誌を手にレジへ向かう。
「・・・・・・あれ?しゅんくん、いつもの雑誌と違う?」
「うん、ちょっと興味があってね」
会計を済ませながら返事をする俊介。
購入した雑誌は鞄にしまって、改めて二人で公園を目指す。
道中で俊介は雑誌のことを周に話した。
「ほら、この間の試合の時に記者の人から名刺貰ったじゃない?」
「貰ったっけ?」
「・・・・・・えと、僕が受け取った。
で、その人たちが出してる雑誌がこれ」
「へ~。
取材受けたから気になるってとこ?
そう言われると私も気になるな~」
「まぁ、自分達のことって言うか・・・・・・」
分かってないのかなと頭を掻きながら俊介は言葉を続ける。
「あの海波って人の事」
「・・・!」
その言葉に周の身体が小さく跳ねる。
やはり気になっていたらしい。
「・・・・・・しゅんくん、その雑誌読ませて」
「公園に着いたらね」
周の言葉に俊介が素っ気なく返すと、周は俊介の鞄をグイッと引っ張った。
「読みながら行く」
「だめ、危ない」
「じゃ、しゅんくんが前見てて。
私が読んでるから」
「そういう問題じゃないでしょ、僕だって読みたいんだよ」
俊介にそう言われて、周はふと立ち止まった。
「・・・・・・じゃあ」
「・・・?」
「走っていこう。
早く公園行って早く読もう!」
「・・・・・・確かに」
そしてどちらが合図するわけでもなく、二人は走り出した。
「私の勝ち!」
先に公園に着いたのはやはり周であった。
それからわずかに遅れて俊介が到着する。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・ダメだったか・・・・・・」
「ふぅ、残念でした。
さ、しゅんくん、早く読もうよ」
周はコートの方へと俊介を急かす。
はいはい、とコートへ向かう途中でふと俊介は周に聞いてみた。
「ねぇ、周ちゃん。
もしかして今も重りつけてるの?」
「うん、付けてるよ」
あっさりと答えが返ってくる。
なるほど、いつもより息が上がってるような気がしたが。
それでも勝てないのか、と俊介が少し落ち込んでいると、周の足首になにやら巻いてあるのが見えた。
「・・・・・・その足首のは?」
「これも重り。
あのノブって人に対抗すべく増やしてみました」
「・・・・・・」
開いた口が塞がらない俊介。
通りで今日は僅差だと思ったら。
そう言えばあれ以来かは分からないが、近頃練習中の動きが鈍かった気もする。
「・・・・・・それ、どこで買ったの?」
「近くのスポーツ店。
多分しゅんくんも知ってるお店だよ」
「へぇ」
確かに利用しているスポーツ店は近くにあるが、重りを買いに行ったことはなかった。
なるほど、今度探してみようと思った俊介であった。
コートに近づくと声が聞こえる。
多分子供達が遊んでいるのだろう。
いつものメンバーも混じっているかもしれない。
「しゅんくん、今日は誰が来てるかな?」
「いつもより少し早いからね。
子供達だけじゃないかな?」
「恋二君たちは込み?」
「無しで、と予想するよ」
「ほほう。
なら私は麗奈ちゃんが来ていると予測するよ」
二人で勝手なことを言いながら金網に囲まれたコートへと入っていった。
「やーやー、皆。
今日も頑張ってるかい?」
周がしゅたっと右手を上げながらそう言うと。
「おう、頑張ってるよ」
と返事があった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
薄手の黒い長シャツを着た海波が子供達と練習をしていた。
予想外。
周は右手を上げた状態で固まった。




